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井上孝司の Transportation Column
〜テクノスーパーライナーに異議ありいきなりだが、タイトルは「意義あり」ではない。「異議あり」である。誤変換ではないので、お間違いなく。
というわけで、お題はテクノスーパーライナー (以下 TSL) である。TSL とは、運輸省が進めている高速貨物船のプロジェクトで、構想自体は何年も前からあり、技術デモンストレーターの「疾風」と「飛翔」も建造された。技術的にはそれほど問題がないようだが、今のところ、実用化の目処は立っていない。なぜか。
ひとえに、TSL は建造と運航にかかるコストが高いのである。コスト高で船社が二の足を踏んでいるため、運輸省では TSL を保有する会社を 12 億円かけて設立し、2002 年の TSL 第 1 船の竣工を目指し、完成後は所有とメンテナンスを担当させるという。
ここで運輸省が計画している TSL は、12,000 総トン級のフェリーで、主機はガスタービン 2 基、出力 60,000 馬力、速力 40kt、シャーシを 100 台搭載するのだそうだ。
しかし、この仕様では、船社側が二の足を踏むのも無理がないと思う。
まず、主機がガスタービンのため、燃費が悪い。また、ガスタービンは定期点検の際にエンジンごと下ろして陸上で整備を行うため、専用の整備施設も必要だ。そんなノウハウを持っているのは、日本では海上自衛隊ぐらいのものである。
しかも、その割にスピードが 40kt しか出ないというのでは、ますます割が悪い。ディーゼル推進のフェリーでも 30kt をクリアしているのに、さらに 10kt かそこらのスピードアップのために、専用の設備と燃料費によって一挙にコストが上昇するというのでは、誰も手を出さないだろう。そもそも、40kt 出さなければならない必然性が見えてこないのである。航海速度 30kt でも北海道-東京間を 2 隻でデイリー運行できるし、それが 40kt になったからといって、一日に二往復できるというわけではないのだ。(九州方面でも距離的にはそう違わないから、事情は同じだろう)
ディーゼル推進のフェリーの中には、サイズが小さいとはいえ、40kt オーバーのスピードをマークしているフネが、既にある。いうまでもなく、東日本フェリーの <ゆにこん> (建造所は三菱下関) である。このフネ、営業時は 35kt で走っているが、試運転では 42.4kt をマークしたというからすばらしい。しかも、TSL と違い、ディーゼル推進でモノハル型だから、使い勝手も経済性も、従来船とそれほど違わない。
まさに、高速フェリーのお手本である。ケチをつけるとしたら、トラックが積めないことぐらいだろうか。
確かに、「空気浮上式でガスタービン推進で、最高速度は 40kt 出るハイテク貨物船」というと格好はいいが、経済的にペイしないと、永遠に実用化はおぼつかないだろう。きつい言い方をすれば、TSL とは、日本人がしばしば陥りがちな「見かけのハイスペック欲しがり症候群」の典型である。結局、TSL とは、運輸省のお役人の自己満足にしか過ぎないのではないだろうか。
だいたい、日本人は「高度で複雑なメカ」だの「見かけのハイスペック」だの「最先端技術」だのに目がくらみ、費用対効果の計算やコトの本質を忘れてしまうことがよくある。
小型化に執着しすぎた「誉」発動機、メカに凝り過ぎた「紫電改」や 74 式戦車、46cm 主砲に拘泥してバランスを崩した戦艦大和、在来線の高速化ですむのに新幹線を欲しがる地方の政治家、目下話題の ITS など、例を挙げればいくらでも出てくる。
多少スペックを落としても、コストが安く構造が単純で整備が楽なものを作る方が、結局は経済的で実用性が高いものができることが多いのだ。というわけで、断言しよう。TSL は技術デモンストレーターとしては面白いし有意義だが、実用という観点から考えれば無駄な企画である。TSL にかけるカネと人材があったら、通常のモノハル形・ディーゼル推進で、30kt オーバーの速度を発揮できる大型フェリーの開発と建造に使う方が、よほど有意義というものだ。首都圏や中部地方から対九州/対北海道ということで考えれば、航海速力は 30kt〜35kt もあればよかろう。これで、2 隻使えばデイリー運航が可能なハズだ。
ちなみに、以前に引き合いに出した、ブルーハイウェイラインの高速貨物フェリー・<さんふらわあ とまこまい> は、12,520 総トン。主機は 2 基のディーゼルで 64,800 馬力。これで航海速度 30kt を発揮している。搭載量は、12m 型トラック 161 台、9m 型トラック 2 台、乗用車 46 台だという。これでも、それなりに十分なスペックではないか。
この数字を元にして速度を 35kt に引き上げようとすると、10 万馬力以上が必要になるものと推測される。となると、主機の倍増が必要となり、結果として船価が数十億円はアップするだろう。それなら、経済性を勘案し、現行の 30kt +α にとどめる方が現実的かもしれない。 私が常々主張しているように、こうした大型フェリーをある程度まとまった数だけ整備する方が、1 隻か 2 隻程度の TSL よりも、はるかにモーダルシフト推進の良い受け皿になるだろう。
こういう企画では見掛けの派手さはないから、お役人の虚栄心は満足させられないこと請け合いだが、実用性ははるかに高いと確信する。![]()