井上孝司の Defense Column
 〜 戦艦大和は傑作か?

今週は、あまり大きいネタもなかったので、以前に予告した戦艦大和の話を。

戦艦大和といえば、零戦と並ぶ日本海軍の人気者で、今でも関連書籍はよく売れるそうだ。なにしろ、しまいには「宇宙戦艦」になってしまったぐらいだから、人気のほどが知れるというものだ。

しかし、そんなに優れた設計のフネだったのだろうか、という疑問がなくもない。なにしろ、手間ひまかけて建造した割には、大和・武蔵の双方ともボカ沈を食らっているのだ。そんなに優れた軍艦なら、もう少し粘ってみてもいいはずだ。


だいたい、大和の人気の主因は、第二次大戦当時では唯一の「46cm 砲搭載」という点に尽きるのではないかと思う。実は、イギリス海軍が第一次大戦の頃に 46cm 砲を搭載した「ハッシュ・ハッシュ・クルーザー」を建造していたから、46cm 砲が日本の専売特許というわけではないが、いわゆる「戦艦」で 46cm 砲を搭載したものは他にないから、日本海軍贔屓が鼻をうごめかせるのも無理はない。

が。大和の誇りであると同時に、大和の足を引っ張ったのも、この 46cm 砲だ。

戦艦の防禦というのは、自分が積んでいる主砲に対応したものを基準にして考える。だから、46cm 砲弾を受け止められるだけの防禦が必要とされた。そのため、最厚部 41cm の分厚い舷側傾斜装甲を筆頭に、とにかく装甲で固めに固めたのだが、あいにくと艦の全体にそんな装甲を張り巡らせるわけにはいかない。そんなことをしたら重過ぎるからだ。

だから、「集中防禦方式」という奴で、弾薬庫、機関室、といった重要部分 (バイタル・パート) だけに徹底した防禦を施し、他の部分は細かい水密区画に区切ることで対策している。これは他国の戦艦もそうだから、別に欠点とはいわない。しかし、大和の場合、このバイタル・パートの長さが、全長に比べて短いのだ。

大和のバイタル・パートは、一番主砲搭の直前から三番主砲搭直後までの部分だが、全長に占める比率は 60% に満たない。だから、バイタル・パート以外の部分への浸水が多くなると、弱みが出てくる。現に、シブヤン海で沈没した武蔵は、艦首の非バイタル・パート部分への浸水を止められずに沈没した。

また、全長とバイタル・パートの双方を短くするために (短くすれば、その分だけ装甲の重量を節約できる)、機関室の配置を切り詰めたのも問題だ。大和の機関配置は、煙突直下にボイラー室が 12 あり (4 列×3 行)、その後ろにタービンが配置されていた。この配置だと、確かに全長は節約できるが、生命線たるボイラーが集中配置されているので、抗堪性に問題が出てくる。それに、ボイラー室は空間としては大きい部類だから、浸水したときの影響も大きい。

これに対し、アメリカの戦艦アイオワ級のようにシフト配置をとれば、一発食らって内舷機か外舷機のどちらかは使えなくなっても他が残る確率が高まるから、生存性という面では有利だ。シフト配置というのは、ボイラーとタービンをワンセットにして、内舷機と外舷機で (2 軸艦なら右舷機と左舷機) 前後にずらして配置する方法のことで、今でも多くの軍艦はこの方法を取っている。

大和の場合も、シフト配置にしようという考えがなかったわけではなかろうが、ここで足を引っ張ったのが 46cm 砲だ。なにしろ重い大砲だし、それに対応するための装甲重量の要求も厳しいから、他の部分の重量割り当てにしわ寄せが来るのは避けられず、機関配置もそのトバッチリを食った可能性がある。

さらにいえば、限られた機関スペースで確実を期すために馬力を抑えたので、最高速度が 27kt にとどまり、30kt オーバーの空母機動部隊への随伴が難しくなった。もっとも、速度が出て燃料が潤沢にあったとしても、虎の子の大和を空母機動部隊に付けて出したかどうかというと、疑問が残る。ミッドウェイのときのように、「主力部隊」と称して後ろの方を走らせるのが関の山だったかもしれない。


だいたい、かんじんかなめの 46cm 砲からして中途半端だ。なるほど、口径が大きいから 40cm 砲よりも砲弾は重いし、それだけ破壊力も増すだろう…と思ったが、実際はアイオワ級の 40.6cm 砲 Mk.7 と比べても、意外と差がなかったらしい。その理由の一つは、砲身が短かったことにあるのではないか。

大和の主砲は 45 口径、つまり砲身の長さは 46cm×45 = 20.7m。これに対しアイオワ級の Mk.7 は 40.6cm/50 口径だ。通常、砲身が長い方が初速が増し、貫徹力も増す。

大和が 45 口径にとどめたのは、砲身の寿命と重量を考えて堅実策をとったからだそうだが、そのおかげで Mk.7 とそれほど威力に差がない大砲ができあがってしまった。これも、ひとえに 46cm 砲に固執したからだ。

アイオワ級の方が装甲が薄いのは事実だから、当たれば大和の 46cm 砲の勝ちだ。だが、速力と機動力に勝る相手に光学照準だけで命中させるのは大変だし、他方、相手は機動力を生かして走りまわり、より多くの数の砲弾を撃ち込んでくるから、アイオワ級の弾の方が命中率が上がる可能性は高い。大和は毎分 1.5 発なのに対し、アイオワ級は毎分 2 発の弾を撃てるから、単位時間で撃てる弾の重量ではアイオワ級の方が上なのだ。
そして、バイタル・パートに当たった弾なら装甲で防げても、全長の半分近くを占める非バイタル・パートに当たったものはどうしようもない。


かくして、46cm 砲に固執したばかりに、防禦力に問題を抱え、攻撃力が中途半端で、燃料食いで速力が出ないために出番の少ない戦艦が出来上がってしまった。経済力と工業力に劣る国がこんなことをやっていては、勝てるものも勝てなくなる。厳しいようだが、これが大和の実態なのだ。これでもあなたは、大和が "無敵" 戦艦だといいますか?