Opinion : 飛び道具よりソフト面の整備を (2005/6/6)
 

「コンピュータ ソフトなければ ただの箱」というのは IT 業界でしばしば登場する戯句だけれど、何もこれ、コンピュータに限った話ではない。

軍事力を比較する際に、我々軍ヲタはしばしば、装備数やカタログスペックによる比較に終始してしまいがちだけれども、実際には、訓練や練度の違い、ドクトリンの違い、後方支援体制の違いなど、戦闘能力に影響するパラメータはたくさんある。だから、装備の数やカタログスペックだけ比較してみても、あまり正確な結果は出ない。
湾岸戦争のときに、このせいで予想を外しまくった「評論家」や「解説者」がたくさんいた。中には、「アメリカ嫌い」のせいで「イラクが勝つ」と予想したがった人もいたのだろうけれど。

閑話休題。
戦闘能力に関わるハード面以外のパラメータには、国家の政策であるとか、政府首脳の断固たる意志であるとか、それを支える根拠となる法的枠組みであるとか、そんな問題もある。


たとえば、「日本も核武装すべきだ !」と勇ましいことをいう人がいるけれども、核兵器というのは、そいつを兵器庫に置いただけで意味があるかというと、そういうものでもない。安全管理の問題、そして「どういうときに使う」という理由付けや「どういう手順で使う」というプロシージャの問題も整備しておかないと、「核兵器を持ってるけど、使えないも同然だ」といってなめられる可能性がある。使いっこないと看破されている核兵器では抑止にならないから、ただの無駄遣いで終わってしまう。

対馬沖で発生した、日韓巡視船の睨み合い騒動に関連して「もっと海上保安庁の巡視船を重武装化すべきだ」とか「海自の古い護衛艦を海保に回せ」とかいった類の意見を見かける。これとて、スケールはだいぶ違うけれども、先の核兵器の話と事情は似ている。

なるほど、おなじ「コーストガードの巡視船」でも、アメリカの沿岸警備隊では OTO メララの 76mm 砲を搭載していたり、果てはハープーン対艦ミサイルまで搭載していたりするわけで、それと比較すると、海保の巡視船が頼りなく見える心情は分かる。

でも、巡視船がどういうサイズで、どういう兵装を備えるかというのは、「それをどのような状況下で、どのように運用するか」という思想を反映した問題のハズ。仮に、海保の巡視船にハープーンを搭載したところで、目標を捕捉して発射に必要なデータを得るための道具立てや、「こんな状況になったら撃ってもよろしい」という交戦規則の整備を伴わなければ、ただのお飾りで終わってしまう。

もちろん、運用経費の問題もある。たとえば、海自の護衛艦を海保に回した場合、今頃になって出てくる護衛艦の "出物" はガスタービン主機だから、一般的傾向として、ディーゼル主機より燃費は悪い。護衛艦なら、ASW で静粛性が重視されるから、ということでガスタービン主機の燃費を我慢する理由が立つけれども、警備任務を主体とする海保では、そういう理由が成り立ちにくい。海保が ASW をやる訳じゃないんだから。

その挙句に、「燃料費が嵩むから」といって岸壁に繋留したままでは、乗員の練度が落ちるし、機械の調子は悪くなるし、諸外国から馬鹿にされる原因になる。某国の軽空母が、経済危機に見舞われて財政難になったせいで稼働率をガタ落ちさせたのと同じこと。それでは意味がない。

海保が予算難なのは、よく知られている話。大臣の人気取り (?) のために「ATS-P を整備するための補助金を」なんていうぐらいなら、同じ省庁の担当なのだから、むしろ海保に予算を回せよと思う。ただ、海保を "海軍化" するより先に、もっとやるべきことがあるんじゃないかとも思う。

念のために書いておくと、ATS-P の導入がまったく無意味だとはいわない。ただ、以前に書いたように、「カーブにおける速度超過防止のために」という名目なら、JR 全線に導入するのでなければ理由がつかない。都市部にだけ付けろというのでは、地方の乗客は速度超過のリスクにさらされていいのか、という話になってしまう。
その辺、国交省がやっていることは、なんかチグハグな感じがするという話なので、お間違いのなきよう。

つまり、これは道具立ての問題というよりも、それをどう使うかというソフトウェア的な問題だ、という点を指摘しておきたいということ。必要なのは、巡視船の武装強化じゃなくて、必要とあらば断固たる措置をとるという国家首脳の意志と、その裏付けとなる法律や規則類の整備。もちろん、予算不足で行動が制約される、なんてことがないようにする必要もあるけれど。

仮に、事態がエスカレートしてハープーンをぶっ放さないといけない羽目になったら、それはもはや海自の出番であって、海保にハープーンだの大口径艦載砲だのを配備するのは、本末転倒だと思う。そんなことに予算を使うぐらいなら、巡視船や人員を増やすのが先だろう、と。


もちろん、今回の一件をめぐる韓国側の対応、とりわけ蔚山海警所属の警察官を表彰した一件なんかは「こいつらアホか」と思うことしきり。
ただ、これは根本的には、韓国の盧武鉉大統領が「日本を悪役に仕立てることで政権の人気取りを図っている」というところに最大の問題がある。昔から、外に悪役を作って不満を逸らすというのはポピュラーな手法だけれども。

先に、中国が「愛国無罪」のデモ行進を煽って自爆したように、韓国もこういうことばかり続けてると自爆するぞ、と思う。さしあたっての対応としては、カッカしないで冷静に、韓国側の暴走ぶりを国際社会に知らしめるのが妥当では。それで韓国側が冷静になって我に返れば、それでよし。さらに暴走するようなら、それはそれ。

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