Opinion : 火のないところに煙を立てよう (2003/9/29)
 

といっても、横浜銀蝿の歌の話ではない (また古いネタを…)

ブリヂストンの工場火災、新日鉄の工場事故、そして JR 東日本は線路切替工事の際に配線ミスをやって大混乱。なんか最近、「そんな馬鹿な」というような騒ぎが多くなっていないだろうか。
もちろん、これらの事故や事件は、それぞれ異なる背景を持つものだから、ひとくくりにして「最近の日本人はたるんでる」と糾弾してみても、多分、何の解決にもならない。だいたい、何かある度に「たるんでる」とか「お粗末なミス」といってあげつらうだけで済ませてしまうのは、多くの日本人の悪いクセだ。

ただ、そのことを踏まえた上で、なおかつ精神論の立場から考えてみることも、たまには必要かもしれない、と思う。


これは、当コラムでもしばしば書いていることだけれども。
景気がパッとしなくて閉塞感が漂っているから、現実逃避するために「日本は偉大な国なんだ」「何でも日本が一番優れているんだ」と思い込みたがっている人が、最近、少なくないように思える。もちろん「プロジェクト X」とか「戦争論」(クラウゼウィッツじゃなくて漫画の方) の影響もあるだろう。
だが、そうした思い込みも、なにがしかの根拠を伴うものならまだしも、単なる思い込みや妄想だと始末が悪い。最悪の場合、その思い込みのせいで国が滅びてしまう。

その典型例が太平洋戦争における日本陸海軍で、多少の語弊を承知でいい切ってしまえば、日露戦争と同じおつむで太平洋戦争を戦って、ボロ負けしてしまった。
日本陸軍の銃剣突撃至上主義も、日本海軍の艦隊決戦至上主義 (大艦巨砲主義より、実はこちらの方が始末が悪かったと思う) も、根っこをたどれば日露戦争の成功体験に行き着く。そこで、どうしてそのやり方で勝てたのか、今後も同じやり方でいいのか、アメリカやソ聯と戦うのに日露戦争当時のロシアと同じ方法でいいのか、テクノロジーの発達で戦争の在り方が変わっていないか、といったことを真剣に考えないで過去の栄光に安住しているから、ただでさえ勝ち目のない戦争で、さらにひどい負け方をして、国中を丸焼けにした。

もっとも、「過去に勝った戦争」と同じやり方で勝とうとして失敗したのは、何も日本に限らない。湾岸戦争ではイラク軍が、やはり同じ轍を踏んでいる。戦争に勝つという点では比較的、過去の成功例にこだわらないアメリカも、戦後処理の方までは頭が回らなかったのか、アフガニスタンやイラクで苦労している。

だから、あまりにも劇的な成功、驚異的な発展、世界中から持ち上げられるような経験をしてしまうと、それが後々、驕りに起因するマイナス効果を引き起こすのは、間違いなさそうだ。これは多分、国家や軍隊だけの話ではなくて、企業でも個人でも、同じことがいえるはず。

だから、何も問題がなく、昨日と同じことを繰り返しているだけで済んでしまうような緊張感のない生活をしていると、短期的には問題がなくても、いずれ、ツケを払わされるときが来るのだと思う。強力なライバルに直面したり、何か大きな問題を抱えたりして、それを解決しようと脳漿を搾っている方が、常に危機感や緊張感を維持できるから、結果的に大きな落ち込みを経験しないで済むのではないか。そうすれば、安穏としているところに寝首をかかれてとんでもない苦労をするよりも、むしろ傷口が広がらずに済むかもしれない。

だが、いつも都合よくライバルや問題事が出現してくれるとは限らない。かといって、まさか自作自演でライバルを作り出すわけにもいかないから、そんなときには、自分で問題のないところに問題を作り出して危機感を煽り、火のないところに煙を立てて、「これでもか、これでもか」と自分で自分を叱咤し、尻を蹴飛ばす必要が生じるのではないか、と思う。

この観点からいくと、いささか度が過ぎた「身分保障」というのは緊張感をなくしてしまう原因になるので、百害あって一利なしかもしれない。自分が「公務員は任期制にして定期的に交代を」といっているのも、新しい血をどんどん入れていくということ以外に、緊張感の維持という考え方があるからだ。
そういう意味では、議員や首長の多選にも、一定の枠をはめた方がいいと思う。


このように考えると、度が過ぎた「過去の栄光」なんてものは、ついついそれに寄りかかって現実逃避したくなってしまう原因になりやすいから、むしろ邪魔物なのかもしれない。最近の、数々の不祥事報道に接すると、そんなことを思ってしまう。「日本の産業は世界一」「日本人の教育程度は世界一」なんていう類の思い込みはいったん捨てて、個人でも企業でも、終戦直後と同じ気構えになって出直してみてはいかがだろうか。

だいたい、問題が何もないならまだしも、問題があるのにそこから目をそむけていたり気付かなかったりして、収拾がつかなくなってから会社が外国資本の傘下に入り、外国人社長が乗り込んでくるまで解決できなかったとあっては情けなさ過ぎる。

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