井上孝司の Defense Column
 〜 海自 DDH の後継はヘリ空母? (2)

先週と今週は、海上自衛隊のヘリコプター護衛艦の後継艦として巷間いわれている「ヘリ空母待望論」について考察を進めている。今週は、その後半である。

先週の本稿では、英海軍のインヴィンシブル級のような本格的な V/STOL 空母を装備する必然性はないという理由を説明した。


V/STOL 空母がオーバースペックであるとして、では仮に「ヘリ専用空母」としてみても、現在の DDH をスペックで上回ろうとする必然性はあるのだろうか。

もし、今の護衛艦隊に欠けているものがあるとしたら、対潜戦・対空戦以外の戦闘に対する備えが、少々弱いと思う。たとえば、北朝鮮の不審船騒ぎが、これに当たる。
対策としては、現用の SH-60J 対潜ヘリに空対艦ミサイル (ペンギン?) を積んでもよいが、それでは蒸気ハンマーでクルミを割るの感もあるので、それ用の特殊作戦用機があれば、便利といえば便利そうだ。

となると、機関砲、暗視装置、レーダー、レーザー目標指示器、小型の ASM (ヘルファイアなどがよかろう) を搭載した特殊作戦機を開発するとして、SH-60 のエアフレームを流用するという方法と、MV-22 オスプレイのような、さらにスペック面で上回る機体を持ち込むという手が考えられる。コスト面では前者だが、スピードでは後者だ。

しかし、どんなヘリでも、いかなる不審船より圧倒的に速いのだから、ヘリで十分ではないかと思う。SH-60 の流用なら、すでに SH-60 の支援体制はあるのだから、兵站面でも有利だ。

ただ、日本は海上交通路の確保が至上命題ということを考えれば、対潜ヘリの数は減らしたくない。つまり、現在の DDH と同じ 3 機は積みたい。さらに、特殊作戦仕様の SH-60J (MH-60J?) を必要に応じて 1〜2 機程度搭載するというのが妥当だろう。


船型についてだが、ハリアーを滑走離艦させるのでなければ、なにもわざわざ "flat top" のフネを無理して作る必要はない。艦尾側にヘリ 2 機を同時に発着可能なスペースを確保した上で、ステルス性を持たせた上構内に、ヘリ格納庫を 4〜5 機分確保する。

となると、その分だけ固有兵装のスペースは減りそうだが、自衛用のシースパローを Mk.48 垂直発射システムに搭載し、あとは OTO メララの 127mm 砲を 1 門、324mm の 3 連装魚雷発射管を 2 基、ファランクス CIWS、といったところでよかろう。
エリア・ディフェンスはイージス艦に任せればいいし、対潜戦はヘリにやらせればよろしい。

問題は主機だ。ガスタービンにしたいところだが、主機が鎮座する艦の中央まで航空艤装に占領されてしまうだろうから、給排気系統の取り回しが難しい。艦首寄りまで給排気管を引っ張ってくれば解決しそうにも見えるが、スペースの無駄が大きい。

"flat top" にすれば、この問題は解決できる (右舷側の上構に配管を引っ張るだけで済む) が、今度は格納庫を船体内に配置する必要が出てくるので、それはそれで乾舷が増すとかエレベーターが要るといった面倒がある。

いっそ、開き直って左右非対称断面にして、煙突を右舷舷側に寄せて、ヘリ発着甲板の脇に立てるという考えもあるが、果たしてどうだろうか。実はこの手のレイアウトは、米海軍がスプルーアンス級の船体を利用したヘリ空母を検討した際に、俎上に上ったことがある。


もともと、何事につけ「ハイスペック願望」の強いこの国のこと。見栄や個人的願望は措いておいて、本当に必要なもの、費用対効果に優れたものを、冷静に考えてみるべきだろう。軍備はいくらカネがかかってもいいという時代ではないのだ。むやみな「ゴージャス志向」は、叶姉妹だけでたくさんである。
それに、ヘリ空母にかけるカネがあったら、TMD のためにイージス艦を増やし、すべてのミサイル護衛艦をイージス化して SM-3 ミサイルを搭載する方が、現状ではプライオリティが高いと思う。

これを言ってしまうと身も蓋もないのだが、「ヘリ空母待望論者」の本音は、単なる「大日本帝国海軍に少しでも近づきたい願望」ではないかと思うのだ。日本の場合、かつて世界第三位の海軍を保有していた歴史があるだけに、その状態を少しでも再現したいという願望があって、そのために「正規空母とはいわないまでも、せめてヘリ空母を」という結論を誘導したくなるのではないか。

ついでに嫌味を書いておけば、海上自衛隊が艦隊航空隊を組織して、隊長の名前が「源田」とか「大西」とでもなれば、一部では大ウケ間違いなしだろうが、それは巷にはびこる "シミュレーション戦記" という名の "妄想戦記" の読みすぎである。

私としては、「空母型」をあくまで頑強に否定するつもりはないのだが、単なるマニア的願望から「次期 DDH は空母型だ!」「オスプレイも欲しいぞ!」「ハリアーも積もう!」と気勢を上げるのを見ていると、「おいおいちょっと待てよ」といいたくもなるのである。

歪んだドクトリンに振り回されて、いびつな戦力構成になってしまった、かつての日本海軍の轍を踏んではならない。

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