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井上孝司の Transportation Column
〜 ETC の押し売りに反対する一部報道によると、建設省では、2005 年までに首都高速を全面的に ETC (自動料金収受システム) 化し、ETC の車載器を持っていない車両の乗り入れを禁止する方向とのことである。それに対し、建設省では「言葉を濁している」のだそうだが、明快に否定していないということは、肯定しているのと同じだろう。
それで首都高速の渋滞が減るなら結構ではないか、という意見もあろうが、これはいってみれば、ETC を普及させるために首都高速を人質に取ったようなものではないかと思うのだ。
そもそも、ETC が何の役に立つかということを考えてみよう。確かに、料金所渋滞の緩和に *多少は* 役立つだろうが、料金所渋滞が渋滞全体に占める比率は、圧倒的に高いというものではない。
特に首都高速の場合、ジャンクションにおいて交通が交錯したり、あるいは車線数が物理的に減少するために発生する渋滞の方が、数としては圧倒的に多いはずだ。なにしろ、首都高速の料金の多くは、本線に入る前に入口で支払われるのだから。
つまり、ETC を導入しても、首都高速の場合、料金所渋滞が画期的に減るというわけではない。ETC があろうがなかろうが、交通集中による渋滞は緩和されない。だから、首都高速の場合、「ETC を使えば渋滞緩和」という飴玉をぶら下げることはできない。
建設省では、ETC 利用者に対して料金の割引を考えているそうだ。当たり前である。料金所で止まらずに済むというためだけに何万円も出して車載器を買うのは馬鹿げている。
しかし、そのメリットが享受できるのは、頻繁に首都高速を利用している人だけだ。たとえば、ある地方に住んでいる人が、たまたま別の地方へ向かう際に東京を通過するため、首都高速を通過するという場合はどうすればいいのだろう。
人生の間にほんの数回 (ひょっとすると一回だけ) 首都高速を通過するためだけに、何万円もするETC の車載器を買えというのだろうか。「ETC もあります。従来の方式もあります」というなら問題もなかろうが、全面的に ETC にして、それ以外の方法を認めなくしてしまうというのは、このような「頻度の低い利用者」のことをまったく考えていない暴論である。それとも、「車載器を買えないような貧乏人は一般道路を走れ」とでもいうのだろうか。
また、ETC の導入に合わせて、首都高速の料金を均一性から距離に応じたものに変更するという構想もあるらしい。確かに、現在の料金収受方法では均一性にせざるを得ないから、4 号線の一部のような特定区間を除いて、現在はどこも 700 円だ。
だから、たとえば 5 号線の美女木から湾岸線の千鳥町までというような長距離利用をしても 700 円で済み、そうなると利用者としてはおいしい。しかし、公団としてはおいしくない。だが、距離に合わせて料金を加減するとなると、ETC を使わざるを得ない。
ETC 利用者は距離に応じて料金が違い、ETC でない利用者は均一制、というわけにもいかないだろうし、料金制度を変えるなら ETC をワンセットにせざるを得ないのは理解できる。首都高速の路線網がどんどん拡大していけば、均一制が割高、あるいは割安に働いて、不公平を生むのは間違いないからだ。
しかし、そんなことは首都高速の路線網を計画した時点でわかっていたはずだ。それが分かっていて現行の制度を取り入れたのなら、当局はその結果に対する責任を取らなければならない。それを、ETC の登場を奇貨として、利用者にツケを転嫁しようとは虫が良すぎる。
ETC の「押し付け」に伴う問題点は、それだけではない。
過去の拙稿でも指摘したように、ETC は情報の管理をきちんとやらないと、とんでもないプライバシー侵害になるおそれがある。なにしろ、特定の個人が識別できる情報を利用して、いつ、誰がどこに行ったのかを把握できてしまうのだ。
たとえば、JR 東日本が「今後、イオカードは個人ごとの情報を記録した IC カードにして、誰がどこに行ったかを全部記録できるようにします」なんていったら大騒ぎは間違いない。それと同じことをやろうとしているのが、現在の ETC なのだ。
おまけに、試験運用中の ETC についても、ゲートが「点検中」で閉まっていたりして、使えなくなっているケースがあるという指摘もある。試験運用中だから不具合が出るのは仕方ないが、その解決の目処が立ったかどうかも発表せずに、首都高速全線への ETC 展開を強行するとは、ちと乱暴すぎないか。
ロードプライシング制度の関係もあるから、ETC を全否定することはできないだろうが、首都高速乗り入れを餌にして ETC を強引に普及させようとは、横暴もいいところではないかと思う。いってみれば、世界に冠たる日本の優秀なお役人にありがちな、
「国民はつべこべ言わず、黙って俺達のいうことを聞いてればいいんだ」
という類の驕りを感じるのだ。
ひょっとすると、国民の動静を ETC を使って密かに把握したい警察が建設省を抱き込んだのかもしれないが、なんにしても、「ETC を使わない自由」というのも認めるべきだろう。先に指摘したように、たまにしか首都高速を利用しない人にとっては、まったくゲインがない話なのだ。建設省は直ちに考えを改めるべきである。
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