![]()
井上孝司の Defense Column
〜 「災害派遣」は副次的任務日本でもアメリカでも、軍隊が (おっと、日本では自衛隊か) 災害派遣で大童になっている。日本の場合、いうまでもなく三宅島の噴火や先日の防災訓練のことだが、アメリカでは西部の各地で発生している山火事対策のため、正規軍の部隊が次々と投入され、とうとう陸軍の第 101 空挺師団 (航空強襲) なんていう緊急即応部隊までが、山火事退治に投入されてしまった。
こんなときにどこかの馬鹿が花火を上げたら、一体どんなことになるんだろうと心配だ。幸い、現時点ではそういう様子はないようだが。
そもそも軍隊というのは、機材は揃っているしマン・パワーはあるし、しかもちゃんと命令ひとつで動くように組織されているから、災害派遣では大変な威力を発揮する。
といっても、それは出動できた後の話。現に、阪神淡路大震災では、現地自治体と時の内閣総理大臣がどちらかというと "自衛隊嫌い" だったせいか、自衛隊の出動が、お世辞にも迅速とはいえなかったと記憶している。
日本はレッキとした「文民統制」の体制にあるから、どんなに自衛隊側が「出動してお役に立ちたい」と思っても、文民がその気にならなければ出動できない。
だから、指揮に当たる文民がアホだと、その分だけ国民の生命財産がムダに失われることになるのである。そんなときにイデオロギー論議などやっている場合かといいたいのだが、どうもそういう観点では物事を考えられない人もいるらしい。困ったものだ。それと比べて、三宅島の災害では比較的迅速に出動要請がなされたのは、さすがに石原都知事である。もしこれが美○部都知事だったら、いったいどうなっていたことかと思う。
ただ、災害派遣というのはあくまで軍事力の「副次的用法」と考えるべきだろう。もちろん、広い意味での有事というのは戦争行為だけでなく、天災や人災も含むのだが、本来、軍事力というのは狭義の有事、つまり戦争行為に対して整備されるべきではないかと思う。
最近では予算確保も大変だから、特に日本の場合は海上自衛隊において、何かにつけて「災害派遣」を名目にする傾向があるような印象を受ける。海外でも、イタリアで内務省の予算を使って揚陸艦を建造している例があるから、ひとり日本だけの特異現象とはいえないが、だからといって、わざわざ「迎賓艇」を新造した挙句、お披露目の席でデモンストレーションとしてベッドと点滴のビンを並べたりしているのを見ると、「なんだかなー」と思ってしまう。
まして、某防衛庁長官が米海軍の指揮艦を見物して、「日本にもああいうハイテク指揮艦が欲しい。災害派遣にも役に立つ」といい出すに及んでは、異議を唱えたくもなる。
この調子だと、そのうち「災害派遣のために必要」とかいって、DDH の後継艦として「ヘリ空母」や、ヘタをすると「原子力空母」を造らせようとする人が出てくるのではないか? あるいは、「火山の噴火で飛来する噴石を撃墜するために TMD 能力を持つイージス艦が必要」とか…
正直な話、各種の軍艦の中で本当に災害派遣で役立つのは、せいぜい揚陸艦ぐらいではないかと思う。基本に立ち返って、災害が起きたときに何が困るかを考えてみよう。
まず、災害の中でも頻度が高いのは地震や台風だ。
特に地震の場合、鉄道や道路といった交通網が破壊されることが多いから、救援物資や土木工事機材を現地に運び込むのが大変、というのが真っ先に考えられる。幸い、日本は周囲を海に囲まれているし、人口の多くは海岸沿いかその近くに住んでいるから、海から物資を搬入できれば多くの人が救われる。
といっても、神戸がそうだったように、港湾設備が破壊されているかもしれない。しかし、もともと港湾設備のないところで揚陸作戦ができるように造られている揚陸艦なら、それほど支障は大きくなかろう。これは確かに、「災害派遣の役に立つ」と自信を持っていえる。だが、数千人の死傷者が出たときに、ちっぽけな「迎賓艇」を一隻持って行った程度では、それほど役に立つとは思えない。だいたい、その「迎賓艇」まで、どうやって負傷者を運ぶというのだろう。あのフネにはヘリコプター甲板もないのに。
まして、「指揮艦」に至っては、もうお笑いである。内閣総理大臣がわざわざ東京を離れて「指揮艦」に乗り込んで、現地の沖合まで出て行って「陣頭指揮」を取るというのだろうか? とてもじゃないが、そんな風景は想像できない。だいたい、首相官邸を改築したときに、「指揮管制機能」を充実させたのではなかったか?
とどのつまり、「災害派遣」をダシにして、新しい「オモチャ」が欲しいだけではないか… と思えるのだ。我々は、そんな道楽のために税金を払っているのではない。
当節、予算を取るのが大変なのは理解できなくもないが、だからといって、何でも「災害派遣」を錦の御旗にすればいいってものではないと思う。自衛隊でもどこでも、あくまで本来の仕事は「軍事的脅威への対処」なのであって、どうしても「災害派遣」を表に出すなら、
といったところから順番に考えて、その結果として何を要求するかという考え方を取るのが本筋ではないのか。それを、装備要求が先にあって、後から「災害派遣」を名目としてくっつける (というように見えてならないのだ) というのでは、本末転倒だ。
- どんな災害が予想されるのか
- それに対してどのような対策を想定しているのか
- その対策を実現するために、どんな装備が必要か
- その要求を、本来の任務で使用する装備とどう整合させるか
その結果として、私が以前に提案した「高速フェリーの活用」のように、軍の装備と関係ないアイデアが出てくるかもしれない。それは予算獲得の見地からすれば面白くないかもしれないが、旧日本海軍の「所謂変装空母」のように、軍が建造費を補助して普段は民間が運用する、というやり方だってあるではないか。
とにかく、「災害派遣」をダシにするにしても、あまりにも見え透いていると、却って腹が立つのだ。こんな調子でいいのだろうか?
そういえば最近では「IT」という予算獲得のお題目が流行っているそうだが、これだって事情は同じだ。こういっては悪いが、「IT」が分かっていない人ほど、「IT 革命」だなんだといって騒ぎ、あげく、それを予算獲得に利用しようとしているような印象を受ける。むしろ「IT」を知っている人の方が冷静なのではないか? ![]()