井上孝司の Defense Column
 〜 南北朝鮮首脳会談について

10 日付のニュースによると、6 月に韓国の金大中大統領が北朝鮮を訪問し、首脳会談を実施することが決まったとのこと。

撃ち合いよりも、首脳会談の方が結構な話である。ただ、2 ヶ月も先の話だから、その間に何か騒ぎが起こって話が壊れる可能性もなしとはしないし、首脳会談 1 回だけで朝鮮半島の緊張緩和が実現するかというと、それはないだろう。

ただ、これをきっかけに、双方が定期的に会談する機会を持つことができれば、緊張緩和の役に立つのは間違いないと思う。


米陸軍のフレデリック M. フランクス退役陸軍大将が書いているが、ヨーロッパにおいては、軍の関係者が相互に訪問して直接話をすることが、緊張緩和に効果があったようだ。

ヨーロッパの場合、東西両陣営の間は完全な鎖国状態ではなく、ある程度は人の行き来があったし、TV の電波が国境を越えていた分だけ、対話や相互理解という面で有利だったのは確かだと思う。

省みると、朝鮮半島の場合はそもそも人の行き来が少ないし、特に北朝鮮の国民は、自分の国の外部の状況をほとんど知らないだろう。となると、政府の発表が世界のすべてということになってしまうから、この辺に問題があるように思える。

なにしろ、かの国では、大昔に日本でも使っていた「スフ」を、1980 年代になってから「我が国の科学技術の偉大な勝利」と称して国民に配ったそうだから…

また、ヨーロッパのように TV を武器にするというのも難しい。なにしろ、北朝鮮の人民は、TV どころか、その日の食い物を確保するのが大変な状態なのだから。

しかし、単純に食糧援助を実施しても、それがどれだけ飢えたる人民の口に入るかというと、疑わしいと思う。むしろ、農業や治水、天気予報、植林、といった技術やインフラ面での援助の方が、長期的に見て実効性があると思う。
また、技術援助のために周辺諸国の民間人が北朝鮮に入ることができれば、民間レベルでの接触が否応なしに増えるから、これも多少は相互理解の役に立つだろう。

実は、半分冗談、半分本気で、西側各国の雑誌類を大量に持ち込んでばらまいたらどうだろうと考えたことがある。案外、そんなところから草の根の緊張緩和が進むのではないかと思うのだ。

かの国の国民が、自国が置かれている状況や周辺他国の状況を知ることができれば、国家首脳部がいくら独善的なプロパガンダを展開しても、「王様の耳はロバの耳」状態になって、実効性を失ってしまう。
それによって体制の民主化が進めば、それはそれで結果オーライというわけだ。

もっとも、北朝鮮のことを「この世の王国」と本気で信じている学校の先生が日本国内に存在するという、驚倒すべき事例も耳にしているのだが :-p


ただ、韓国と北朝鮮が統一国家になるという話になってくると、それには困難が少なくないと思う。東西ドイツが統一したときにも、旧西ドイツ側は多大な経済的負担を強いられたが、南北朝鮮の格差はそれ以上だし、しかも韓国の経済力はドイツと比べると弱体といえる。となると、なまじ統一国家にしてしまうと、共倒れということにならないかと懸念される。

また、仮に韓国主導での南北統一が実現すれば、中国が黙っていないだろう。朝鮮戦争のときも、それが原因となって軍事介入してきたのだ。(御存知の方も多いと思うが、朝鮮戦争は途中から、事実上はアメリカと中国の戦争と化していたといえる)
少なくとも、朝鮮半島の緊張緩和が進めば、中国はそれを口実にして、在韓米軍 (と、ひょっとすると在沖海兵隊) の撤退を要求してくる公算が高いのではないか。

そのような事情を考えると、一挙に統一に向けて進むよりも、現行の枠組みから漸進的に、緊張緩和と民主化を進めていくというのが現実的な策ではないかと思う。両国の軍事力にしても、一挙に大幅削減というのは難しかろうが、緊張緩和が進むに従って徐々に戦力レベルを双方が同時に落とすということなら、まだしも実現の可能性がある。

その過程で、たとえば北朝鮮の現体制が崩壊して、より民主的な政権が樹立されるようなことになれば、目下の重大問題と化しているミサイル開発や拉致疑惑についても、解決の糸口が見出されるのではないかと思う。