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井上孝司の Defense Column
〜 撃てない武器に存在価値なし (前編)先週、西鉄の高速バスが乗っ取られた事件については、すでに多くの報道がなされているので、皆さんも詳細を御存知かと思う。マスコミ各社では、この事件について「強行突入が遅かったのでは」という批判をしたり、犯人の顔写真がネット上で公開された件をあげつらったりしているが、どうもピントがずれているのではないか。今回の事件に関して、私は以下のような問題点が露呈したと思う。
- 飛行機以外の交通機関の乗っ取り対策
- 犯人に対する対応の問題
- 事件の際のマスコミ対策
- 少年犯罪の犯人に対する取り扱いの問題
では、それそれの点について、順に見ていくことにしよう。
飛行機以外の交通機関の乗っ取り対策
飛行機の場合、過去にハイジャック事件が何度も発生したことから、かなり厳しいハイジャック対策がとられている。それでも、昨年の全日空機乗っ取り事件のように時として穴が露呈することがあるが、それでも、何もしていないよりはマシだ。ところが、飛行機以外の交通機関についてはどうだろう。
鉄道の場合、ローカル線でもない限りは乗客の数が多すぎるし、移動できる場所の制約がある (線路のあるところにしか移動できない) から、乗っ取りの対象としては魅力的ではない。そのせいか、列車ジャック事件というのはほとんど聞かない。そういう意味では、鉄道というのは安全だ。(列車妨害事件は別だが、話がずれるので別稿に譲ろう)
自家用車の乗っ取りというのも聞いたことがないし、長距離トラックやタクシーについてもしかり。というわけで、もっとも無防備なのがバスではないかと思われる。
バスの場合、手荷物検査なんてやらないし、道路さえあればどこにでも行ける。しかも、乗っている乗客の数もせいぜい 50 人というところだから、犯人が 1 人でも、何とか掌握できる程度の数といえる。
しかも、特に高速バスの乗客には他の交通機関と比較して女性が多いので、このことは人質として魅力的だと思われないだろうか?西鉄の場合、「乗っ取られたらどのように対処するか」というマニュアルはあったそうだが、「乗っ取りを防ぐにはどうするか」というマニュアルはなかったらしい。どこも似たようなものだろうし、具体的に対策を考えるとしても、難しそうだ。
そこで次の点が問題になってくる。
犯人に対する対応の問題
今回、警察当局はバスを奥屋 PA に止めてから、突入までほぼ 12 時間近くに渡って「説得」を続けていた。もちろん、これは強行突入の体制を整えるのと、払暁の突入 (人間の判断能力がもっとも落ちる時間帯だ) のための時間稼ぎという側面があったのではないかと思われるから、時間がかかったことについては理解できなくもない。
ただ、前日夜の時点ですでに死者が出ていたことを考えると、体制を整えた上で強行突入して犯人を生け捕りにするという選択が最善だったのか、という疑問は残る。日本の場合、この手の凶悪事件ですら「犯人射殺」という結論を好まない風土があるし、ペルーの人質事件でも「平和解決」を主張する声が強かった。しかし、今回の事件にしろペルーの事件にしろ、相手が最初から暴力で解決しようとしているものを、そう簡単に「説得」で決着できるだろうか。
それを考えると、人質に死傷者が出た事件で犯人の腕か脚を狙撃して、射殺とはいわないまでも行動の自由を封じた上で、強行突入して決着するというオプションを保持することは必要ではないかと思う。
小川和久氏が指摘されていたように、今回の事件で「日本では何をやっても射殺されないな」という認識が浸透してしまえば、凶悪事件に対する抑止力どころか、むしろ逆に作用する危険性が大きいハズだ。ちゃんとした交戦規則 (ROE) がなくて、なかなか撃つに撃てない自衛隊と、いい勝負である。
昨年の不審船事件で、初めて海自の護衛艦が実弾を撃ったのは、そういう意味では意義があったと思うが、どうして御自慢の対艦ミサイルをぶちかまして撃沈しなかったのかと思う。(国産の ASM-1 や SSM-1 で撃沈すれば、完璧な "Combat Proven" で、国産兵器の実力を世界に見せ付けるいいチャンスであったろうに :-) そもそも、例の不審船は意図的に領海侵犯した上で、見つかると全速で逃げ出したのだ。しかも、「とにかく逃げろ」という無線交信まで傍受されているのである。撃沈されても文句は言えないハズだ。(それでも文句をいうのが北朝鮮なのだが…)
だいたい、某社民党や某共産党あたりが典型なのだが、「平和」という言葉の意味を勘違いしている人が少なくない。国民の生命や財産を守るための平和であって、平和主義者の自己満足のための平和ではないのである。あらゆる武器使用を完全に放棄すべしというのなら、その件について国民投票を行い、国民に信を問うべきだ。
おっと、話が脱線した。
今回の事件では、犯人は外から丸見えの状態で車内をうろうろしていたのだから、狙撃することは物理的には可能だし、警察にもちゃんとした狙撃手ぐらいいるだろう。TV カメラで映すことができるのだから、同じ位置から銃を撃つのも問題ないだろう。(おもしろいことに、カメラで撮るのも銃で撃つのも、どちらも英語では "shoot" という)だから、物理的には狙撃というオプションも行使可能なハズだ。しかし、そこで次の問題点が立ちはだかる。
というところで、ボリュームが大きくなってしまったので、続きは次週に譲ろう。
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