Opinion : クラス J が気に入った理由 (2004/6/21)
 

日記の方には書いたのだが、先日、福岡から東京まで戻ってくる際に、日本航空が 6 月からサービスを開始した「クラス J」を利用してみた。これは従来のスーパーシートに代わるもので、サービス内容を簡素化する代わりに追加料金を \1,000- に引き下げた。併せて、客室に設置されるシートも一新されている。
(現時点では B777-346 など一部の機材だけが新シートに切り替わっているだけで、その他の機材はスーパーシートをそのままクラス J に転用しているが、最終的には全機が新シートに切り替わるはず)


福岡空港で見ていたら、お隣の全日空 (こちらは今もスーパーシートがある) ではスーパーシートに対する優先搭乗をやっていたし、日航でもスーパーシート時代には託送手荷物の優先受け取り、なんてことまでやっていた。それと比べると、「クラス J」のサービス内容はだいぶ落ちる。

現在はサービス開始直後のキャンペーン期間なので、ビール、あるいは焼き菓子のサービスがあるが、これはいずれはなくなるので、実質的に「クラス J」の利点といえるのは、新設計のシートを使えることと、客席が前寄りにあるので (後ろと比べると) 少しは静かで、かつ乗り降りの際に移動が楽、という程度にとどまっている。

実のところ、飛行機を使っていて嫌なのは、乗り降りに時間がかかることだ。せっかく目的地まで早く到着できても、それから降機するのに 10 分かそこらは簡単に冗費してしまうのだし、特に B777-300 のように全長が馬鹿長い機材ではなおさら。それを考えると、出口に近いせいで早く降機できるだけでも「クラス J」に利点がある。(そのためだけに \1,000- は高いって ? それはそうですけど)

もちろん、新型シートはエコノミーと比べれば快適で、特に前後方向の余裕があるのが嬉しい。横方向に余裕があっても、自分のように痩せた人間にとっては何のメリットもないが、前後方向の余裕があるのは良い。それに、テーブルがインアーム式なので前席の動きに影響されないし、リクライニングさせると (E2 系 1000 番台のように) 座面が同時に前方に動くので、寛いだ姿勢を取りやすい。


ぶっちゃけた話、「クラス J」における最大の売り物は新設計のシートしかないのだから (失礼)、そこに力を入れた、ということなのだと思う。だが、搭乗時間がせいぜい 1-2 時間程度の日本の国内線では、これで十分ではないか ?
福岡から東京まで飛行機で飛ぶと、離陸から着陸までの時間は 1 時間半程度だが、離陸直後の上昇中と着陸前の降下中は身動きがとれず、何のサービスもできないのだから、機内サービスに使える時間なんてタカが知れている。それなら、多額の追加料金を払って、たいして利用できないゴージャスなサービスを用意してもらうよりも、そこそこの追加料金でそこそこのサービスを利用できる方が、費用対効果がよろしい。

実際、自分が利用した日航機が夜のフライトだったせいもあろうが、周囲は寝ている人が多く、これでは付加サービスがあっても使いようがない。昼間でも、飛行機や新幹線の移動中は寝てばかり、という人は少なくないようだし。

これがバブルの時代だったら、また考え方が違っただろうと思う。思えば、1980 年代末期から 1990 年代初頭にかけては、航空業界に限らず、JR のグリーン車でも 3 列シートにしてみたり、シート背面に TV をつけて衛星放送を見られるようにしたりと、むやみにゴージャス化が進んでいた。が、冷静に考えると、飛行機でも列車でも実際に乗ってサービスを利用できる時間は限られる場合が多いのだから、場合によっては高い追加料金が無駄になりかねない。

幸か不幸か、バブル崩壊と景気の低迷によってゴージャス化には歯止めがかかり、最近では 4 列シートのグリーン車が普通になり、TV なんてどこかに消えてしまい、飛行機でもスーパーシートが簡素化されて「クラス J」になったりしている。だが、先にも書いたように、利用する時間が短いのであれば、むやみにゴージャスにするよりも、そこそこの追加料金で、そこそこの付加価値が得られる方が好ましい。

多分、スーパーシートを止めて「クラス J」にした日本航空の考え方もこれと同じで、むやみにゴージャスにして利用者が少数にとどまるよりも、言い方は悪いが、"薄く広く" 収入を増やす方向に転じたということなのだろうし、個人的には賛成だ。太平洋横断で 8-10 時間もかかる国際線のフライトとは違うのだから。


以前、「趣味的見地と一般的な見地にはズレがある」という趣旨のことを書いたことがあったが、この「クラス J」やグリーン車のサービス、あるいは列車食堂にも同じことがいえるのではないか。趣味人の立場から見れば、いろいろと付加サービスがあった方が楽しいが、趣味的見地抜きで単なる移動手段としてみれば、そういうのは往々にして余計な夾雑物にしか映らなかったりする。それなら、もっと安価でシンプル化した、肝心なツボだけをきっちり押さえた付加サービスの方がいい。

ただ、先にちょっと書いた長距離国際線、あるいは鉄道でも <カシオペア> や <トワイライト> みたいに移動そのものを楽しむケースや乗車時間が長い新幹線のグリーン車なら、また話は違う。たとえば、100 系新幹線のグリーン車はなかなか立派だったが、あれは東京から博多まで 7 時間近くかかっていた時代の産物だから、昨今の <のぞみ> あたりとは訳が違う。 <カシオペア> や <トワイライト> にだけ食堂車が残っているのも同じことだ。

要は適材適所ということで、何でもかんでもゴージャス化する必要はないし、逆もまた然り。極端なゴージャス化、あるいは極端な簡素化は、どこかで揺り戻しが来るということなのだろうと思う。この「極端」というキーワードについては、来週、別のネタも交えてもう少し考えてみることにしたい。何か突発事件があれば、再来週以降に延期だけれど…

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