井上孝司の Defense Column
 〜 北朝鮮の「和平攻勢」は本物か ?

最近、「朝鮮半島和平」がらみのニュースがいろいろと賑やかだ。

6 月の南北首脳会談をきっかけに、最近のニュースだと「京義線の復活工事」ネタというのがあった。新聞やテレビの報道を見ているだけでは、もう南北統一は目の前であるかのように見える。

しかし、北朝鮮が現在の国家体制を放棄することを考えているとは思えないし、韓国の方も、金大中大統領からして「統一より共存」といっているのが現状だ。いったい、どちらが本物なのだろうか。


軍備が極めて高価なものにつくようになってきている昨今、一カ国ですべてを賄うというよりは、何ヶ国かで共同して「集団的安全保障」体制を構築することが多くなってきている。NATO や日米安保はその典型だが、EU ではついに、「緊急即応部隊用の装備を、各国で分担して調達する」というところまで話が進んだ。

東アジアの場合、現在は「日米韓 vs 北朝鮮」という構図がある。単純に軍事力や経済力で比較すれば、北朝鮮に勝ち目はない。

そこで、北朝鮮としては中国を味方につけるのが有利だ。幸い、中国はアメリカとの対立因子を抱えているし、中国がアジアの覇権を握るのにもアメリカのプレゼンスは邪魔だから、アメリカに対抗するための味方は多い方が都合がよろしい。

とはいうものの、北朝鮮としては、あまり正面切って対決するのも経済的な事情から難しい。だから、北朝鮮が「日米韓」のリンクを分断して各個撃破を狙う動きに出る、と見るのが自然ではないだろうか。

まず韓国に対しては、もともと同じ民族であることもあり、「統一」という殺し文句を使って和平攻勢をかけて、敵対ムードを緩和させる。
(例の京義線の件についていえば、「鉄道」を武器に非武装地帯の地雷除去が部分的にしろできれば、それはそのまま「南進」の際の侵攻ルートになる可能性もあると思うのだが、これは勘繰りすぎか?)

次に、アメリカに対しては、ミサイル開発の中断をちらつかせることで譲歩を引き出し、当面の脅威を低減する策に出る。また、その副産物として、食料や経済の援助を引き出すことができる可能性もある。

最後に日本に対しては、拉致疑惑をのらりくらりとかわす一方で、「過去の清算」という殺し文句を突きつけて経済援助を引き出す。拉致疑惑の存在を考えると、日本は北朝鮮に対して (ある程度) 強く出ざるを得ないから、そこで韓国やアメリカとの間に足並みの乱れを生み出せる可能性があるように思える。

このように、相手によって手持ちのカードをうまく使い分けることで日米韓の間の足並みを乱し、連携を分断させることができれば、これは北朝鮮にとってはおいしい話だ。しかし、私の見たところでは、これがうまくいってしまえば、新たなアジアの不安定要因になるだろう。


ロシアがヨーロッパ諸国に接近しているのも、NATO の足並みを乱すためのロシア一流の策謀ではないかという気がするのだが、策略上手な北朝鮮のこと。日米韓の足並みを乱して、うまくいけば韓国を離反させて味方につけて、最終的には自国の主導による統一と在韓米軍の追い出しができれば、北朝鮮のみならず、中国にとってもおいしい話だ。

となると、中国としても、これは願ってもない話ということになる。自分が直接手を下さずとも、「目の上のたんこぶ」のひとつである在韓米軍が追い出せれば、大変具合がよろしい。

となると、その次にターゲットになるのは、もちろん在日米軍だ。この場合も、「過去の清算」という殺し文句があるから、北朝鮮と足並みを揃えて、日本に対して「過去の清算」という名目で援助や政治的譲歩を引き出そうとする動きに出ないと、誰が保証できようか。

そして、日本に対して圧力をかけることで在日米軍を追い出すことができれば、その次には「台湾解放」が待っているだろう。なにしろ、中国は周辺各地に領土を拡張しようとする政治的野心を露骨に出してきているのだ。それを見て見ぬ振りをしても、百害あって一利なしというものだろう。

まったく、こんな微妙な時期に、他の大事なニュースをみんな放り出してオリンピックの話に御執心の新聞・テレビの連中にも、少しは現実を考えてもらいたいものだ。表彰台に日の丸が揚がるのは結構だが、その日の丸を掲げるべき国家が危機に瀕してしまったら、金へダルもへったくれもないのである。


日本政府として、現在もっとも重要なのは、日本がアジアの政治的・軍事的バランスをどのような形に持っていくのが理想的だと考えているかを確定し、それに基づいて、他の同盟国と緊密に連携して足並みの乱れを見せないようにすることだと思う。

別に外交に限ったことではないが、「足並みの乱れ」とか「ちょっとした弱気」が露見すると、相手はそこを突いてくる。ちょうど私は「交通事故の補償交渉」を抱えているが、これだって似たようなものだ。

森総理みたいに迫力も貫禄もポリシーも欠如した宰相がトップに座っているようでは不安極まりないのだが、果たして大丈夫だろうか。外交巧者の北朝鮮や中国に、いいように翻弄されやしないかと、まことに心配である。