井上孝司の Defense Column
 〜 「ミンスク空母ワールド」の真意

香港近くの、中国の経済特区 (だったかな?) として知られる深センに、旧ソ連の空母 <ミンスク> が搬入され、「テーマパーク」になったそうだ。

TV のニュース映像を見ると、ミサイル・ランチャーにはミサイルのダミー (まさか実弾ではあるまいが) が装填され、ヘリコプターや飛行機が展示されている。また、格納庫甲板ではロシア人によるショーが開催されているのだそうだ。

このニュースを指して、「空母保有を目指していた中国の、平和志向への変身」という見方もあるようだが、果たしてそんなにおめでたい解釈ができるものだろうか。


中国が空母を欲しがっているのは、まぎれもない事実である。また、それに便乗して中国に CTOL 空母を売り込もうとした、スペインのとんまな造船所もあった。この商談は幸いにも沙汰止みになったようだが、なにせ気の長い中国のこと。そう簡単に空母の保有を諦めるとは思えない。

だいたいこの施設、「中国の民間企業」が運営しているという触れ込みだが、軍が商売していたりする中国のこと、実は軍が陰のスポンサーとなった、「空母のなんたるかを国民に周知せしめて、中国も空母を持つべきだという世論を煽るための施設」ではないと、いったい誰が保証できようか。

もっとも、フネを作って飛行機を載せれば出来上がり、とはいかないのが空母の面倒なところだ。いや、どんな兵器でもそれは同じだが、特に空母の場合は、運用のためのノウハウの蓄積が必要で、道具だけ整えても、それでいきなり戦力化できるといものでもなかろう。

ただ、私が常々ここで書いているように、「現在の状態よりも、その背後にある "意思" の方が問題だ」という考え方は、この件にも当てはまると思う。問題なのは、空母を持っているかどうかよりも、空母を持ち、それによって外洋海軍を目指そうという "意思" が存在するという事実ではないのだろうか。

最近、日本の近所に中国の海洋調査船がうろついているのも、「外洋海軍」を目指す策謀の一環と考えるのが自然だと思うのだが。


もっとも、中国に限ったことではないが、「ハードウェアさえ揃えれば OK」という勘違いをしているという可能性も考えられなくはない。太平洋戦争のときの日本がそうだったが、「道具」を揃えることには熱心でも、その「道具」を効率よく働かせる仕組みを作るという方面で、見事に失敗した。

中国の場合も、空母という「器」と、スホーイ戦闘機という「中身」さえ整えれば米海軍並みの空母機動部隊ができる、と思っているとすると、それはサッカリンのように甘い考えというものだ。

先に書いた、空母自体を機能させるためのノウハウもそうだが、空母機動部隊を機能させるノウハウだって、相当なものがあるはずだ。陣形の組み方に始まって、艦載機の航法や管制、燃料武器弾薬の洋上補給、護衛艦の配備と運用、外敵に対する空母の護り方、そして何よりも人員の訓練。

米海軍だって、70 年以上の歴史があるからこそ、あれだけの空母機動部隊を運用できる。それを見掛けだけ真似しても、すぐにメッキは剥げるに違いない。太平洋戦争中の TF38 のような「ものすごい空母機動部隊」を運用したり、それに対する大規模な補給作戦のようなことをやった経験のある海軍は、世界のどこにもない。

もっとも、そんな御大層なレベルは目指さず、ASEAN 諸国を威嚇する程度の役に立てばよい、と考えているのかもしれない。それなら、ひょっとすると「空母がある」というだけでも威力を発揮する可能性がある。そもそも、軍事力の存在意義のひとつは「プレゼンス」なのだから、これが目的だとしても、筋は通る。

とはいっても、「あまり活動してない空母」と「ちゃんと活動している地上基地の不沈空母」を比較すれば、後者の方が実質的な威嚇効果がありそうなものだ。

さらに深読みすると、「中国が空母獲得で軍拡路線だ !」というムードを作り出して軍拡を煽り、周辺諸国を経済的に疲弊させて野垂れ死にさせようという深謀遠慮という可能性もある。アメリカの「レーガン軍拡」のように。


かつて、ソ聯が <ミンスク> を建造し、ウラジオストクに回航したときには、マスコミ総出で「お出迎え」をしたものだが、その後は結局、港に繋留しっぱなしでロクに「戦力」として役に立たなかった。ただし、「ソ聯軍拡の象徴」としての威嚇効果という点では、あのマスコミや政治家、右翼団体などの大騒ぎ振りを考えると、十分に意味があったと思う。

よりによって、その <ミンスク> が、また「お題」になっているのは皮肉な話だが、「沿岸海軍だった国が大洋海軍を目指す象徴」として「空母」が使われているという点では、かつてのソ聯海軍と、今の中国海軍は、似たような立場にあると思う。

もっとも、いわゆる「平和団体」なんかは「中国の空母なんて、そんなの口先だけだ」とか「中国が空母を持ったって、大したものになりっこない」と "過小評価" することで、軍縮の理由付けにしようとするかもしれない。ただ、これは「はじめに結論ありき」だから、そのまま額面通りには受け付けられないというものだ。

単に「空母の保有を目指している」という事実だけでなく、それが何の目的によるものなのか、実体はいかなるものなのかを、過大評価も過小評価もせず、冷静に見る目を失わないようにしたいと思う。

そういえば、中国の海洋調査船が日本の排他的経済水域 (EEZ) 内で活動している件について、森総理と朱首相の会談で「事前に通報するようにする」という合意ができたそうだが、とんでもない話である。

「事前に通報すれば活動してよい」というのは、「事前に通報すれば、誰かの家の『覗き』をやってもいい」あるいは「事前に通報すれば、誰かの家の盗聴・盗撮をやってもいい」といっているのと同じである。一体全体、森総理は日本の国家主権を何だと思っておるのだ。