![]()
井上孝司の Defense Column
〜 "技術的優越" は兵器としての優秀さを保証しないビジネスの世界では、しばしば「○○社の製品は、□□社の製品よりも技術的には優れているのに、□□社の方が営業力が強いとか商売がうまいという理由から、技術的に劣る製品を売りまくって不当に儲けている」
という不満がいわれることがある。具体的には、
といった例が挙げられるだろう。
- トヨタ vs 日産・ホンダ
- マイクロソフト製品 vs 他社製品
この際、本当はどちらが優れているのか、という議論は水掛け論になるだけなので、ここでは行わない。それに、論者の個人的立場や、どこに基準を置いてモノを考えるかでも、結論は違ってくるハズだ。
たとえば、自分が考えた OS が広まらず、代わりにマイクロソフト製品に市場を握られた人がマイクロソフト製品について論じれば、点が辛くなる傾向があるのは否めない。(具体的に誰のこととは言わないが :-)ただ、確実に言えるのは、技術的な優越とビジネスにおける成功が直結しているとは限らない、ということだ。要は、そのとき市場が求めるもの、あるいはユーザーが必要としているソリューションをタイミングよく提供できたメーカーが強い、ということである。
兵器の世界でも、似たような話はよく聞かれる。「アメリカの○○兵器は、ドイツの□□兵器よりも技術的には劣っているのに、数の力にモノをいわせて勝っただけだ」的な話が典型で、特に、第二次世界大戦の敗戦国側に、その傾向が強い。まあ、負けたからこういうことをいうのだ、ともいえるが。
たとえば、中島飛行機の誉発動機がいい例だ。
筆者は誉発動機にどちらかというと批判的なのだが、そういう趣旨の発言をすると、といった類のことを主張する人が出てくるのが常だ。
- 稼働率が悪いというが、ちゃんと整備すれば動くと 47 戦隊の整備主任が言っている
- あれだけ限界を突き詰めた設計に挑戦した、技術者の努力は評価するべきである
しかし、技術的にアドバンスがあるということと、それが兵器として優れているというのは、また別の問題だ。だいたい、技術的なアドバンスといっても、単に複雑精緻であることを誇るだけでは、兵器として問題があるということを公言しているようなものである。
誤解のないように書き添えておくと、複雑精緻であること自体が悪なのではない。必要な機能を得るために複雑精緻になるのは、それが兵器としての本質を損なっていない限り問題ない。ただ、複雑精緻であること自体が目的になってしまったり、複雑精緻であることを技術的優越、ひいては兵器としての優越と勘違いするのが問題なのである。 いつの戦争でもそうだが、実戦での兵器の使用環境というのは、平時に想定していたものよりも過酷になりがちだ。特に、小銃や戦車のような陸戦兵器はそうだ。しかも、戦時には平時と比べるとオプテンポも上がるし、その反面、整備補給にかけられる手間は少なくなる。
だから、そういう過酷な環境でも本来の力を出せる兵器というのは、
という条件を満たす必要がある。いいかえれば、
- 構造はできるだけシンプルで
- 整備がやりやすく、故障したパーツはすぐに交換できて
- 多少、手荒に扱っても壊れず
- 操作も整備も、誰でも容易にできる
ような兵器は、どんなにカタログ上の性能が優れていても、欠陥兵器である。
- 構造が複雑怪奇・精密敏感で
- 整備がやりにくく、パーツの点数が多くて
- 毎日入念に整備しないと動かなくなってしまい
- 操作も整備も、熟練しないとできない
冷静に考えてみてほしい。たとえば、カタログ上の性能指標が 100 の兵器と 80 の兵器があったとする。ところが、実戦に持ち込んだら、前者は整備が困難で手間がかかりすぎ、アベレージの性能が落ちてしまったのに対し、後者は実戦でもカタログ通りの性能が出たとする。
となると、実戦で頼りになる兵器というのは、むしろカタログ上の性能に劣るハズの、後者の兵器ということになる。少なくとも、現場の兵士はそう考えるだろう。(だから、第二次大戦当時のドイツ陸軍でもっとも兵士に親しまれた戦車は、なんと、古いW号戦車なのである)
そこのところを理解しないで、わざわざ数を揃える障害になるようなこみ入ったつくりの兵器を作って自らの足を引っ張っておいて、「いや、技術では勝ってたんだ。数が足りなくて負けたんだ」などと泣き言をいうのは、論外である。
だいたい、兵器の評価は "Combat Proven"、つまり「実戦で証明されたかどうか」で決まるものだ。決して、カタログ スペックで決まるわけではない。
そういうことを考えると、実戦経験の多い国が開発した兵器の方が、より実戦向きではないかということになるのだが、実戦経験はなくても、できるだけ過酷な環境を想定した設計やテストぐらいはできるだろう。それを、わざわざこみいった設計にして、価格を吊り上げた上に整備性を悪化させることはないハズだ。
極端なことをいえば、戦場というのは「三途の川の向こう側」だ。そこで通用してこそホンモノで、カタログ上のスペックや、実用性を落とす複雑精緻なメカニズムだけを誇るのは、勘違いというべきだろう。技術的優越があろうがどうしようが、戦場で負ければ終わりである。そういう、ずれた発想の下で作られた兵器に、貴重な国民の血税を使ってもらいたくないものである。
![]()