![]()
井上孝司の Defense Column
〜 南北朝鮮首脳会談に思うこと韓国と北朝鮮の首脳会談が近付いてきた。韓国では "金正日将軍様" の似顔絵が書かれたキャラクター商品が大人気だそうで、これを取り上げた TV のニュースでは、いまにも南北融和がやってきそうな調子で盛り上がっている。
確かに、南北融和は結構なことである。ただ、今回の首脳会談だけでいきなり大幅な前進があるかというと、それは難しいだろう。
というのは、北朝鮮サイドにしてみれば、現行体制の維持という絶対条件は崩せないだろうし、それを考えると、大規模な開放政策というのは取りづらい。あの国の政治体制は、政府が都合のいい情報だけを国民に示して、いわば「精神的遮断器」を常に下ろした状態にすることで維持されているわけだから、韓国をはじめとする他国の正確な情報がどんどん流入すると、国民が政府のいうことに疑いを持ってしまって具合が悪い。それでは労働党の独裁体制の維持は不可能だ。
また、韓国としても、いきなり南北統一なんていうことになると、あらゆる分野におけるインフラ整備が遅れている「お荷物」を背負い込むことになるわけだから、経済的負担を考えれば受け入れられない相談だ。南北朝鮮の経済格差は、統一前の東西ドイツのそれをはるかに上回る。無理に統一を強行すれば、共倒れになるのがオチだろう。
スローガンとしては「民族の統一」は結構なものだが、人間がカスミを食って生きているわけではない以上、経済的側面を無視することはできないハズだ。 しかも、中国の立場というものもある。北朝鮮主導の南北統一というのは非現実的きわまるし、アメリカが黙ってはいない。かといって韓国主導では、中国の隣に資本主義国家が隣接してしまう。しかも、中国東北部には朝鮮族が少なからず住んでいるから、そこから「資本主義思想」が流入するという懸念も生じそうだ。
得意の恫喝外交で在韓米軍を追い払うことはできるかもしれないが、それでも具合が悪いことに変わりはない。となると、比較的現実味がある「韓国主導による南北統一 (実質的には、韓国による北朝鮮の吸収)」というのも、周辺のことも考えると難しいことが分かる。中国で大規模な政変が発生して、共産主義体制が瓦解するようなことになれば話は別だが、それを前提にするのは無理がある。
となると、南北朝鮮ともに現行の体制を維持しつつ、少しずつ、扉を開いていって、政府、あるいは民間レベルでの小さな交流を少しずつ積み上げていくというのが、現実的な対処ではないかと思う。米内光政が総理大臣のときに発した台詞ではないが、「revolutionally よりも evolutionally」ということだ。"革命的" にコトを運べば、必ず将来、反動がやってくるだろう。
つまり、「太陽政策」の真意とは、「北朝鮮の体制をいきなり崩壊させずにソフトランディングさせる」ということにあるのではないか。
もちろん、軍事的暴発を防ぐために、一方では軍事力の整備も怠ってはならないし、韓国やアメリカもそこのところはちゃんと分かっているハズだ。「こちらから戦争を仕掛けて北朝鮮に侵攻することはない。でも、そっちから何か仕掛けてきたら、タダではおかないぞ」という姿勢を示すことは必要だ。重要なのは、こちらからは喧嘩を売らず、先方からの要求も、正当なものは受け入れ、正当でないものは毅然として拒絶することだ。特にあの国の場合、「何をいっても受け容れられる」と勘違いさせると、あとあと間違いの元だろう。
政治家はまだしも、民間の「○○運動家」という類の人は特に、急進的に自分の目標を実現することを望みがちなものだが、ことに南北朝鮮のような問題では、急進的な解決策を強行するのは失敗の元だ。今回の首脳会談は「はじめの一歩」ということで、過大評価も過小評価もせず、冷静に少しずつ事実を積み上げる姿勢を忘れないようにしたい。
![]()