Opinion : 中国共産党政府のわがままを質す (2001/4/23)
 

本当は別のネタを、と考えなくもなかったのだが、我慢できなくて、今週もこの系統のネタにしてしまった。

というわけで、EP-3 事件に続き、今度は李登輝氏へのビザ発給をめぐって駄々をこねている、中国共産党政府の思い上がりを質してみたい。


よく、欧米諸国が「いわゆる中国の人権侵害」についてクレームをいうと、中国政府は「内政干渉だ」といって反発する。だが、この「内政干渉」は、実は中国政府の得意技である。

たとえば、いまだに火種がくすぶっている「つくる会」の教科書の一件が、そうだ。
いつも私のコラムを御覧いただいている方なら御存知かと思うが、私は「つくる会」の主張に対して、どちらかというと反対する立場にある。自国の歴史を都合のいいように美化した彼らの主張は、彼らがいうところの「自虐」と同じぐらい極端に走り過ぎた、身勝手な主張というべきだろう。

だが、そのことと、彼らが教科書を出すという活動をすることに対して外部から規制を加えることの是非は、別の問題だ。彼らが教科書を出したいというなら、好きなようにさせるべきだ。それを実際に教育現場で使うかどうかは、それぞれの学校の裁量に任せられているのだから、使いたくなければ使わなければいい。それだけの話だ。

もし、「つくる会」の教科書の内容は好ましくないとして、あれこれと理由をつけて発禁にするようなことがあれば、それは大変危険な前例をつくることになる。なぜか。
それは、「何かもっともらしい理由をつけることができれば、国家権力によって言論を規制してもよい」という前例を作ることになるからだ。情勢が変われば、今度は「日本のことを悪くいうような教科書は発禁にしてもよい」という政策が取られることになっても、文句をいうことができなくなってしまう。それは、大変危険な状況だ。

そもそも、いわゆる「西側諸国」であれば、言論の自由が保証されていることが大前提だ。事情はどうあれ、国家権力や「世間の圧力」によって、特定の主張が抑圧されるということは、それがよほど公序良俗や社会秩序に反するものでない限り (オウム真理教がいい例だ)、あってはならない。少なくとも、「つくる会」の教科書の内容は身勝手極まりないが、公序良俗や社会秩序に反するものではなかろう。

まして、外国から言論に関して圧力をかけるなどというのは言語道断だ。誰でもいいたいことをいえるのが民主主義社会というものなのだ。国家権力の都合に合わない主張は抑圧されて当然という、共産主義国家の常識が染み付いた人には、理解できないかもしれないが…

ただし、念を押しておくと、「いいたいことをいえる」ということの裏には、「自分の発言内容には自分で責任を持つ」という前提条件があることを忘れてはならない。


私見だが、この件に限らず、中国政府のごり押しムードは 1990 年代に入ってから加速したように思える。つまり、ソ聯の崩壊によって世界政治の一極が消滅したのに乗じて、中国が新たな覇権を目指して世界政治の舞台で発言力を増そうとした動きと、軌を一にしているのではないかと思うのだ。

となれば、最大のライバルは「唯一残った超大国」、つまりアメリカと、その腰巾着 (中国から見ればそういうことになる) である日本、あるいは NATO 諸国ということになる。
その点、ロシアはむしろ、味方につけておきたい仲間といえる。ソ聯時代の栄光が忘れられないロシアにとっては、「敵の敵は味方」という論理で、中国と接近するのは当然の帰結だ。

中国の「一流国願望」は、いろいろなところに顔を見せている。たとえば、日本でロボットが話題になった途端に「我国もソニー・ホンダに追いついた」といって「先行者」を発表したのがいい例だ。また、「オリンピック開催」を悲願としているのも、一流国願望の一環といえるだろう。
そのうち、今度は「我国で Windows を超えるオペレーティング・システムを開発した」(その実、中身は Linux のデッドコピーだったりして :-)、あるいは「メルセデスを越える高級車の開発に成功した」なんていう発表を仕出かすのではなかろうか。そんな気がする。

もっとも、国際社会における発言には政治力・経済力・軍事力の裏付けがなければならないが、中国は「開放政策」の推進により、これらをある程度手に入れている。
「巨大な人口による潜在的なマーケットの大きさ」をちらつかせ、西側諸国の企業に門戸を開いて見せることで経済的な依存関係を構築し、政治的な口出しを受けることを防止するという戦略だろう。

もし、中国に対して何か文句をいう国があっても、欧米諸国なら「おたくの国の企業が中国市場から締め出されてもよいのか」という脅迫ができるし、日本が相手なら、「つくる会」のような主張をする人がいるのに乗じて「過去の謝罪」を持ち出すことで脅迫できる。こうして、中国は国際政治における地歩を確保するというわけだ。

また、軍事面でもロシアから最新兵器を次々と購入し、これまでの「大陸陸軍国家」という看板に加えて、東シナ海・南シナ海における「海洋覇権国家」という看板を手に入れ、それを梃子にして東アジアにおける覇権を握ろうという戦略だ。それには、東アジアでプレゼンスを維持し続けているアメリカが邪魔になる。

となれば、アジア地域からアメリカを引っ込ませることが、中国にとっての重要課題となる。そうすれば、国内の分離独立運動を抑えるために欠かせない「台湾併合」と、「子分」の北朝鮮の「祖国解放闘争」の両方にとって、大きな得点が手に入る。

そのため、今回の EP-3 衝突 "事故" のような騒動を起こしたと見るのは、勘繰りすぎだろうか。ついでに書けば、日本における「反基地運動」や「平和運動」という名の、その実「反米運動」についても、裏で中国が糸を引いていないと、誰が断言できようか。


これまでのところ、中国の戦略はある程度成功しているといえるが、最近は、やや暴走し始めているのではないかという印象が強い。
EP-3 の一件でも、アメリカは遠からず SIGINT ミッションを再開だろうし、しかも戦闘機や空母戦闘グループの護衛付きということになる可能性が高い。それは、一触即発で「花火が上がる」可能性を高めることになりかねない。

政治面でも、李登輝氏のビザ発給問題に代表されるように、台湾による「政治的攻勢」が強まれば、中国のごり押しに反発する諸国が「中国離れ・台湾接近」に流れる可能性は否定できない。中国が「竹のカーテン」の向こう側にいた頃のように。

また、「巨大な人口をタテにした潜在マーケットの大きさ」をちらつかせる経済戦略も、一歩間違えば破綻する可能性がある。確かに、海岸地域では経済発展著しいが、内陸部の各地域との間で経済格差が広まれば、国内に潜在的不満が鬱積し、不安因子を内包することになる。
しかも、近い将来にやってくる「超高齢化」や、相次ぐ政治的「ごり押しムード」に伴う政治的不安が加われば、将来の潜在利益よりも目先の安定を求めて、中国市場を見放す企業が続発する可能性も否定できない。

また、日本の「政府ガード」発動がいい例だが、低価格やコピー商品だけを武器に世界の市場に乗り出すという手法は、相手国との間に無用のフリクションを引き起こす。これも国家間のもめごとを増やす因子になるし、成り行きによっては経済発展に水をさす可能性がある。

しかし、政治、あるいは経済の上昇ループが破綻したからといって、中国共産党が国際政治における発言力を手放したがるとは思えないから、問題解決のために軍事力の行使に傾斜するという危険なシナリオが具現化したりしないだろうか。太平洋戦争前の日本がそうだったように。

そうなったときこそ、中国が「イチかバチか」で台湾の武力併合を強行する可能性も、否定できないと思うのだ。政治的に、台湾の独立を認めることは決してできないから、選択肢は自然と狭まる。少なくとも「数の上では一流」の軍事力があるときに、それを使うというオプションを、彼らが放棄できるだろうか。他の共産国家の行動事例から見る限り、私には、とてもそうは思えない。


たとえばアメリカのような国では、政府が何かしようとしたときに、たいていどこかから反対の声を上げる人がいる。それが認められているし、そういう「ブレーキ」がかかる体制だからこそ、国家の暴走が抑止されやすい。

だが、中国はいまだに「共産党の独裁体制」である。共産党の気に入らないことを発言することは許されないし、共産党のお気に召さないような団体は簡単に抑圧される。そういう体制下では、国家の暴走にブレーキをかける力が働きにくい。

内政的にそういう状態にある国が、他国に対しても同じノリで「自分のいう通りにならないといってごねる、子供のわがまま」のような主張を繰り返せば、それは必ず、より大きな反発となって中国自身に跳ね返ってくるだろう。そうなれば、それは中国にとって、たいへん大きな損失をもたらす。
中国共産党政府には、そこのところを理解してもらいたいのだが、現状では難しそうだ。まことに憂慮すべき事態である。

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