井上孝司の Defense Column
 〜 いわゆる「普天間代替基地問題」に関する私見

米海兵隊普天間基地の移設問題に関して、沖縄県の稲嶺知事は名護市のキャンプ・シュワブ沖への移転を決定し、それに対して、毎度のことだが賛成派と反対派が入り乱れているのは、先刻御承知のとおりだ。

移設は止むなしとしても、稲嶺知事が 15 年という使用期限を要求していることに関しては、個人的には賛同できない。むしろ、「条件付き移設受け入れ」という方向に持っていくべきではなかろうか。


そもそも、在沖海兵隊をどうしてアメリカが引っ込めないかといえば、朝鮮半島と台湾海峡での有事に対する「重し」としての意味と、東南アジアや中東方面に海兵隊を展開させるための前進基地として、より現地に近いという地の利があるためだ。

また、すでに訓練や装備集積のためのインフラが整っているというメリットも大きい。もし、ハワイやグアムに海兵隊を移駐させるとなれば、インフラも何も、すべて造り直しになってしまう。多分、現時点では、そんな出費は議会で認められないだろう。

もし、15 年という使用期限を米側が受け入れたとすると、今回と同じ騒動が、また 15 年後に起こるというわけだ。だいたい、15 年度に東アジア情勢がどうなっているかは誰にも予想がつかないのだから、最初から期限をつけるのは筋が通っていない。それならむしろ、期間ではなく状況を条件につけて、たとえば「朝鮮半島情勢が急変し、北朝鮮に民主的な政権が樹立されて緊張が緩和したら、基地施設を廃止して、駐留部隊はハワイかグアムに移してもらいたい」という要求の方が、まだしも理屈に合うだろう。

そういう意味では、「軍民共用化」というのも、政治的配慮ばかりが先立ったのではないかと思う。だいたい、那覇空港からはるかに離れた場所に空港が増えても、大して役には立つまい。「15 年」にしろ「軍民共用化」にしろ、移設を地元にのませるための政治的な「エサ」と見るべきだろう。


そもそも、いわゆる「沖縄基地問題」が政治問題化した発端は、海兵隊員による「少女暴行事件」にあるわけだが、この件だけに限っていえば、事の本質は、営外で犯罪行為を犯した米軍人を、日本の捜査当局が取り締まれないという点にある。それがいつの間にか基地の存在に対する反対運動になってしまったというのは、元から存在する「反基地勢力」の扇動によるものといえる。

だいたい、ちょっと聞いてみたいのだが、暴行事件を米海兵隊員が起こしたから「基地を廃止して米軍は出て行くべきだ」という運動になるのなら、もし地元出身者が暴行事件を起こしたらどうなるのだろうか? 同じ論理で行けば、沖縄県民は沖縄県に住めなくなってしまう。

それとも、「その場合は犯罪を犯した本人さえ処罰すればいいのだ」とでもいうのだろうか。米軍だと全部が出て行かなければならず、日本人なら犯罪を犯した本人さえ処罰すればいいというのは露骨なダブル・スタンダードだし、単なるヘイト・クライムともいえる。そうなってくると、反基地運動とか平和運動とかいうよりも、本音は反米運動ということになるだろう。

そういえば、「沖縄の反基地運動のリーダーは『主体思想』の信奉者だ」という記事が「週刊新潮」か何かに載って、さらにそれが飛び火して Jane's Defence Weekly 誌のベタ記事にまでなったことがあったが、この件の真偽はどうなのだろうか。

なるほど、「主体思想」の信奉者なら、「解放」の邪魔になる在沖海兵隊は引っ込んでもらいたいだろうとは思うが。

確かに、太平洋戦争中に沖縄県民がなめた辛酸は想像がつかないものがあろうが、だからといって、あまりにも筋の通らない主張をされても困るのである。

だいたい、日本も嫌い、アメリカも嫌いということになると、ひょっとすると、沖縄県の「平和運動」というのは、日本から独立した「琉球王国」の再興を目論む勢力なのだろうか?


閑話休題。話を元に戻そう。

アジア・中東一帯で米軍が介入する必要がある事態が起こる可能性が低くなれば、そのときは、在沖海兵隊をハワイあたりに引っ込めるということも (予算問題さえクリアできれば) 不可能ではないハズだ。そもそも、冷戦後の米軍の基本的な考え方というのは、「普段は本土にいて、有事の際には巡業公演」という方針なのだから。

ただし、それでも沖縄に装備の事前集積をすることにはなるだろうが、海兵隊 1 個師団がまるまる駐留するよりはマシだろう。

ゆくゆくはそういう形に持っていくことも不可能ではないにしろ、現時点では、まだ時期尚早ではないかと思う。現時点で在沖海兵隊を引っ込めても、喜ぶのは金正日将軍様ぐらいのものだろう。
一刻も早く理想とする状態を実現したいという気持ちも分からなくはないが、ここで慌てて移駐を進めても、それが元で九仞の功を一簣に虧くようなことになっては、それこそ将来に禍根を残すというものだ。冷静かつ確実な対処が必要だろう。