井上孝司の Defense Column
 〜日韓共同演習を評価する

先日、海上自衛隊と韓国海軍が、初めての共同演習を実施した。

それに対し、労働組合などが「北朝鮮を追い詰めるものだ」といって反対デモをしたそうだが、私は、この演習を高く評価したいと思う。


そもそも、日本と韓国の間にも、竹島のような紛争の種がある状態であるから、少しでも軍事的緊張緩和の手段があれば、たいへん望ましい。

軍事的緊張緩和と一口にいっても、もともといがみ合っているものが、ある日突然手を握れるわけもなく、何らかのプロセスを経て距離を縮めていくのが普通だ。その手段として、相互訪問や共同演習が効果的なのは、ヨーロッパでも実証済みだ。

ある国が、別の国に対して「軍事的脅威」を感じる理由の一つは、「相手の得体が知れない」「相手の顔が見えない」といったことである。得体が知れない相手は、実際以上に不気味に映りがちであるのは、いうまでもないだろう。しかも、その相手国が、国家予算の大半を軍事費につぎ込んでいれば、なおさらだ。

そのいい例が北朝鮮で、あの国には誰でも行きたいときに気軽に訪問するというわけには行かないし、もし訪問できても、北朝鮮政府が「見せたいもの」しか見せてもらえない。これでは、相手の国民や兵士の顔は見えないし、結果として相互理解には程遠いのが実情だ。
北朝鮮に限らず、独裁国家や共産主義国家には、多かれ少なかれ、似たような傾向があるといっていいだろう。

その点、相互訪問や共同演習というプロセスがあれば、少なくとも相手の「顔」が見える。会って、話をして、飯を食い、酒を飲み、相手が何を考えているのかを互いに知ることこそが、緊張緩和への特効薬である。時間はかかるが。

韓国の場合には北朝鮮ほど事情は悪くないが、歴史的行きがかりもあり、今までは共同演習などといい出せる状況ではなかった。それを考えれば、共同演習ができるようになったというのは、大きな前進である。(数年前に共同演習を実施したロシアに対しても、同じことがいえる)

これをきっかけにして、日本と韓国が海上防衛に関して共同歩調を取ることができれば、地域全体の安全保障の面で、非常に役に立つのではないかと思う。


では、これを北朝鮮から見ると、どうだろう。もちろん、「日韓が手を組んで追い詰めにきている」という見方をするのが自然だろう。なにしろ、こういうことに関しては被害者意識の強い国である。だが、見方を変えれば、これはいよいよ、韓国「解放」戦争が割に合わないものになったということでもある。

もし北朝鮮の指導部がマトモな脳味噌を持ち合わせていれば、負けが必至の戦争を起こすハズがない、と信じたい。だがあいにくと、過去の歴史を見ると、都合のいい妄想に基づいて勝利を確信し、客観的に見れば負けるハズの戦争をおっぱじめてしまった国は、日本を初めとして、いくつもある。北朝鮮の現在の状況は、60 年前の日本と、非常に似ていると思うのだ。

だから、こちら側としては、軍事的挑発に対する断固たる対応や共同演習といった「剛」の政策だけでなく、食糧援助や相互訪問という「柔」の政策の二本立てで臨むしかないのだが、北朝鮮の言い分を一方的に呑んでも調子に乗らせるだけなので、柔と剛のさじ加減が難しいのも事実。
しかし、日韓がモメていると、それはそれで「帝国主義者の仲間割れで祖国解放闘争のチャンス到来!」などと勘違いされかねないので、どっちにしても共同演習はプラス要素である。

と、この記事を書いていたら、「経済制裁を我々の望むように緩和すれば、テポドンの発射を止めてもよい」といっていた、というニュースが入ってきた。相変わらずである。やれやれ。