Opinion : ソニー、大丈夫 ? (2005/1/31)
 

自分はゲームをやらない人で、当然、ゲーム機も持っていないし関心もないので知らなかったが、ソニー期待の新製品・PSP に関して、「欠陥だ、いや仕様だ」と騒々しいことになっているらしい。

自分は現物を触っていないから、不具合の詳細についてはなんともいえない。あちこちで騒ぎになっている SCEI 久夛良木社長の「不良ではなく仕様だ」発言にしても、ナマの発言ではなくて、インタビュー記事として再構成されたもの。だから、「日経ビジネス」に掲載された通りの発言が本当にあったのかどうかは確言できない。それでも、現に非難の声があちこちで上がっているのだけは事実らしい。

この PSP の件はともかく、最近出てくる製品群を見ていると、どうもソニーに元気がないというか、少しハズしているというか、そんな印象は数年前からあった。ホンダとともに「日本ものづくり企業のシンボル」として祭り上げられることの多いソニーだけに、これで大丈夫なのかと心配になる。


自分は IT 分野をフィールドにしているから、ソニー製品の中でも馴染み深いのは PC 製品ということになる。
その PC 製品、すなわち VAIO シリーズについては、過去に PCG-505X/64 と PCG-C1XG を使ったことがあるから、まるっきり縁がないわけではない。PCG-505X/64 ではバッテリが充電できなくなる不具合に見舞われたものの、サポートの迅速な対応で、新品バッテリと交換したのか修理してもらったのか忘れたが、とにかく素早く復活できたので、とてもいい印象を持ったものだ。

この PCG-505 シリーズを筆頭に、VAIO、とりわけ VAIO ノートというと、とんがった、物欲魂を刺激するような製品が多かった。過去形で書いているのは、過去の話だから。ここ 1-2 年ほどの VAIO で、「これは買いたいぞ」と思った製品は、実のところ皆無だったりする。

とりわけ、「銀パソ」として一世を風靡した 505 シリーズの末路はひどいものだった。R505 あたりからガタイがどんどん肥大化しただけでもどうかと思うのに、見てくれはどんどん悪くなるし、キーボードの質も下がった。最後の頃に売られていた V505 シリーズなど、いったい何のために出してきたんだろうと思ったものだ。初代が高く評価され、よく売れただけに、終わりの頃の惨状は目に余るものがあった。

最近でも、シリーズのラインナップだけは豊富なのだが、どうも「VAIO ならでは」の魅力というものが見えてこないし、どの機種も似て見える。
こういうことを書くと、「CPU と OS を Wintel に押さえられているからだ」とブーたれる声が聞こえてきそうだけれど、そういう問題じゃない。Windows XP MCE を蹴って独自のハードとソフトで AV 機能を実現するなら、そこで差別化を図れる可能性があるハズだ。第一、Wintel に背を向けて PowerPC と Linux にすれば VAIO ならではの個性を実現できる、という問題でもないだろう。

AV 関連については PC よりは疎遠だが、それでも MD プレーヤーやミニコンポがソニー製だったし、AV 関連製品を買おうと思ったときには、以前なら、まずソニー製品に目を向けていたものだ。そういえば、AE111 レビンに乗っていたときはカーナビもソニー製だった。
ところが最近では、ミニコンポは買い替えでケンウッドに、MD プレーヤーもケンウッドに、HDD プレーヤーは東芝に、という有様で、ソニー離れが激しい。一応、店頭ではソニー製品もチェックしているのだが、なんだかピンと来ないで選択肢から外れてしまっている。

そもそも、ソニー製品の魅力というと、作り手が「自分でこういうものが欲しいと思った」モノを、技術的困難を乗り越えて作り上げた、いわゆるとんがった部分にあったのではないかと思う。「欲しいものを作って評価された」という点では、NEWS という前例もある。
それと、それまでは嵩張っていたものを小型化して持ち運びを容易にすることで、世間をあっといわせて定評を得てきたのがソニーだ。ウォークマンしかり、ディスクマンしかり。VAIO NOTE 505 だって、洗練されたデザインとともに、匡体の薄さがなければ、あんなに人気は出なかっただろう。

あと、小型化や独自のアイデアを、そこそこリーズナブルな価格で出してきていたところが特徴だと思う。そういえば、自分の携帯電話はソニー・エリクソンだが、ジョグダイヤルを使ったユーザー インターフェイスやソニー独自の日本語入力機能は、個人的に高く評価している。(そんなわけで、携帯電話だけは、今でもソニー・エリクソンを使いたいと思っている)
だから、いっちゃ悪いが「QUALIA」はソニーがやる商売ではないと思うし、皆がソニーに期待しているものからはハズれていないだろうか。

もっとも、この「独自のアイデア」というところが曲者で、独自企画を打ち出して陣営を広げ、ユーザーを取り込んでデファクト スタンダード化する戦略が、ことに最近はうまくいっていない傾向が強い。以前にはベータマックスがこけたが、最近では ATRAC やメモリースティックの不調が挙げられる。
ただ、自分達で標準を作ってやろうという気概は買うべきだし、「世界で初めて」にチャレンジするなら、ボタンの位置にこだわるよりも技術にこだわる方がソニーらしいじゃないか。


ソニーの不幸をひとつ挙げるとすると、周囲、とりわけメディアがこの会社に対して甘すぎることにあるんじゃないかと思う。冒頭で触れた「日経ビジネス」の PSP 記事にしても、どちらかというと SCEI 側を擁護しているような記事の書きっぷりで、最後の締めくくりも「それだけに一部とはいえ騒ぎとなっていることに電機業界の関心も高い」ときた。これが他のメーカーに対するものなら、もっときついことを書いていても不思議はない。

PC 関連製品にしても、VAIO の新型が出ると扱いは大きいしレビュー記事はてんこ盛りだしで、大いに煽ってくれる。だいたい、IT 系メディアで突出して扱いが大きいメーカーといえばソニーとアップルだが、そのエネルギーの一部だけでも他社製品のために割いてやれよ、と思ってしまうことがしばしばある。もちろん、背後にいろいろと "大人の事情" はあるにしても。

おまけに、プレステが大当たりしたせいで、この傾向に拍車がかかった。今ではソニーといえばプレステといわんばかりで、ほとんど東郷元帥並みの神様扱いだけれども、それでいいんだろうか。ひょっとして「プレステの成功体験が、却ってソニーを駄目にした」なんてことはないんだろうか。

なにもソニーに限らず、どんなメーカーでも大当たりしたり衰退したりするもの。ただ、ソニーの場合には「高度成長期のものづくり」や「プレステ大成功」といった輝かしい歴史があるだけに、それが却って、苦境に陥ったときの復活を邪魔しているような気がする。もちろんブランディングは大事だけれども、モノを作って売る会社なら、消費者が喜んで財布の紐を緩めてくれるような魅力的なモノを作らないことには始まらないので、そこのところの基本に立ち返って欲しいと思うわけだ。

ものすごく言い方は悪いけれども、今のソニーを見ていると、前進の仕方は知っていても退却の仕方を知らなかった、どこかの国の陸軍みたいだ。この調子では、ほんと、この会社の前途が心配になる。

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