Opinion : ロック岩崎氏の訃報を聞いて (2005/4/25)
 

当サイトにお越しになる皆さんなら先刻御存知の通り、ロック岩崎氏が訓練飛行中の事故で亡くなった。何もないところから「エアロック」を立ち上げて軌道に載せ、実際に航空ショーや基地祭で飛ばしてみせられるようになるまでには、想像もつかないような苦労がたくさんあっただろうに。
どうして、「もっともっと活躍して欲しい」と思う人が、まだ若くして冥界に旅立ってしまうのか。まったく、世の中に理不尽なことというのはあるものだ。

どうも「岩崎貴弘氏」と書くと気分が出ないので、「ロック岩崎氏」と書かせてもらうが、もちろん私も、氏の著書「最強の戦闘機パイロット」を持っている。変に気取ったところがなく、一般人には無縁な戦闘機パイロットの世界について分かりやすく書かれた、とてもいい本だと思った。
私ごときが「感心した」なんて書くとおこがましいけれども、この本を読んで感心したことがいくつかある。


ロック岩崎氏は航学出身の戦闘機乗りだが、駆け出しのパイロット訓練生だった時分に、ラジコン飛行機を買ってきて飛ばしていたのだそうだ。それも、単に飛ばすだけではなくて、自分が本物の飛行機でやるのと同じ機動を試し、さらに航空工学の勉強や、学習の成果を実際にラジコン飛行機を飛ばして検証することまでしたのだという。

実際にそこまでやるパイロットの方が、空自でもよその空軍でも、一体どれくらいいらっしゃるのか分からない。ただ、飛行機が飛ぶためのロジックを、訓練中の試験には出ないようなところまで勉強して、さらにそれを実際にラジコン機で試してみる。そんな研究熱心さが、後になって「15 を飛ばすと本当に上手い」と評されたり、他のパイロットにはなかなかできないような機動をやってのけたりする素地を作ったのではないか。そんな気がする。

飛行機の操縦でも自動車の運転でもコンピュータの操作でも何でも、「こういう風に操作します」というやり方を教えてくれる人は多いけれども、「どうしてそういう操作が必要なのか」「その操作によって何が起こるのか」といった背景まで踏み込んで教育しているケースは、意外と少ない。

たとえば、自分がフィールドにしている IT 業界で「初心者向けの入門書」に分類されるような本を読んでみると、「こういうときには、こういう操作をします」とは書いてあるが、どうしてそれが必要なのか、その操作によって何が起こるのか、といったところまでは書いていない。
もちろん、初心者にそこまでの説明をやったら情報過多で消化不良を起こしてしまうだろうが、初心者を脱して「詳しい人」になれるかどうかは、ロジックや動作原理、内部構造に関する知識を深めていったり、教えられなかった操作までどんどん好奇心を発揮して試していったりできるかどうかで決まってくるんじゃないか、と思う。

多分、よその業界でも、この原則は通用するのではないか。どんな世界でも、本当に上手くなれる人というのは、表面的な話や操作手順だけで終わらず、背景やロジックや動作原理や内部的なメカニズムまで理解しようと努める人なのではないか。


「最強の戦闘機パイロット」で印象的だったのは、ロック岩崎氏が単に「優秀なイーグル・ドライバー」であるだけでなく、後輩を育てていく際の「教官」としての一面、整備員に対するさまざまな配慮、あるいは広報活動に対する気配り、といった話だった。(戦闘機パイロットという本来の仕事だけでも激務だろうし、空自の組織としてみれば、それをきちんとこなしているだけでも十分なはずなのに…)

そうした氏の一面は、基地祭のときにデモフライトを盛り上げる演出をやってみた話や、空自のパイロットがどこかに呼ばれて話をしに行くときに「戦闘機パイロットに対するイメージを壊さないように」スタイルのいいパイロットばかり選んで連れて行った話 (笑)、自著の中でいろいろと紹介されている、パイロットの日常生活に関する話、といったあたりに現れている。

この手の話は、航空自衛隊の任務遂行に際して「必須項目」とはいいきれないものばかり、かもしれない。でも、航空自衛隊が国民に支えられていくためには、決して無駄にはならないはずのもの。
飛行機を飛ばす楽しさを広めてくれた「エアロック」のフライトだって同じこと。それに、ビッツで飛んでいないときもファンサービスに一生懸命だったのは周知の事実で、そういったところに氏の人柄が出ていたように思えてならない。

だから、日本の航空界は本当に惜しい人材をなくしてしまったとしかいいようがない。
といって、ここで愚痴をたれてみたところでロック岩崎氏が帰ってくるわけではないし、これから第二・第三のロックが育つことを期待して、終わりにしたいと思う。

Goodbye, Rock !


追記。
本文中で、前段部分の話に続けて入れてみたら浮きまくってしまったので、以下の駄文は末尾に切り離してしまった。(え ? いつも全部が駄文だろうって ? いや、それはその…)

およそ、運動というもので上手いといわれたことのなかったこの私が、なぜかスキーに関しては例外となり、実質 2 年目としては「あり得ない」といわれるぐらい上達した (といっても、まだまだ上にはデカい壁が控えている。あくまで、経験が浅い割には、という話)。確かに、今シーズンだけで 40 日近く出撃しているから、数をこなしたのは事実だけれども、本当の理由は別のところにあると思っている。

どういうことかというと、上手い人の滑りや、どのような動きをしているのかを観察して真似してみたり、板の動かし方や身体の構造について研究したり、(ラジコン機というわけに行かないので) 自分で考えてみたことを実際に試してみたり、といったことをしつこいぐらいにやった。それが良かったんじゃないかと。

仕事で、資格試験攻略用テキストの原稿を何度も書いている。読者はこの手の本に対して、「試験に合格して資格を手に入れる」というストレートな結果を求めるから、どうしても「読者の需要に合わせる」ということで、過去に出題された問題に対する解説など、"試験に受かるための内容" を中心に書かざるを得ない。
だが、IT 関連の知識を仕事に活用する際に、それでいいのかどうかというと、疑問に思える。重要なのは、ロジックや動作原理やメカニズムを正しく理解することで、その理解度を検証する手段が資格試験であるべきなのだが…

ラジコン機を使った実験や航空工学の勉強に熱中したおかげで (?) 屈指のイーグル・ドライバーとなったロック岩崎氏の話から、こんなことを考えてしまった。

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