Opinion : 長く使える名前にしてくれませんか (2005/2/28)
 

初めにお詫びを。
週末に予定が入っていたところに、やたらとページ数の多い新刊書の校正作業がぶちあたり、更新が火曜日にずれ込んでしまった。それもあって、今週のコラムは遅刻の上に短め。すみません。

で。美浜町と南知多町が合併して、新市名を「南セントレア市」にするといいだしたら、各方面から非難囂々、とうとうこの新市名を引っ込めることになったらしい。当然の結論で、最初にこれをいい出した人は一体誰かと問い詰めたいところ。

せっかくの合併と新市名のスタートだし、話題の中部新空港に引っかけて売り出したいという気持ちは分からないでもない。しかし、中部新空港が話題だといっても、それはあくまで一過性のもの。流行がいつか廃れるように、話題になったものも、いつか話題にならなくなる。

オープン当初は押すな押すなの大混雑だった「丸ビル」は、今ではオフィスビル兼商業ビルとして "普通の混雑" しかしていないし、汐留シオサイトにしても、その他の話題のスポットにしてもしかり。いずれ、六本木ヒルズも同じことになるだろう。例外となり得るのは、千葉ディズニーランド 東京ディズニーランドみたいに、ときどき燃料を投下してテコ入れしている、ごく一部のケースだけだ。

だから、そんな流行ものに便乗して、一生モノの「新市名」を決めてしまった日には、後できっと後悔する。
だってそうでしょう。東京都大田区が羽田の沖合展開に合わせて「ビッグバード区」なんて名前をつけていたら、いまごろ気恥ずかしい思いをしていたに違いない。それと同じこと。大田区にしても、関空を抱える泉佐野にしても、安易に空港に便乗しなかったのは正解だったと思う。特に関西には、何かと味わい深い地名や駅名が多いのだから、大切にしていただきたい。


もっとも、「話題のスポット」に便乗するだけでなく、似たような例はあちこちにある。元号が変わった途端に「平成ほげほげ」という名前が頻発したのもそうだし、オリンピックで活躍したアスリートや人気の政治家の名前を、ここぞとばかりに自分の子供につける親がいるのも同じ。バブルの頃に「CI ブーム」とやらで社名をコロリと変える事例が多発したけれども、これだって似たようなものだ。
そういえば、田中内閣の絶頂期に、どこぞの「田中さん」が息子に「角栄」という名前をつけたら、ロッキード事件の後でいじめられる羽目になり、裁判所に改名を申請した、なんていう事件もあった。

いずれも、動機の部分では悪意がないものの、先々のことまで考えないから、後になって困ってしまったりするケースが少なくない。会社の名前ぐらいなら、またぞろ「出直しの CI」ということで改名し直せば済む (もっとも、そんなコロコロ変えられてしまう "identity" って何なのよ、という突っ込みは不可避だろう)。だが、人名や地名は、そう気軽に変えられない。だからこそ、長く使えるような、普遍性があるネーミングを考える必要がある。

そういえば、小田急ロマンスカーに <サポート> というヘンテコリンな名前があったけれども、先日のダイヤ改正で消滅した。「沿線住民をサポート」なのか「通勤客をサポート」なのか知らないけれど、いくらなんでもあんまりなネーミングだと思っていたので、消滅してホッとしている。鉄道業界は、どちらかというと昔からの名前を大切に使っている部類だと思うけれども、それでもときどき、こういう跳ねっ返りが出てくる。その昔、箱根周辺のネタにちなんでシックな列車名 (例 : 金時) をつけていたのと同じ会社とは思えない大ハズレだった。


名前というのは、単に識別のための記号というわけではなくて、イメージ作り、あるいは親しみを感じてもらう上での重要な役割を担っているもの。それだからこそ、流行に乗っかった安直なネーミングは慎むべきだと思う。特に、人名や地名は、簡単に変えられないだけに、慎重に決めなければならない。
帝国海軍では「いくさぶね」らしからぬ優雅なネーミングが多かったし、それがまた魅力でもある。明治天皇は軍艦の名前に関心が深く、お気に召さないと突っ返された、なんていう話もあるぐらいだ。

特に、地名をひとたび決めた日には、地域内の住民や企業がみんな、その地名を「住所」として書かなければならない。だからこそ「南セントレア市」なんていうミーハーなネーミングは避けたい。東急田園都市線沿線には、「美しが丘」を筆頭に、この手の恥ずかしいニュータウン地名が多いが、これもどうにかしてくれと思う。

流行で、スカート丈が長くなったり短くなったりするぐらいなら、大して問題はない。だけど、いったん決めたものを長く使わなければならない社名・地名・人名の類では、流行に便乗した安直なネーミングは後悔の元ではないか。
かつて、運輸省/国土交通省はフネの名前に使える文字を制限していたらしいけれど、そんなことを規制するぐらいなら、地名に使える文字や用語を規制する方が、なんぼか役に立つのではなかろうか。

余談をひとつ。
東日本フェリーは神話ネタの船名で知られるけれど、どういうわけか、促音が使われていない。だから、"Hestia" が「へすていあ」になってしまう。ひょっとして、運輸省では「船名に促音を使うべからず」なんて規制をしていたのだろうか ? もっとも、ひらがな & 促音抜きで書かれた船名も、妙な味わいがあるけれど。

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