井上孝司の Defense Column
 〜 海自 DDH の後継はヘリ空母? (1)

いきなり業界用語を出してしまったが、DDH とは、海上自衛隊が保有する「ヘリコプター護衛艦」のことである。護衛艦 (いわゆる駆逐艦・フリゲート艦) の艦種記号が "DD" であるので、それのヘリコプター搭載艦ということで "H" がくっついている。

この 4 隻の DDH (はるな、ひえい、しらね、くらま) は、4 個ある護衛隊群にそれぞれ 1 隻ずつ配備され、各護衛隊群の旗艦になっている。
これらの DDH のうち、<はるな> と <ひえい> は古手で老朽化が進んでいるため、近いうちに代艦建造計画が具体化するものと見られ、後継艦として「ヘリ空母期待論」というものが、散見されているのが現在の状況である。

しかし、本当に、いわゆる「ヘリ空母」が必要なのだろうか。


「ヘリ空母待望論者」が根拠として挙げるのが、輸送艦 <おおすみ> の存在である。"flat top" であるというだけの理由で中国には空母扱いされ、「日本脅威論」を煽る道具にされているにもかかわらず、実態は、ヘリが着艦して給油できるだけという「なんちゃってヘリ空母」である。実は、あの "flat top" の大半は車輌を並べておくためのスペースに過ぎないのだが、一見したところでは空母のように見える。
そして、「ヘリ空母待望論者」がいうには、<おおすみ> はヘリ空母建造のための試金石なのだそうだ。

しかし、<おおすみ> の内部構造を見ると、そのままではとてもヘリ空母に流用できる設計とは思えない。最上甲板の強度も、2 個所のヘリ着艦スポットを除いては、ヘリの発着には全然足りないというし、その直下の甲板全体に居住区がデンと据えられていて、その下に 2 層分の車輌甲板があるという構造では、車輌甲板をそのままヘリ格納庫に流用するのは不可能だ。

それに、エレベーターのサイズも小さすぎるし、船体が商船構造ということで、軍艦構造と比べると無駄が多い。輸送艦なら商船構造でも許されるだろうが、マトモな「ヘリ空母」を商船構造では造らないだろう。また、飛行甲板の材質も、そのままではジェットの排気に耐えられるかどうか疑わしい。

さらに付け加えると、<おおすみ> は、護衛隊群の中核艦として行動させるにはスピードが遅い。最高速度 22kt では不足で、主機をガスタービンに換装して 30kt は発揮できるようにしないと辛いだろう。主機が変われば、艦内配置は全部やり直しだ。

というわけで、もし <おおすみ> と同程度のサイズのヘリ空母を建造するにしても、一から設計はやり直しということになりそうだ。つまり、「<おおすみ> テストベッド論」は、外見的な面以外は根拠がないということになる。


では、イギリス海軍のインヴィンシブル級に匹敵する、本格的な V/STOL 空母の可能性はどうだろう。

予算や人員のことを考えなければ、建造するだけならできるだろう。艦載機にしても、日本にならハリアーや JSF は売ってもらえそうだ。

しかし、V/STOL 機や搭載するミサイルを維持・補修する施設も、パイロットの訓練シラバスも、運用のノウハウもないのが海上自衛隊の現実だ。
ヘリ空母といっても、フネを用意して艦載機を買ってくればおしまいというわけにはいかない。それを支える周辺インフラの方がはるかに整備が大変で、手間もカネもかかる。さらに、運用と戦力化のための有形無形のノウハウを蓄積するには、相当な時間がかかるだろう。果たして、「ヘリ空母待望論者」が、そこまで考えて言っているのか疑わしい。

現実に、タイでは小型のヘリ空母とハリアーを輸入したものの、経済悪化で事実上、ないも同然の状態になっている。もし経済事情がよくても、すぐに戦力を発揮できるとは思えず、単なる「国家プレステージの象徴」程度の意味しかないのが現実だろう。
(最初から、そのつもりだったりして…)

それに、イギリスですらインヴィンシブル級を実働 2 隻しか維持できていないのに、たいして規模の変わらない海上自衛隊が、それを 4 個護衛隊群配備分、合計 4 隻も同時に維持できるだろうか。しかも、その周囲を取り巻く護衛艦だって必要だ。そうなると、ヘリ空母に食われる以上に経費がかかり、しかも、護衛隊群はイージス艦とヘリ空母を護るのに精一杯という笑い話になるだけではないのか。


そもそも、固定翼戦闘機を搭載する V/STOL 空母は、自国から離れた、味方の地上基地航空機によるエアカバーが受けられない海域で、制空権を確保するために使うものだ。

日本の地理的条件からいえば、たとえば北朝鮮が航空機を出して日本のシーレーンを脅かそうとしても、そもそも日本の上空を通らないと日本の南方シーレーンまで進出できないから、航空自衛隊が E-767 とF-15J を出して食い止めれば済むことだ。
だいたい、経空脅威を及ぼすことができるような飛び道具を、北朝鮮は持っていない。

では、中国はどうか。中国の場合、飛び道具は一応あるが、台湾かフィリピンを占領でもしない限り、船舶の通行経路を東方に迂回すれば、大半の経空脅威は避けられる。中国には空母保有の意思だけは存在するから、それを相手にするという意見もあろうが、それならわざわざヘリ空母を造って張り合わなくても、沖縄や硫黄島といった「不沈空母」に、ASM-2 を搭載した F-2 を展開させる方が安上がりだろう。

そもそも、どちらの国にしても、日本のシーレーンの維持ということを考えれば、経空脅威よりも潜水艦の方が厄介な相手である。それなら、ハリアーも JSF も要らない。対潜ヘリがあればよい。それだけなら、インヴィンシブル級のヘリ空母は大げさすぎる。


というわけで、なにやら長くなってしまっているので、続きは来週に持ち越そう。