井上孝司の Transportation Column
 〜 ETC で渋滞はなくなるか?

今週から、ETC (自動料金収受システム) の実験運用が始まった。御存知のとおり、料金所のゲートで車載器と地上側の受信機が通信して料金情報をやり取りし、料金は後で口座から引き落とされるというものだ。走りながらゲートを通過できるから、料金所でクルマを止めなくてよい。

なんでも、ETC が普及すれば渋滞がなくなるという触れ込みなのだそうだ。そんな馬鹿な。


確かに、料金所渋滞というものは存在する。本線料金所はいうに及ばず、東名上り線の横浜町田のように多くの車が集中する出口では、料金所を先頭にした渋滞が、本線まで延びてしまうのが常態だ。

では、ETC で料金所の通過時間を短縮すれば渋滞は減るのだろうか。確かに料金所渋滞は緩和できるかもしれないが、その他の渋滞 - つまり以下のようなケースの緩和に役立つのだろうか。はなはだ疑問である。(なお、事故渋滞や工事渋滞については事情が著しく異なるので、ここでは論じない)

交通集中による渋滞
単純に、道路のキャパシティを越えるクルマが流入することによる渋滞。お盆休みなどの名物。

車線減少による渋滞
首都高の都心環状線を先頭に起きているのがこれだ。合流点などで車線が減少していたり、複数の道路が合流するのに車線数が変わらない場合に起きる。

地形に起因する渋滞
中央道など、アップダウンの激しい高速道路でよく起きる。上り勾配に切り替わるところで無意識の速度低下が発生し、そのために流れが悪くなって渋滞する。
つまり、渋滞全体の中で料金所渋滞が占める比率はそれほど高いものとは考えられず、ETC の導入でその部分だけを緩和できたとしても、大して効果があるとは思えないのだ。第一、首都高速のように、本線に入る前に料金を支払う高速道路でも渋滞が毎日発生しているという事実については、どう説明するのだろう。ETC を導入したところで、本線の渋滞が減るわけでもなかろう。

しかも、ETC の車載器は 3 万円ぐらいするのだそうだ。しかも、ETC を使うと料金が割引になるというわけでもないのだ。料金所を走って抜けるためだけに 3 万円出すというのは、いくらなんでも馬鹿げている。

しかし、それがバレてしまっては元も子もないので、当局としては、ウケを取りやすい「渋滞緩和」を表に出しているのではないか… そんな気がしてならないのである。
現に、日本道路公団の担当者も、料金所渋滞が占める比率は 30% 程度だと言明している。その 30% が、ETC の導入によって半減したとしても、全体から見れば 15% の減でしかない。残りの 85% はそのままだ。


では、ETC が普及すると、誰が得をするのだろう。少なくとも、ここまで見てきた内容からすると、利用者ではなさそうだ。

関連機器メーカーは儲かるかもしれないが、普及のためにはコストダウンの圧力も強まるだろうから、儲かってもほどほどだろう。やはり、もっとも得をするのは日本道路公団と警察ではないかと思われる。

ETC を導入すると、公団には以下のようなメリットがある。

  1. 料金所係員の人件費が節約できる
  2. 通行券やハイウェイカード、領収書などと、その関連設備などにかかるコストを減らせる
  3. 料金の取りっぱぐれがなくなる
  4. 新たに経費を投入する名目ができる (赤字路線の新設よりは受け入れられやすい)
  5. ハイテクを使っていると自慢できる

また、警察の場合は、料金所を通過するクルマの身元チェックが容易になる。なにしろ、ETC を利用するにはクレジット カードの登録が必要だから、身分の隠しようがない。しかも、いつ、どこから入ってどこを通ってどこに行ったかが完璧に把握できるのだ。毎度おなじみの N システムと併用すれば、威力は絶大であろう。
また、ETC の車載器に身元確認のための仕掛け (個々の車両を識別するための識別コードとか) を忍び込ませることができれば、さらにメリットは増大する。

え? 警察がそんなことをするわけがないだろうって?
では、どうして今の料金所では、通行券を取る直前に通過するクルマのナンバーを全部自動撮影して、ナンバーの下 2 桁を通行券に印字したりしてるんだろう?

つまり、運営側にとってはコスト削減などのメリットがあるが、利用者にとっては料金所で止まらずに済むという以上のメリットがないし、渋滞緩和の効果もタカが知れている。これで浮いたコストはどこに行くのだろう?

ただでさえ、利用が見込めない高速道路を造り続けて赤字を垂れ流しつづけている日本道路公団だ。そこへきて ETC の導入で実質的な収入が増やせれば、ますます体質改善が遅れるような気がするのだが、考えすぎだろうか。
(まあ、テクノロジーで解決するという姿勢は、"解釈" を変えて税収アップを目論む国税当局と比べると、いくらかマシといえなくもない :-)