Opinion : 携帯電話は恐竜 ? (2003/5/12)
 

やっと、FOMA の売れ行きが良くなってきたらしい。といっても、最初に広げた大風呂敷 (失礼) は到底達成できず、目標を大幅に引き下げた上で、それが達成できたという話だから、まだまだ先は長い。
対する KDDI はというと、すでに cdma2000 1X のユーザーは 700 万を超えていて、今年の後半には 1XEV-DO の試験サービスも始まるというのだから、順風満帆に見える。

そんな「第三世代 (3G) 競争」もさることながら、カメラ内蔵に始まり、動画が撮れるようになり、カメラに使われる CCD の画素数が増え、液晶画面がデカくなり、という具合で、業界恒例のスペックアップ競争が続いている。そんな状況の中で「携帯電話の内蔵カメラが高画素化すれば、デジタルカメラはなくなる」とか「PC は携帯電話に飲み込まれて消滅する」といっている人がいるが、そんなことはあり得ないと思う。


だいたい、日本人は昔から複合商品が好きだ。ラジオとカセットレコーダーをくっつけた「ラジカセ」の寿命は長かったし、今でも家電店の片隅で細々と売られているが、さらに、小型のテレビまでくっつけた「ラテカセ」というものがあったのを覚えているだろうか ? 確か松下かどこかが製品化して、高見山が宣伝していたはずだ。
あと、テレビにビデオを内蔵した「テレビデオ」というものもあった。

では、この種の商品が世間を席巻した (駄洒落ではない) かというと、さにあらず。それどころか、カセットの後を襲った MD にラジオとの複合商品なんて存在しないし、テレビデオはたまにニッチ商品として出てくるだけだし、ラテカセにいたっては「死語」だ。どうも、AV 業界では複合商品はいろもの扱いらしい。

PC 業界でも、テレビチューナー付きのディスプレイなんてものがあったが、結局、メインストリームにはならなかった。これは液晶の時代でも変わらない。
PC が、他のメディア融合した数少ない例外はビデオキャプチャ機能だが、これは MPEG2 という武器があって、テレビの録画をデジタル・データとして扱うインフラが整っていたのに加え、大容量の記憶媒体がそこそこの値段で出回っていたからこそ。むしろ、複合商品の歴史の中では「テレビ録画対応 PC」は、それなりに普及したという点では例外的存在といえる。これとて、HDD レコーダー、あるいは書き込み式 DVD レコーダーがもっと普及したら、どうなることか。

「ヨドバシカメラ系」の複合商品というと、プリンタ + FAX + スキャナ + コピーの複合機というものがある。その昔、リコーが「IMAGIO」というプリンタ + FAX + コピー の複合機を出していたが、これにしても、現在登場している複合機にしても、なかなかメインストリームになる気配はない。設置スペースの面では、確かに個別にメカを並べるよりも節約できるのだが、そもそも絶対サイズが巨大なのと、個々の機能が半端に感じられるのが原因だろうか。だから、拙宅でもプリンタと FAX とスキャナは別々に鎮座している。

複合商品がメインストリームに収まりきれない根本的な理由は、この「個々の機能が中途半端」という点に尽きると思う。類似した部分があるとはいえ、もともとは異なる機能をひとつの匡体に詰め込むのだから、性能面でも、操作性の面でも、よほど工夫しないと、使い辛く中途半端なものになってしまう。特に性能面で中途半端だと、スペック比較が大好きな日本のお客には、まず間違いなくソッポを向かれる。

これはいってみれば、MiG-21 をマルチロールの戦闘爆撃機として売り出すようなものだと思う。マルチロール化がトレンドの防衛業界でも、本当に個々の分野ごとに卓越した性能を発揮する例は少ない。F-15E が卓越した戦闘爆撃機になったのは、むしろ例外なのだ。それでも、特に戦闘機の場合は費用対効果が極めて重視される御時世だから、多少の中途半端は承知の上でマルチロール化せざるを得ないが、家電・AV・IT 業界では、もっと消費者の目が厳しい。


そういう観点から多機能化が進む携帯電話を見てみると、「電話」としての機能以外は、やはりどこか中途半端な部分が残る。依然と比べれば大きく緩和されたとはいえ、文字数の制限は依然としてあるし、通信速度の問題があるから、大量のデータを送るのは実用的ではない。そもそも、匡体サイズの問題があるから、大量のデータを作成したり、格納したりするのは難しい。キー入力の件はいわずもがな。

最近ではついにたまりかねて、小型のリムーバブルなフラッシュメモリ カードを搭載する携帯電話が出てきたが、これとて容量に上限はある。どうあがいても、携帯電話にハードディスクが載ることはあるまいから、データを溜め込めるといっても、せいぜい数十メガバイト単位の話だ。こんなものは、特に動画を撮るようになれば、簡単に使い切ってしまう。

カメラ内蔵携帯電話の話に戻ると、これも匡体サイズの制約に縛られる。CCD の画素数だけ増えても、画質がそれに単純比例して向上するとは思えない。レンズの小ささや暗さはどうにもならないし、光学ズームがないのをデジタルズームで補えば、画質にネガが生じる。実際の使用状況とは無関係に、とにかくスペック比較が大好きな雑誌・Web 媒体や消費者がそのことに気付いたら、どこかで化けの皮がはがれやしないか。

携帯電話事業者の立場からすれば、そろそろユーザー数も頭打ちだから、ユーザー当たりの売上を伸ばすにはたくさん使ってもらうしかなく、それにはデータ量の多い静止画や動画をガンガン送ってもらいたいと思うのは無理もない。だが、そのために端末機にカメラを組み込んでブームを煽り、あげく、それで帯域が不足したからといって 3G への移行を煽ることになったら、なんか妙だ。そもそも、3G にすることのメリットが、現状でユーザーに訴求できているとは思えない。

KDDI が 3G への移行をスムーズに進められたのは、ezWeb を申し込むと 1X が実質的にワンセットになっていて低コストで利用でき、しかも 1X のエリア外でも通常の cdmaOne としてシームレスに使える点が大きい。700 万ユーザーの中に、「3G だから」という理由で手を出した人が、果たして何人いるのやら。
それを考えると、FOMA のユーザーが伸び悩むのは当然と思える。FOMA にしたから、何か画期的なことが起きるかというと、そんなことはそうそうないのだから。利用できるサービスが現行の PDC と同じ、料金も PDC より高いか、せいぜい同等というのでは、乗り換える理由がない。せいぜい「自慢の種」にするぐらいか。


そんな訳で、他の複合商品が中途半端さの故に消え去ったのと同様、いつかどこかで、携帯電話も基本に立ち返る時期が来るのではないかと思う。確実に生き残れると思うのは、電話とメール、あとは文字情報サービス程度だろう。今でも、これだけの機能で足りているユーザーの方が、絶対数としては遥かに多いのではなかろうか。
あれやこれやと他から持ってきた機能を付け足して「恐竜」になったら、いつかどこかで倒れてしまうと思うのだ。「携帯電話」である以上、物理的なサイズなどの制約から逃れることはできないのだから。

だいたい、物書きの観点からいわせてもらうと、携帯電話では原稿が書けない (爆)

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