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井上孝司の Defense Column
〜 朝鮮半島情勢と在日・在韓米軍の今後南北朝鮮首脳会談で、"将軍様" が予想外のソフトな対応を見せたせいか、早くも朝鮮半島の冷戦構造が崩壊したかのごとき勘違いをしている人がいるようだが、今回の首脳会談はあくまで「話し合いの土台作りが始まった」というレベルであるというのが正直なところだろう。まだ、存在するさまざまな問題について「とにかく、話をしてみましょう」という合意ができたというだけなのだから、「ベルリンの壁の崩壊」のような出来事が 38 度線で起きるとしても、それはもうしばらく先の話ではないかと思う。
それはそうとして、こういう情勢になってくると、在日米軍、あるいはアジア地域における米軍のプレゼンスを縮小するように求める声が、あちこちから出てくるのは避けられない。アジア地域で米軍がプレゼンスを維持している最大の理由は、朝鮮半島情勢だからだ。
アジアにおける米軍 (というよりアメリカ) のプレゼンスをもっとも苦々しく思っているのが中国なのは間違いないから、中国がこの先、朝鮮半島情勢をダシにして、米軍のプレゼンス縮小を求める政治攻勢をかけてくるのは間違いないだろう。日本の一部野党も、それに乗っかって、在日米軍の追い出しを企んでいるのではないだろうか。
ただ、もし和平プロセスが順調に進む一方で、労働党政権が瓦解して韓国と北朝鮮が統一するようなことになると、中国としては面白くないハズだ。ヘタをすると、38 度線がそのまま、鴨緑江まで位置をずらしただけ、なんていうことにもなりかねない。
逆に、(可能性は極めてゼロに近いが) 北朝鮮主導の南北統一ということになれば、今度は 38 度線が朝鮮海峡まで下りてくるわけだから、北朝鮮の現体制が維持されたままと仮定すると、これはむしろ不安定要因を増す結果になってしまう。
どちらにしても、統一が新たな不安定を生む可能性があるという点は留意しておいた方がいいのではないだろうか。
そのことを意識したのか、25 日に開催された朝鮮戦争 50 周年の記念式典で、韓国の金大中大統領が「南北の平和共存」と発言した点に注目したい。「統一」ではなく「共存」である。つまり、当面は 2 ヶ国が存在する状況を続けるという前提を韓国は考えているということだ。
また、米韓政府は早々に「在韓米軍の維持」ということをいっているし、国防総省でも "No U.S. Troop Reductions Planned in Korea" というタイトルのニュースリリースを 6/20 に発表している。"将軍様" ですら、在韓米軍を追い出せとは表立って発言していない。
しかし、もう一方の不安要因である台湾情勢については、今のところ解決の兆しは見えていない。中国が「ひとつの中国」論を振りかざす限り、解決は難しいだろう。
また、スプラトリー諸島などをめぐる領土紛争も、解決の目処は立っていない。そのため、中国との間に領土問題を抱える ASEAN 諸国としては、米軍のプレゼンスを維持して欲しい、という希望があるであろうことは想像がつく。現に、アメリカとタイの合同演習 "コブラ・ゴールド" に、最近になってシンガポールやマレーシアが加わっている。
こうした情勢を考えると、アメリカとしては、ある程度の戦力縮小は受け入れるとしても、全面的に兵を引くというのは容認できないだろう。たとえば、
といった施策を取る可能性は考えられるのではないかと思う。
- 在沖海兵隊の常駐戦力を縮小してハワイあたりまで引っ込める
- その一方で、グアムや沖縄における装備の事前集積は維持する
- 在韓米空軍部隊の一部を、本土ではなくグアムに移す
現に、米空軍はグアムのアンダーセン AFB に、麾下の実働部隊を持たない第 13 航空軍を維持している。
湾岸戦争で活躍した中央軍 (USCENTCOM) のように、有事に備えて司令部だけの組織を用意しておくというのは米軍がよくやる手法だ。第 13 航空軍の場合も、台湾海峡、あるいは朝鮮半島情勢の緊迫化に備えて、大規模な空軍部隊を本土から急派する際の受け皿としての役割があるのではないだろうか。
アジアにおいて、米軍の戦力が多く駐留しているのは、日本と韓国だ。これは、インフラの問題や政治的な理由が大きいわけだが、だからといって、駐留している国の視点だけで物事を考えるのは間違いの元だ。過去の拙稿でも書いたように、日本に米軍が駐留しているからといって、日本の見方だけで在日米軍の存在を軽々しく云々してはならないし、それは在韓米軍についてもいえる。
あくまで、アジア全体、あるいは世界全域に対するアメリカの戦略を構成するリングのひとつとして在日/在韓米軍の存在があるのだから、それらの戦力の存在意義について論じる際にも、日本、あるいは韓国の情勢だけ見て物事を考えてはならないだろう。
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