Opinion : 北朝鮮の核問題を考える (2003/1/13)
 

北朝鮮が、IAEA の査察担当者を追放し、原子炉 (核燃料だっけ ?) の封印を解いたあげく、NPT から脱退したといって騒ぎになっている。表面的にはどうあれ、北朝鮮が核能力の獲得を目指しているのは間違いないから、危険な兆候だといって騒ぎになるのは無理もない。

私は以前に、「一度も核爆発実験をしたことのない北朝鮮の核弾頭が、能書きどうりにハゼると誰が保証できようか」と書いたが、一説によると、北朝鮮はパキスタン (これはすでにホンモノの核保有国だ) から核開発に関するノウハウを得たとされる。
北朝鮮とパキスタンの間には弾道ミサイルがらみのコネクションがあるから、この節にはそれなりの信憑性があるが、それにしても、実際にやったのと話を聞いただけというのでは、知識が身に付いているかどうかという点で雲泥の差がある。

なんにしても、今回の騒動で我々が必要以上にパニックになるのは、少なくとも北朝鮮を利するだけで、我々の得にならないのは確かだろう。


たびたび書いているように、弾道ミサイルにしろ核開発にしろ、北朝鮮にとっては諸外国を跪かせるための政治的カードという側面がある。もっとも、それを言い出すと、すべての軍事力にはそういう側面があるわけだが、軍事力と兵器開発以外に売り物がない北朝鮮やイラクの場合、兵器開発、とりわけ NBC 兵器によって脅威をちらつかせるしか手がない。ここが、日本や欧米諸国と事情の異なるところといえる。

もっとも、北朝鮮にはマツタケ、イラクにはナツメヤシがあるが、マツタケやナツメヤシの存在ゆえに諸外国がこれらの国に跪くかというと、それは疑問だ (笑)

だから、北朝鮮がミサイル開発や核開発をちらつかせ、それに対して周辺諸国がパニック状態になるのは、北朝鮮の思うツボということになる。逆に、「核開発を進めるぞ」「弾道ミサイルをぶっ放すぞ」と北朝鮮が脅迫的言辞を弄しても、周辺諸国が放置プレイにしてしまえば、北朝鮮にとっては意味がない。

もっとも、放置プレイにしたら実際にミサイルや核が使われるのではないか、という懸念は残る。アメリカやソ聯と比べても、この手の "rogue state" では大量破壊兵器の使用に際して敷居が低いのは事実で、イラン軍やクルド人を鎮圧するために毒ガスをばら撒いたイラクが、すでにそのことを証明してくれている。

もっとも、モノが核兵器となると、果たしてどうだろうか。核爆弾 1 発で国がまるごと消し飛ぶことはないにしても、それでも結構な損害が発生するのは事実。そのような強大な力を、北朝鮮のような独裁体制の下でどのように運用するかというのは、意外と頭が痛い課題になるハズだ。
往々にして、独裁国家の指導者というのは極めて猜疑心が強いもの。そのような指導者が、核兵器のような強大な力を自分以外の第三者に委ねるとは考えにくいし、核爆弾を平素から起爆可能な状態で保管するのを認めるかという点についても、検討する余地があると思う。

ピストルぐらいならいざ知らず、モノが核兵器ともなると、自室の枕の下に置いておくというわけにはいかない。当然、軍の担当者や技術者が爆弾を組み立てて起爆可能にする過程に介在しなければならないが、その過程で「偉大なる首領様」のコントロールが及ばないようなプロセスを組み立てるとは考えにくい。
むしろ、独裁者心理を考えれば、最後の引き金 (発射ボタン) は、偉大なる首領様、御自ら押すように仕向ける可能性が高いと思うのだが、どんなものだろう。

それに、独裁国家の首領にとってもっとも大切なのは、実は我が身の安全のはず。核爆弾でも弾道ミサイルでも化学兵器でも、使えば戦術的には大きな威力が見込めるにしても、それが原因になって自国に対する国際的な非難や強力な報復攻撃がまかり通る事態になったら、それこそヤブヘビだ。

大量破壊兵器を使用した結果として、自国に対して (核攻撃を含む) 激しい反撃を招いてしまえば、自分の権力や、下手をすると生命まで危なくなってしまう。それでは権力基盤維持という究極の目的が達成されない。
イランやクルド人相手に平気で化学兵器を使ったイラクが、湾岸戦争では化学兵器を使わなかった一因として、この辺の事情があると考えるのは楽天的に過ぎるだろうか ?

現実問題として、北朝鮮が核爆弾を手に入れたとしても、その輸送手段は弾道ミサイルしかない。だから、どうしても北朝鮮が核兵器の開発をごり押しするという事態になった場合には、国連に手を回し、イラクの「飛行禁止区域」と同じように米軍機が北朝鮮の上空を自由に飛行できるような大義名分を作った上で、北朝鮮がミサイルを発射台に据えたら直ちに誘導爆弾を叩き込めるようにしておくのも一案だと思う。もっとも、移動式発射器を使われたら、ミサイルを探すのが難儀な作業だが。


念を押しておくと、もちろん "rogue state" による大量破壊兵器の開発は、なんであれ脅威だ。まして、その国自体が兵器を使わないとしても、特に BC 兵器についてはテロリストの手に渡る心配もしなければならない。だから、その種の兵器開発については、実際には放置プレイにするのは難しい。

ただ、だからといって不必要にパニックになるのも考え物で、兵器の存在という事実だけでなく、その周辺要素や戦略目的までも考慮に入れた「システム思考」で対応策を考えなければならない。

特にわれわれ軍ヲタのような人種は (いや、自称「平和活動家」のプロ市民も同じか)、兵器の存在やスペックだけに注目してしまい、周辺の事象も含めて考える「システム思考」を忘れやすい。兵器の存在そのものを消すことを考えるだけではなく、どうしてそのような兵器を開発するのか、その究極の戦略目的は何か、といったところまで考えた上で、パニックにならずに冷静に対処することが必要だと思う。

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