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井上孝司の Defense Column
〜 貧乏は哀しい先日のニュースで、米陸軍が構想中の「未来の歩兵装備」を取り上げていた。なんでも、ヘッド マウント ディスプレイを装備して、そこに衛星から受信した戦術情報や赤外線センサーの映像を表示し、味方の位置関係はお互いに把握しつつ、それを敵には知られずに忍び寄って、ハイテクにものをいわせて闇討ちをかけるのだそうだ。そのニュースを報じた某局の記者は、「いくらゲーム感覚になっても、撃って殺される相手は血の通った人間なのだ」などとありきたりの陳腐なコメントを付けていたが、それは当たり前のことで、この「ハイテク歩兵」が意味するものは、もっと深いところにあると思う。
そもそも、陸戦というのは、海空と比べると情報化が遅れている。海軍では、一緒に行動する艦艇が互いに戦術情報をデータリンクを通じて共有するのは当たり前だし、イージス艦が他艦から送られてきたデータに基づいてミサイルを撃つ CEC (共同交戦能力) や、逆に、他の艦から撃ったミサイルをイージス艦がまとめて管制するという仕掛けも開発されている。
また、空の上でも、AWACS やジョイントスターズのレーダーで得られた情報は、他の航空機に対して JTIDS を通じて転送されてくるという状況になってきている。ところが、陸では相変わらず紙の地図を広げて、無線で報告されてくる状況をそこに記入し、その結果を見ながら命令を下している。通信連絡に齟齬をきたし、後方の司令部では古い情報に基づいて指示を出さざるを得なくなるという事例は、湾岸戦争の米軍部隊でも存在したらしい。米軍でもそうなのだから、他の国については、推して知るべし。
現場でも、部隊の指揮官は自分の目で見た状況を元にして、無線で指示を怒鳴っている。もし聞き間違いや通信の妨害があれば、指示が伝わらなくなってしまうし、味方がどこにどういう風に展開しているかを把握するのも大変だ。
米陸軍が進めている Force XXI という構想では、こうした状況を打破するべく、戦車や歩兵戦闘車などがすべてネットワーク化され、「神の目から見た景色」に基づいて行動できるようにしようとしている。トム・クランシーの「合衆国崩壊」にも少し出てくるが、IVIS (車輌間情報システム) というシステムを導入し、敵と味方がどこにどう布陣しているかを、個々の車両の乗員が瞬時に確認できるようになるそうだ。
こうなると、すでに米空軍がそうなっているように、陸軍についても、夜討ちをかける傾向がさらに強まるのではないかと思われる。つまり、闇の中から、相手が状況を把握できないうちに圧倒的な攻撃を仕掛けて粉砕してしまうというわけだ。
どうしてこのようなハイテク化が進められているかというと、ひとつには、より少ない人数で効率的に戦闘するという目的があるのだが、もうひとつ、めったなことでは兵士の犠牲が出せないという政治的な背景がある。
湾岸戦争があまりにもワンサイド ゲームに終わったせいもあり、アメリカなど各国の国民は、どこと戦っても、常に同じ結果を期待する傾向にある。となると、ハイテク武装による情報面での優位を生かし、ワンサイド ゲームになるような立場を維持する必要があるというわけだ。
しかし、アメリカのようにカネも技術もある国は、そういう対処ができるから、まだいい。地域紛争が戦争の主流になってきている昨今、その片方の主役である貧乏国は古いやり方の戦争で最新技術と戦わざるを得なくなるから、ますますワンサイド ゲーム化が進む可能性がある。
つまり、「戦場の沙汰もカネ次第」ということだ。湾岸戦争にもその萌芽はあったが、今後、この傾向はますます加速するだろう。このことを厳粛に受け止めれば、うかつに戦争して先進諸国の介入を招く不利を悟って、武力以外の解決方法を模索するという期待もできなくはないし、それは軍事力が抑止力として機能することだから望ましい傾向である。
だが、現実には、自分の野望のためなら現場の兵士の犠牲などお構いなし、という "指導者" も多いだろう。すると、ハイテクに圧倒されて訳が分からないうちに撃たれて傷ついたり命を落とす兵士が続発しそうだ。しかも、"指導者" はそのことを認識せずに、代わりに部下の司令官をスケープゴートにして処刑したりするだろう。そんな事態を生起しそうな国はいくつもある。
もちろん、いかにハイテクを導入しようとも、最後にモノをいうのは個々の兵士の資質や能力だが、これにしても、技術に優れた国の方が充実した訓練ができるから、これによる大逆転というのは想像しにくい。せいぜい、ハンデを多少縮めるくらいのものだろう。それに、もともとの兵士の教育水準が低ければ、それ以上のレベルの兵士はできない。そういう意味でも、貧乏は辛い。
どうやら、21 世紀の戦場では、金持ち優位、貧乏人受難の傾向が途方もなく強まることになりそうだ。このことを悟って、武力解決オプションを諦めて放棄する "指導者" が増えるといいのだが、それを期待するのも難しかろう。残念なことだ。
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