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井上孝司の Defense Column
〜日本は核武装して得をするか?御存知のように、防衛庁の西村 (前) 防衛政務次官が、舌禍事件を起こして辞任した。この国では、「核武装」はタブー中のタブーなのは自明の理なのだから、こんなことを発言すればタダゴトでは済まないのは、まともな脳味噌がついていれば最初から分かっていたハズで、西村氏の見識を疑う。
それはともかくとして。はたして、西村氏が言うように、「核兵器がない国が一番危ない」のだろうか。
そもそも、核兵器を持っていない国の方が絶対多数派なのだから、西村発言を字面通り受け取れば、世界中、「危ない国」だらけになってしまう (笑)。
現実には、「核兵器を持っている国と紛争を抱えているが、自分は核兵器を持っていない」国というのが、比較的「危ない」といえるだろう。(西村氏の発言の真意がそこにあったのかどうかは不明)
よしんばその通りであるとしても、それでは核兵器を手に入れれば話は解決するのかというと、そう簡単な話ではないと思う。
核兵器は、いうまでもなく通常兵器と比較すると非常に強大な破壊力を持っている。だが、その破壊力が大きすぎることと、放射線障害などの二次的被害が大きいために、(少なくとも文明国にとっては) 滅多なことでは使えない兵器になってしまっているのが現実だ。つまり、核兵器は、軍人が戦術目的に使用する兵器というよりは、政治家がその威力をちらつかせて駆け引きのために使う「政治的カード」としての色彩が濃くなっている。
その「政治的カード」としての有効性から、核兵器の入手で「政治的立場の一発逆転」を目指す国は、インド、パキスタン、北朝鮮、イラク、リビア、といった具合に後を絶たない。特に、北朝鮮は核兵器の開発や弾道ミサイルの開発を、援助の引き出しと制裁緩和のためのカードとして小出しに使って、日本を含む周辺諸国を翻弄しているのは御存知の通りだ。これも、核兵器の破壊力と政治的効果の大きさゆえである。
だから、インドとパキスタンの核開発競争にしても、「あっちが持ってるからこっちも」という考えが根底にあるにしても、本気で戦争に使おうというよりは、政治的な発言力を増すという狙いがメインにあるのではないかと思う。つまり、他を犠牲にしてまで核開発につぎ込む資金と人材、核開発が明るみに出た場合の国際的反発といった「核開発のコスト」よりも、核開発によって得られる政治的発言力と威嚇効果という「核開発のゲイン」の方が大きいと見たから、核開発を推進してきたというわけだ。
では、日本が仮に核武装を企図した場合の「核開発のコスト」と「核開発のゲイン」はどうだろう。
世界政治における発言力を支える三本柱は、いうまでもなく政治・経済・軍事である。日本の場合、(最近はちょっと怪しいが) 経済力の裏付けのおかげで、そこそこの存在感はある。また、日本の場合、軍事力は表に出すと却って失うものが多いので、政治の貧困を別にすれば、現状はそれなりに理に適った状態ではないかと思う。つまり、すでに日本は国際社会においてそれなりの存在感と発言力を得ていると思うのだ。あくまで、「それなりの」だが。
では、その状態で核開発を強行したらどうなるか。
国際的反発がすさまじいものになるのは間違いないだろう。特に、中国・北朝鮮あたりは何を言い出すか予想がつかない。それに、同盟国のアメリカにしても、核開発放棄の圧力をかけてくるのは確かだ。さらにいえば、国内世論も二分され、朝野を挙げての大混乱は必至である。また、もし経済制裁でも食らえば、貿易で食っている日本経済は干上がってしまう。石油も食料品もその他多くの一次産品も輸入品だらけ、しかも経済基盤を輸出に置いている日本が経済制裁を受ければ、そのダメージは計り知れないだろう。北朝鮮あたりの経済制裁とは影響がぜんぜん違う。
その一方で、限られた核兵器の運搬手段しか持たない日本にとっては、核兵器があっても、せいぜい戦域レベルの有用性しか持たない。H-II などのロケット開発技術があるという見方もあろうが、それを実際に撃って確かめるための射場を持たないのだから同じことだ。
(だいたい、核開発をするとしても、どこで爆発実験をするというのだろうか?)要約すると、日本にとって、「核開発のゲイン」と比べると「核開発のコスト」は大きすぎるのである。
そういった事情を考えると、日本の核武装は失うものの方が多く、あらゆる意味で引き合わないといえる。むしろ、得意のハイテクを駆使した、小規模ながら精強な通常兵器の抑止力と、日米安保によるアメリカの応援を組み合わせている現状が、安全保障上はベストであろう。(ただし、それを有効なものとするには政治的意思が足りないのも事実だ)
西村氏の他の発言を見る限り、西村氏がそこまで考えた上で核開発をプッシュしているとは考えにくい。「国軍復活」「八紘一宇」発言などを見る限り、西村氏の核武装発言は、他の発言や日頃の行動も含めて、単なる「大日本帝国復活願望」と見るのが妥当ではなかろうか。
つまり、彼は「それなりの」立場ごときでは納得ができなくて、「日本が率いる世界秩序」が欲しいのだろう。なんのことはない、「イラクに率いられたアラブ社会」を目指すサダム・フセインと同じことである。
付け加えれば、「強姦発言」は、いくらなんでも品がなさすぎる。問題外である。 ![]()