井上孝司の Defense Column
 〜 海上自衛隊の誤射事故を質す

本当は別のネタを用意していたのだが、海上自衛隊の CIWS 誤射事故が発覚したので、急遽差し替えてこの件を扱うこととしたい。

TV 報道によると、海上自衛隊 第三護衛隊群のヘリコプター護衛艦 <はるな> で、バルカン・ファランクス近接防禦システム (CIWS) の実弾発射訓練を行った際に、なぜか事情があって実弾 2 発が余り、それを訓練用の模擬弾に混ぜて保管しておいたところ、後に模擬弾を使った発射訓練の際にその模擬弾を使用したため、混じっていた実弾 2 発が陸上に向けて発射されてしまったとのことである。

問題は、以下の点であろう。

  1. 実弾が余った際に、なぜそれを元の保管場所に返却できなかったのか
  2. 模擬弾を装填する際に、実弾が混じっていることに気付く余地はなかったか
  3. 事故が発生した後で、なぜ本件を秘匿したか
3. については、組織ぐるみで隠蔽したのではないかと疑いたくもなる。たまたま現場の北吸桟橋は訪れたことがあるが、国道からも近く、たった 2 発とはいえ実弾をぶっ放せば、かなり多くの人が気付いてもおかしくない。もっとも、基地外部の人間は、まさか実弾を桟橋で撃つとは思わないだろうからそれと気付かない可能性もあるが、内部の人間は何事かと思わなかったのだろうか。

それより問題なのが 1. だ。そもそも、今回の事故の直接の原因は、余った実弾を担当の下士官が金庫に保管し、後にそれを模擬弾の中に紛れ込ませた点にある。なぜ余った実弾を元の弾薬庫なり何なりに返却できなかったのだろうか。

バルカン・ファランクス CIWS の主武装である 20mm 機関砲 M61 は、構造上、トリガーを離してもすぐには停止せず、実際に射撃が停まるまでに、さらに数発の弾丸が発射される (一説によると最低 8 発) というから、装填した弾丸と発射した弾丸の数にずれが生じても致し方ないのではないかと思える。というのは、マガジン内の弾丸を撃ち尽くすタイミングを見計らって射撃を停止したとしても、カラになったところでピタリと停止するとは限らず、タイミング如何では弾丸が余ることになるからだ。
なにしろ発射速度が毎分 3,000 発 (航空機搭載型では毎分 6,600 発) の機関砲だ。すぐに停まるわけがない。

もっとも、そのこと自体に問題はない。問題は、弾丸が余った場合を想定して、それを正しく返却する手続きを定めていなかった、あるいは返却できないような事情を作ってしまった点にあるのではないか。この点に関する海上自衛隊の見解を伺いたい。

なお、2. については、一応書いてみたが、実際には難しいだろう。確かに、模擬弾は銀色で実弾は黒色だから見れば分かるのだが、機械仕掛けでマガジンに装填している弾丸の色をずーっと見張っていろといっても、これはちょっとできない相談だ。


自衛隊でも米軍でも、しばしば事故が起こったこと自体が非難される。もちろん事故を起こさないほうがいいに決まっているが、完全に事故を根絶してしまうのは不可能だろうし、事故を気にしてちゃんと訓練しないことの方が、国防の観点からは問題だ。
事故を起こしても周囲に影響の出にくいような環境を用意すること、事故が起きても人命が損なわれないようにすること、この二点が守られれば、個人的にはそれでよいのではないかと思う。(「平和団体」の皆さんは納得しないだろうが)

むしろ問題にしたいのは、事故を隠蔽せざるを得ないような体質、事故を生む遠因になるような弾薬の取り扱い、の二点だ。ギリギリのところで訓練をしているのだから、ときどき事故が起きるのは仕方がないとして、そのことを直ちに公表した上で迅速な原因調査と対策を約束し、その結果も (機密防止に引っかからない範囲で) 公表することの方が、むしろ自衛隊に対する信頼を高めるのではないか。

米軍では、しばしば墜落事故が発生したりするが、それに対しては直ちに調査が行われて、報告書が発表されているというニュースをときどき聞く。日本でも同じことができないはずはない。

また、マスコミ各社も、そうした観点から報道をするというわけにはいかないのか。だいたい、事故でも何でも隠蔽したがるのは、不祥事が報道されて叩かれるのを嫌ってのことだと思う。もちろん不祥事を報道するのは結構だが、単なる自衛隊バッシングではなく、もうちょっと「建設的」な報道はできないものか。

今回の件でも、某テレビ朝日あたりでは、お決まりの「一歩間違えば大惨事」という言い方が聞かれたが、20mm 機関砲弾 2 発で、どんな「大惨事」が起こるのだろうか… いくら威力があるといっても、小屋一軒も破壊できないと思うが。だいたい、タングステン弾芯だから炸裂もしないはずだ。
こういう、センセーショナリズムに偏った「情緒的報道」が改善されないと、今後も似たようなことが起こると思うのだ。

もうひとつ気になったのは、海上自衛隊では、こと CIWS に関わる事故が多いという点だ。かつて、RIMPAC 演習の最中に護衛艦の CIWS が米海軍の A-6E 攻撃機を誤射し、海上自衛隊の「初戦果」を記録したという事件があったが、他にも「偉いサン」の乗ったヘリがある護衛艦に接近した際にたまたま CIWS の電源が入っていて、ヘリめがけて射撃を開始した (幸運にも弾が入っていなかったそうだが) という事故があったとも聞く。どうしてかくも CIWS に関わる事件が起こるのか、調査と安全守則の見直しが必要ではないかと思える。


ここから余談。

CIWS の弾丸は威力を高めるために比重の大きいタングステンの弾芯 (アメリカでは劣化ウラン弾だが、これは日本では使えない) を使用しているが、それと関係があるのかないのか、とにかく弾が 10km も飛んだのには驚いた。通常、火砲の射程距離は口径の 10 万倍というのが目安だから、せいぜい 2km ぐらいだろうと思ったのだが、その 5 倍も飛んだとは。開発中のブロック 1B では現行モデルよりも銃身が延長されているから、初速と射程はさらに延びている可能性がある。ファランクス侮りがたし。

参考 :
メーカーの Raytheon 社の製品紹介

米海軍提供の、ファランクスの Fact File