井上孝司の Defense Column
 〜 タフネスが大事

いま、手元に Jane's Defence Weekly 誌があるのだが、表紙はイエメンで爆弾テロに遭って舷側に大穴を開けられた、USS Cole (DDG-67) である。
さすがに、最新のダメコン思想で造られたフネだけあって、6m×12m という穴がどてっぱらに開いても沈まなかったのだから、大したものだ。

ただ、この件に限らず、特にアメリカの軍艦のタフネスというのは傑出しているように思える。


たとえば、イラクが誤射したエグゾセ・ミサイルを 2 発も食らった、USS Stark (FFG-31) の例を見てみよう。この艦では、中央部の艦橋付近にミサイルが 2 発、立て続けに命中して大火災が発生した。

消火作業中の写真を見ると、消火のために放水された水が破口から流れ出して、船体も左舷側にかなり傾斜している。こんな状態でも、最終的に鎮火に成功して、本国に連れ帰るのができたのだからものすごい。

古い例では、太平洋戦争中には、ボコボコに破壊されても沈まなかった空母が何隻もいる。濛々と黒煙を吐いて傾斜している USS Franklin (CV-13) の写真を見たことのある人は多いと思う。

それに引き換え、エグゾセの不発弾が命中しただけなのに、それが元で発生した火災を食い止められずに沈没してしまった HMS Sheffield は、こういってはなんだが、情けない。

世界に冠たる優秀なイギリス海軍がどうしてこんなことになってしまったかというと、第二次世界大戦中に、火災でひどい目にあった経験が少ないからだとする説がある。

つまり、火災で貴重な軍艦を失った経験があまりなかったために、木材のような可燃性の材料がそこここで使われていて、それが火災をひどくした原因だ、という意見である。


もしこれが本当だとすると、ロシアの軍艦なども内装に木材をかなり使っているようだから、かなり危ないのではないか。だいたい、ロシアの海軍は、ソ聯時代も含めて、苛烈な海戦をかいくぐってきた海軍とはいいがたい。

原潜 <クルスク> の沈没事故の原因が、JDW でいうように魚雷の燃料漏れによる火災、あるいは爆発だとすると、ロシア海軍のダメージ・コントロールには深刻な問題があるのではないかと思える。

だいたい、性能にばかり気を取られて、SLBM に液体燃料を、それも海水と接触するだけで腐食性の強い硝酸を発生するような燃料を平気で使うのだから、それだけでも感覚がおかしいと思う。少し前に「敵対水域」を読んだときには、本当に震え上がってしまった。

潜水艦は海の上で活動するのだから、周りはこれ、すべて海水だ。にもかかわらず、海水と接触すると硝酸を発生する燃料を使うというのは、はっきりいえば、狂っている。ダメコン以前の問題だ。


今回は軍艦の話を主に取り上げているが、タフネスが大事というのは、どこでも同じだと思う。某エンジンのように「精密敏感」だというのは、全然自慢にならないし、某戦闘機のことを「日本刀と同じで、名人が使えば威力がある」というのも自慢にならない。

沖縄の海兵隊を取材したニュース番組で、泥水の中をくぐって訓練している兵士の映像を見たことがあるが、ああいう訓練をするぐらいだから、M16 自動小銃は、少々泥水に漬かっても撃てるのだろう。そうでなくてはいけない。

先のイギリス海軍の話に見られるように、実際に自分達がひどい目に遭わないと、なかなかこういう教訓というのは取り入れられないものなのかもしれない。特にアメリカの場合、太平洋戦争やベトナム戦争でいろいろと過酷な目に遭っているから、それが原因でタフネスに対する気配りが行き届いているという可能性は高い。

ただ、自国がそういう目に遭わなくても (平和な状態が保たれるのがベストなのだから)、他国の教訓を見ていて、それを取り入れるというのは誰でもできるハズだ。「井の中の蛙」になってしまってはいけないと思う。
あと、設計や製造の面だけでなく、関係する要員の訓練については、いわずもがなだ。

現に、日本でもフォークランド紛争の戦訓を取り入れて、護衛艦の上部構造物の材質をアルミから鋼材に戻したりしている。こうでなくてはいけない。

本当に「技術力がある」というのは、こういうことをいうのだと思う。ついつい、「技術力がある」というと「複雑巧緻・精密敏感」のことだと勘違いされがちだが、それなりの性能を出しつつタフネスを確保するというのは、「複雑巧緻・精密敏感」よりも難易度が高い要求ではないかと思うのだ。

最強の性能を実現するために、必要以上に精密敏感・複雑巧緻になってしまうよりは、目標の 80%〜90% の性能でも、整備がしやすくてタフネスを重視した造りになっている方が、きっと実戦の役に立つと思う。
最終的には両者のバランスをどこで取るかという問題なのは承知しているが、そこのところが分かっていない人がときどきいるようだから、あえて今回はこういう論旨でやってみた。どんなものだろう。