Opinion : 続・5% の非日常より、95% の日常 (2003/7/7)
 

阪神タイガースが強い。7/5 の時点で、2 位に 14 ゲームも差をつけている。
といっても、これで安心できないのが阪神で、9 月に入っても同じ調子が続いていれば、「ひょっとすると優勝するかも ?」と思うのが阪神ファンにありがちな心理かも知れない。

で、これだけ阪神の調子がいいと、例によって例のごとく「阪神優勝の経済効果」なんてものを計算するシンクタンクか何かが出てくる。いつぞやの報道では、1,100 億円ほどらしい。ただ、毎度のことながら、こういう「○○の経済効果」を持ち出す傾向には苦言を呈したい。

苦言を呈するといっても、算出された「阪神優勝の経済効果」が、スティーブ・バルマーが売却した自社株の総額より少ない (苦笑) なんていうことをいいたいのではない。不景気だから明るい話題が欲しいという心理は分からなくもないが、それならなおのこと、こういう一過性のイベントに頼ってはいけないと思うのだ。
「阪神優勝の経済効果」といったところで、阪神が毎年優勝するわけではないし、むしろ、たまに優勝するからこそ、イベントとして成り立つのではないか ?


そういう意味では、新聞や TV が伝える「ニュース」も、「非日常的なイベント」の集合体のように思える。確かに "NEW" S というぐらいだから、何か目新しい、しかも人目をひくイベントでなければ、この種の媒体には取り上げられにくい。当たり前のことは滅多にニュースにならない。

F1 でフェラーリのシューマッハが優勝しても「ああ、またか」と思うが、非日常的なリザルト、たとえばミナルディが優勝するような事態が発生すれば、大騒ぎは間違いない (失礼)。もっとも、当のミナルディの関係者自身からして、今年のフランス GP 予選初日に暫定ポールポジションを獲得して大騒ぎしていたのだから、当事者にも「画期的に珍しいイベント」という自覚があったのかも。

個人的にはあきれ果てている「タマちゃん」の件にしても、普段はいないアザラシが多摩川に出現したから話題になったので、多摩川が平素からアザラシの巣窟だったら、誰も話題になどするはずがない。もっとも、あれがアザラシだったから話題になった部分はあるはずで、もしアザラシではなくてトドだったら、住民票を出すほどの騒ぎになったかどうか。


この国ではブームが盛り上がるのも早いが、ブームが捨てられるのも早い。だからなおのこと、「○○ブーム」みたいな一過性の流行に乗って商売をしたり、あるいは景気回復を期待したりしても、後でもっとひどい反動が来るのがオチではないかと思う。

TV ドラマで話題になった場所に人が集まったり、新しくできた観光スポットに人が集まったりするのはよくある話だが、その後の反動で、ブームが去ったら閑古鳥、という話も多い。これが海外にまで影響することもあって、いつぞやの「ナタデココ」ブームを当て込んでフィリピンで「ナタデココ」を生産する人が増えたら、ブームが去って売上不振、という事態になったケースがあると聞く。もっとも、一過性のブームに乗る方も乗る方だとは思うが。

できたときには大賑わいで芋洗い状態だった「丸ビル」も、最近ではだいぶ落ち着いて来た。もっとも、これが本来の姿であって、昨年末の大騒ぎの方が異常だったと思う。この調子だと、そのうち「汐留」や「六本木ヒルズ」にも同じ運命が待ち構えているのは間違いない。
ぶっちゃけた話、いわゆる「再開発事業」の多くが似たような内容 (デカいビルを新築し、いわゆる一流店をテナントに呼び込んで、後はオフィスとマンションを併設するという公式) に見えることを考えると、「ブーム」が去ったときに、いつまで効果が続くだろうかと、少し疑問に思う。

もちろん、「一発当てたのがきっかけで知名度が上がり、その後のビジネスが安定する」というケースもあると思うが、巷間いわれる「○○の経済効果」がそこまで考えているとは思えない。挙句の果てには「新札発行」「オリンピックの誘致」みたいに、強制的にイベント狙いの経済効果を起こそうと企む輩までいる。それは違うでしょうに。


いつだったか、JR 九州の人が「他所の土地からやってくる人よりも、まずは地元の皆さんに乗ってもらえるようにしたい」という趣旨のことを話していたのを読んだことがある。もちろん、外から観光客を呼び込むのも大事だけれども、毎日乗ってくれる (= 恒常的な需要を生み出してくれる) 可能性があるのは地元の人なのだから、それを大事にするというのは、ひとつの見識。
そう考えると、最近、JR 各社がジョイフルトレインよりも普通の特急車両などの充実に力を入れているのは、とてもいいことだと思う。毎日乗ってくれる乗客を大事にしなければ、経営は安定しない。(そういう意味では、JR 東日本の通勤電車のあり方には、やや危惧を覚える部分がある)

経済というのは突き詰めれば人やモノやサービスが動くことだから、前にも書いたように、一過性のイベントに頼っても、それはたいてい長続きしない。人の生活は毎日続くものだから、それなりに安定した経済活動が毎日のように行われるように仕向けるのが、本当の「景気回復」のための政策というものではなかろうか。

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