資料編 2 : "911" 以降の米軍予備役動員状況 (〜2008/6)
 

米国防総省は、"911" 以降、予備役の動員状況を公表している。
最初に予備役の動員を公表したのは、2001/9/23 (EST) のこと。当初は毎日のようにバラバラに公表されていたが、2001/10/8 以降は原則として週に 1 回、定期的に全軍の動員状況と前回との変化を明らかにしている。

通常、国防総省が発表する文面では、軍種ごとの動員人数と前回公表時からの変動しか書いていないので、全体的なトレンドを把握するのが難しい。そこで、公表されているデータを基にして、これまでの推移をグラフにまとめてみた。

なお、ここまでの公表データには志願動員を含んでいない。2008 年 6 月から志願動員を含む形になり、これまでのデータとの整合性がとれなくなってしまったので、この段階でひとまず切ることにした。

更新履歴 :
初出 : 2005/7/17
改訂 #1 : 2006/5/4
改訂 #2 : 2007/9/2
改訂 #3 : 2008/6/20


Part I : 軍種別の動員状況

まず、陸軍・海軍・空軍・海兵隊・沿岸警備隊のそれぞれについて、個別に動員人数の推移をグラフ化したものを示す (クリックすると拡大)。ニュースだけ見ていると、常に予備役を大量動員しているかのようなイメージがあるが、こうして数字の推移をまとめてみると、いくつかのピークと谷間が存在することが分かる。

予備役動員状況 (軍種別)

最初に動員が始まったのは陸軍だが、これは州兵が空港などの重要施設を警備するためと推測される。その後、アフガニスタンでの軍事作戦実施に備えて、他の軍種にも動員を拡大した。

2001 年秋から 2002 年夏にかけての、いわゆる OEF (Operation Enduring Freedom) でタリバン政権打倒を進めていた時期には、一貫して陸軍の動員人数が空軍のそれを下回っている。この傾向と、作戦開始直前に JP-8 ジェット燃料の発注が相次いだことから、OEF 開始当初に「空軍による航空作戦主体、大規模地上戦の予定なし」と予測したが、実際その通りになった。

そして、2002 年 7 月末から空軍の動員規模が急減、陸軍のそれを下回った。アフガニスタンでの作戦に一応の目処がつき、治安維持フェーズに移行した状況を反映したものだろう。陸軍も、同年 10-11 月にかけて、動員規模をかなり減らしている。

その後、一挙に動員が進んだのが、2003 年の 1-3 月。いうまでもなく、OIF (Operation Iraqi Freedom) に備えたもの。特に、陸軍の動員規模は一挙に 5 倍ほどに膨れ上がっている。フセイン政権崩壊までは空軍や海軍、海兵隊の動員も増えているが、治安維持フェーズに移行した後は再び減少している。

陸軍の動員規模も 2003 年 10 月にかけて急落しているのだが、治安が安定しない状況を受けたものか、OIF 開始当初を上回る動員を実施、最大値は 165,086 人 (2004/1/21) を記録している。翌年の 2005/1/26 にも 164,208 人を記録しているが、ギリギリでトップになりそこなった。

2004 年には、3 月から 4 月にかけて、第一次 Fallujah 掃討戦や Sadr City での戦闘などがあった。同年 8 月には Najaf 攻防戦もあったが、この時期には動員規模が落ち込んでいる。同年 11 月には第二次 Fallujah 掃討戦があったが、この時期には動員が増えているものの、ピークとは合致していない。もっとも、動員された兵士が直ちに戦場に送られるかというと疑問もあるので、妥当なところかも知れない。

初出時の 2005 年 7 月に、特に陸軍で 3 回目の急減が発生している。続いて、2005 年後半から 2006 年初頭にかけて少し増えたものの、その後はおおむね減少傾向が続いた。これが大きく変動したのが 2007 年の 5-6 月にかけての増加で、例の 5 個旅団増派に関連する動きと考えられる。これら 5 個旅団は 2008 年 7 月までにすべて撤収するため、7 月以降にその影響が出てくる可能性もある。

陸軍の人数が突出していて他の軍種の変動が分かりにくいため、陸軍以外のものについて抜き出したのが以下のグラフ。

予備役動員状況 (陸軍を除く)

陸軍以外の軍種はというと、2003 年 10 月から 2004 年 3 月にかけて、空軍に動員規模減少の踊り場がみられる。しかし、その後はさらに減少して、2004 年 5 月以降はあまり変わらない水準を維持していた。気になるのは、2008 年に入って空軍の動員が増えていること。

海兵隊は 2004 年 5 月から動員規模を増やし、それ以後は 10,000 人前後のラインを行き来していた。そして 2006 年末にいったん落ち込んだものの、2007 年末にまた増やして元の水準に戻っている。

海軍は OIF 以降おおむね減少傾向、沿岸警備隊は横ばい。海軍の動員規模が全般的に小さいのは、大規模な海戦がなく、海上封鎖や不審船舶阻止などの行動が主体になっているため。沿岸警備隊は "911" 直後と OIF 開始当初にピークがあるが、前者は CONUS (Continental of US。アメリカ本土) における警備任務増大によるものと思われる。


Part II : 全体的な動員状況

次に、全軍種の動員人数を合計した結果について、推移をグラフ化したものを示す。(クリックすると拡大)

予備役動員状況 (全軍合計)

2003 年 1 月後半から一挙にグラフが押し上げられているが、これは OIF に備えて陸軍が大規模な動員をかけたため。前のグラフと並べてみると分かるが、他の軍種は陸軍ほどの大規模動員を実施していない。

他の軍種の比率が圧倒的に少ないため、全体の動員規模に及ぼす影響は、陸軍のそれが図抜けて大きい。実際、治安維持任務では頭数が必要になるので、こういう傾向にならざるを得ない。この傾向は今後も変わらないと思われる。


Part III : 動員人数の変動推移

最後に、次に、陸軍・海軍・空軍・海兵隊・沿岸警備隊の動員人数を合計した人数が、前の週と比べてどれだけ変動しているのかをグラフ化したものを示す。このグラフは、「動員が増えた週」と「動員が減った週」の比率を比較する際に役立つと思われる。 (クリックすると拡大)

予備役動員人数の変動状況

"911" 直後は動員が増えた週ばかりで、これは当然。その後は増えたり減ったりを繰り返しているが、OIF 開始直前は極端な増加になっている。理由はすでに書いた通りなので、繰り返さない。

2006 年に入ってからは陸軍の動員減少が続いているので、グラフが「0」のラインより上に飛び出すことはほとんどなくなっている。イラク国内の宗派対立が激化して一時的な戦力増強を図ったりしているものの、こうしたイベントと動員規模はリアルタイムに結びつかないので、大きな影響を生じるには至っていない。ただし、2006 年の 7 月と 2007 年の 5-6 月にかけて小さなピークがあるが、これは治安情勢悪化を受けて戦力増強を図ったため。

全体的なトレンドとしては、増加が続いている時期と、減少が続いている時期に分かれる。何かコトを起こそうとしている。あるいは頭数が必要な事態が発生した場合にドッと動員がかかり、それ以外は事態が沈静化傾向にあるとみて動員を少しずつ解除している… そんな様子が見て取れる。

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