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井上孝司の Defense Column
〜 中東和平の危機に思うこと数年前、中東和平合意かできて、アラファト議長とイスラエルのラビン首相がノーベル平和賞を受賞したときには、「これで中東は平和になった」と喜ぶ声が、新聞・テレビに満ちあふれた。そんな中で、偏屈な私は「これでそのまま、完全な和平にこぎつけるとは思えない。もうひとモメあっても不思議ではないのではないか」と、NIFTY-Serve (当時) の某フォーラムで発言した記憶がある。
まさか、それが的中し、イスラエルが「アラファトは、もはや交渉相手ではない」などと、いつぞやの近衛内閣のような声明を出す羽目になろうとは。自分の予想が不幸にも的中してしまったのは、まことに残念なことである。
パレスチナに限ったことではないが、この手の宗教・民族がらみの領土問題では、双方の陣営が「歴史的に見て、○○は我々のものである」という類の主張をするのがお約束である。だが、人類の歴史はまともな記録が残っている分だけでも数千年あるのだから、その中から都合のいい事実を探そうと思えば、必ずひとつやふたつは出てくるものだ。
だから、「歴史的事実」なんてものを根拠にして議論をしていても、水掛け論に終わるのが関の山だ。そんなもん、百万年経ったところで解決しない。手近な例では、北方領土も、尖閣諸島も、スプラトリー諸島もそうだ。
まして、エルサレムやコソボのように、争っている両方の陣営にとって、同じ場所が「聖地」である場合は、この論法では収拾不可能であろう。どちらの陣営にとっても、「退却」という選択肢はないのだから。
では、現時点での「実効支配」をそのまま追認するのか、と突っ込まれそうだが、そうなると、政治・経済・軍事で強い立場にある国が、都合のいいようにしてしまう、ということになってしまう。これはこれで問題があろう。
結局、こうした「土地の奪い合い」における究極的解決策は、互いに相手の存在を認めた上での「共存」しかない。"all or nothing" では、はじき出された方の陣営が不満を抱くから、すぐに紛争に逆噴射してしまう。
ユーゴの新大統領が「(セルビア人とアルバニア人の) 共存」という主張を持ち出したのは、半分は EU や NATO に対する制裁解除のためのリップ・サービスかもしれない。だが、それが実現できれば、コソボ問題はひょっとすると穏便に解決できるのだから、注意して見守りたいところだ。それでも、「聖地」とかいうような精神的な動機が理由なら、まだいい。
厄介なのは、漁業資源や鉱物資源を目当てに、島嶼の奪い合いをするケースだ。なにしろ、どんなにチッポケでも島をひとつ確保すれば、そこから半径 200nm の範囲は事実上我が物にできるわけだから、これは大きい。個人同士の争いと同じで、カネが絡むと、途端に話がややこしくなる。人間なら一緒に住むことも可能だが、各種資源は「等分する」といっても品質の問題なんかも絡むから、ついつい喧嘩になる。
結局、これも話し合いで双方が妥協しなければ、収まりそうにないだろう。資源開発を共同でやって、成果は双方で配分する、という以外に、落としどころはないと思う。横から出てきて強奪するような真似を一方の陣営がすれば、大喧嘩は間違いないのだから。
だから、(あくまで仮定の話だが) 中国がある日突然、なんの断りもなく海洋調査船を尖閣諸島に派遣して資源探査をやったとすると、これは一種の泥棒行為である。正式な外交チャネルを通じて日本に「共同開発」を申し入れるとかいうのであれば、それは受け入れてもいいと思うのだが。 自分の立場だけを一方的に主張して、勝手に「俺の領土だ」と自国の領海法で宣言して、軍事力で威嚇して、既成事実を積み上げた上で隙あらば分捕ってしまえという態度だから、私は怒っているのだ。そんなものを認めていい訳がない。
それぞれの陣営における動機が何であれ、この手の紛争があれば、それに便乗して勢力拡大を図ろうとする馬鹿な政治屋は、どこの国にもいる。また、国内の不満を海外の領土問題に向けることで、問題のすり替えを図る政治屋もいる。
パレスチナの件にしても、双方に「共存」という主張を受け入れない「強硬派」がいるから、今回のような流血の惨事になってしまう。強硬派はどちらの陣営にもいるのだから、イスラエルだけを、あるいはパレスチナだけを悪者にしたって、何の解決にもならないだろう。
特に日本のマスコミに顕著な傾向だが、「とりあえず "弱者" の味方をしておけば安全」という風潮からか、イスラエルに批判的な報道が多いような印象を受ける。
だが、イスラエルほど、長い間にわたって外敵と戦ってきた国はないのだという点を、少しは考慮してみたっていいじゃないか、と思ってしまう。もっとも、その点を割り引いても、わざわざエルサレムに乗り込んで騒ぎに火をつけたリクード党首のやり方は疑問だ。リクードというのは右派の強硬派政党だから、パレスチナ人に対する配慮なんて考えないのかもしれないが、それではいつになっても撃ち合いが続くだろう。
パレスチナ側にしても、イスラエルの兵隊をリンチするなんていう、次元の低いマネをしてはいけない。自分の首を絞めるだけだ。
そのうち、サダム・フセインあたりが騒ぎに便乗して「死ぬ前にひと花咲かせよう」とばかりにイスラエルに弾道ミサイルをぶちかましたりしたら、いったいどうなることやら。サダム・フセインがガンだという噂があるが、本当ならやりかねない。
あるいは、もっと可能性の高い話として、ヒズボラがイスラエルにロケット弾を撃ち込んでくるかもしれない。そうなれば、イスラエルは間違いなく報復に出るだろうから、レバノンはサッカーの試合どころではなくなってしまう。
湾岸戦争の波及効果で、GCC 諸国がアメリカに頭が上がらない状態になってしまい、そのせいで石油ショックのような事態は起こすに起こせなくなってしまっていることから見て、今回の騒動がいきなり世界経済に大打撃をもたらす直接の原因になる可能性は低いと思う。だからといって、流血の惨事を放っておいていい訳がない。
たとえば、かつてサウジアラビアとクウェートの国境にあったように、エルサレムの神殿一帯を「中立地帯」ということにして、どちらの陣営の所有物でもなくしてしまい、その代わり、誰でも出入り自由にする、というような解決策は取れないのだろうかと思う。どちらかの所有にしようとすれば、絶対に血が流れるのだから。
そうでもしないと、このまま紛争状況がエスカレートして、聖地の神殿その他が、撃ち合いが元で傷ついたり破壊されたり、なんていうことも、あながち否定できないだろうと思うのだ。そうなってからでは遅過ぎるし、どちらの陣営にとっても失うものが多すぎる。
当座の撃ち合いを止めることも重要だが、根本的な和平プロセスのコンセプトとして「重要地域の中立化と共存化」を取り上げてみてはもらえないかと、切に願う次第だ。
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