井上孝司の Defense Column
 〜テポドンの「脅威」の本質

またもや、北朝鮮が自国製の弾道ミサイル「テポドン」を発射するという情報が入ってきている。

このテポドンやノドンといった一連の弾道ミサイルに関して、「重大な脅威である」という意見と、「脅威にあたらない」という意見がある。特に後者についていえば、「命中精度が悪いから脅威ではない」という人がいる。
(後者のような意見を主張するのは、往々にして「平和運動家」であることがあり、確かに「脅威」の存在を認めると運動の意味が問われてしまうので、そういいたくもなるのだろう、と勘繰りたくもなる)


確かに、古い設計のミサイルに継ぎ足し継ぎ足しして開発された北朝鮮の弾道ミサイルの命中精度がよくないのは周知の事実で、半数命中界はキロメートル単位だともいわれている。これでは、少なくとも戦術ミサイルとしては使い物にならない。また、射程延長のために弾頭の重量を減らしているので、核弾頭でも積まない限り、戦略兵器としても使い物にならないだろう。

では、テポドンがまったく何の役にもたたないかというと、そうともいいきれない。テポドンは、「テロ兵器」としては十分に役に立つはずだ。

テロ兵器。つまり、どこでもいいから敵国にミサイルを撃ち込んで人的被害を出すことにより (その際、被害の大小は問題ではない)、敵国に対して政治的メッセージを送り、「われわれ式のやり方に口出しするとタダゴトでは済まされないぞ」という脅迫を行うためなら、命中精度が悪かろうが破壊力が少なかろうが、まったく不自由はない。まして、そこに化学兵器や生物兵器が積まれていれば、なおさらだ。

日本にしろ韓国にしろ、国土が山がちで、人口の多くが平野部に集中しているという地勢的条件を考えれば、その平野部めがけてミサイルを撃ち込めば、目的は達成できるはずだ。韓国ではどうだか分からないが、日本ではおそらく「日米安保だのガイドラインだのというものがあるからミサイルが飛んでくるのだ、直ちにアメリカと手を切れ」と主張する向きが出てくるだろう。

自民党政府がそんな言い分に耳を傾けるとは思えないが、少なくとも国内を混乱に陥れることはできる。中には、自衛隊や米軍の施設に出かけていってデモ行進をやり、活動を妨害しようとする向きも出てくるだろう。これはすなわち、北朝鮮にとっての利得となる。


また、形はどうあれ「脅威になり得る」弾道ミサイルを保有しているということが、北朝鮮の政治的発言力を増しているのも事実だ。もし弾道ミサイルがなければ、旧式兵器ばかりを揃えた北朝鮮の人民軍は、ただの「烏合の衆」になってしまい、抑止力にならない。戦争を抑止できてこそ、存在価値のある軍隊というものだ。
北朝鮮も、それが分かっているから弾道ミサイルの開発を止めないのだろう。

実際にテポドンが日本に向けて発射されたとしても、たとえば日本海岸の原発に直撃する確率は非常に低いと思う。飛行場ぐらいなら、まぐれ当たりするかもしれないが。
だから、(通常弾頭を使用している限りでは) テポドンが国土を「火の海」にするような決定的な脅威になるとは思わないが、少なくともテロ兵器としての存在価値は認めておくべきであろう。イザというときにミサイル発射を躊躇するような国ではないのだから。