井上孝司の Defense Column
 〜 日本に CTOL 空母が必要か?

最新の、「SAPIO」誌で、日本も空母を持つべしという論陣が展開されている。あげく、海上自衛隊の輸送艦 <おおすみ> を CTOL 空母に改装した想像図をデッチ上げていたのには笑ってしまった。

そもそも、何のために空母が必要なのだろうか? ヘリコプター護衛艦の代替として「ヘリ空母」を主張するのも同根だが、私には、どちらも単なる「大国願望・大海軍願望」のシンボルとして空母を欲しがっているだけのように思える。


そもそも、空母がどのような局面で威力を発揮するかを、いま一度、冷静に考えてみよう。

空母というのは、とどのつまりは「移動式の飛行場」である。つまり、味方の航空部隊が展開できないような場所で戦乱が発生した際、空母を派遣すれば空軍を派遣したのに匹敵する効果が得られる。

しかも、もし近隣に友好国があったとしても、空軍の部隊をそこの飛行場に派遣しようとすれば、相手国の了解を得た上で兵站支援や通信上の問題を解決しないと、実際には空軍部隊の派遣は難しい。ところが、空母に搭載された航空部隊は自己完結性があるから、空母とその護衛艦を派遣すれば、作戦可能な航空部隊の準備が整う。

また、米海軍限定だが、空母の持つ強大な攻撃力はそれだけで大きなプレゼンス上の効果を発揮する。だから、空母を派遣するという行為そのものが、アメリカの意思を世界に向けて表明する手段になる。

ということは、空母が威力を発揮するかどうかは、国情に依存するハズだ。たとえば、ロシアは空母を保有しているが、ロシア本土の安全保障に空母が絶対必要な存在かというと、まったくそんなことはない。というのは、ロシアは大陸国であり、シーレーンの維持が国の存立に必要不可決というわけではないからだ。つまり、ロシア海軍が保有する空母は、単に国威発揚の道具なのである。


では、空母というウェポン・システムには、難点はないのだろうか。

まず、最大の欠点は「金がかかる」ということだ。空母一隻を維持するだけでも、乗組員と艦載機の分まで考えると膨大なマン・パワーを要するので、その人件費と糧食費だけでも馬鹿にならない。米海軍の空母の乗組員と空母に乗艦している航空部隊の関係者の人数の合計は、狛江市の全人口に匹敵するのである。

また、空母は高価で重要な戦力だから、単独行動させるわけにはいかない。となると、護衛艦もまとまった数が必要だ。米海軍が 50 隻以上のイージス艦を抱えている理由もそこにある。これもまた、大変な予算を食う要因になる。

しかし、金がかかる割には、攻撃力では陸上基地の航空機の方が有利である。最近では艦上機と陸上機の性能差はそれほどでもなくなってきたが、少なくとも大きさの面で制約がある以上、まったくイコールというわけにはいかない。たとえば、B-1B や B-2A のような飛行機は、間違っても空母には載せられない。

こうした欠点と、先に挙げた長所を秤にかけた上で、空母の方が有利なこともあると判断しているからこそ、アメリカは膨大なコストを費やして空母戦力を維持しているわけだが、日本の場合はどうだろう。


少なくとも、「専守防衛」という旗を掲げる限りは、自衛隊が軍事作戦を行う範囲は、日本本土からそれほど離れたものにはならない。それなら、陸上基地の航空戦力を強化した方が経済的だ。

たとえば、尖閣諸島に対する中国の軍事力行使が心配だというのなら、空母なんぞ建造するよりも、九州や沖縄の基地に弾薬やスペアパーツを大量に事前集積しておき、緩急あるときには本土の基地から戦闘機と人員だけ派遣できるようにすればよい。いわゆる「不沈空母」の発想だ。

ちょうど、配備が始まろうとしている F-2A は ASM を 4 発も搭載できる。こんな攻撃機はそれほど多くない。これをフルに生かせば、空母よりもよほど経済的に、敵の水上艦隊を排除できるハズだ。

実は、私の「基地航空部隊重視思想」は、井上成美大将の「新軍備計画論」の焼き直しでもある。御存知ない方のために、その趣旨を記すと、次のようになる。

太平洋戦争における実際の経過と見比べると、来るべき戦争の姿を、かなり正確に見通していたことが窺い知れる。


もし、どうしても空母が必要だとすると、それは日本の通商航路を全域に渡って海上自衛隊が保護するという局面しか想定できない。しかし、それが政治的に許容されるかどうか、実際に必要とされている作戦なのかどうかという点については、疑問が残る。まさか、マラッカ海峡の海賊対策として CTOL 空母が必要だというわけでもあるまい。

だいたい、日本近辺の陸上基地でカバーできないようなところに空母を派遣するとなった場合、燃料・弾薬・食料の補給体制はどうするのだろう。まさか現地調達というわけにもいくまい。(物資を現地調達できるような政情の安定した場所なら、そもそも軍艦が出て行く必要がないのだから :-)

むしろ先に必要なのは、日本がどのような脅威にさらされていて、それに対してどのような対策が必要なのかという、国家としての「戦略」だ。どんな道具を整備するかを決めるのは、その後の話である。
ハードウェア優先で、「あの国があれを持ってるからうちも」などという愚劣な発想をいまだにしているとは、昭和初期の日本海軍からまったく発展していないではないか。情けない限りである。