Opinion : QDR をざっと読んでみた (2006/2/6)
 

米国防総省が 4 年ごとに行っている国防方針の評価作業・QDR (Quadrennial Defense Review) が完了して、報告書が公開された。

とりあえず、PDF になっている報告書をダウンロードして、ざっと斜め読みしてみた。一部の新聞などでも QDR 関連の記事が出始めているものの、えてして「では、在日米軍はどうなる」「在沖米軍はどうなる」といったローカルな話題に落とし込んでしまうのが常。
多数を占める読者、あるいは視聴者のウケを狙おうとすると、そういう話にせざるを得ないという事情も理解できなくはないが、目先の表面的な動きを見ているだけでは QDR の意味を見失う。

QDR というのは早い話が「これから先、米軍がどういう考え方の下で、どういった目標を達成するためにどのようなアクションを起こすか」を規定した根本方針だから、むしろ、そっちの部分に目を向けたいところ。そこで、ざっと目を通してみた範囲でキーポイントになりそうな話について、かいつまんで書いてみようと思う。


キーワード 1 : 統合 (Joint)

陸軍・海軍・空軍がバラバラに戦争をするのではなく、"統合化" されて一体のものとして戦うという考え方。第二次世界大戦の頃から萌芽はあったし、特に 1986 年の Goldwater-Nichols 軍改革法によって、戦域別に統合軍を編成する形が打ち出されている。それでもまだ足りないということなのか、今回の QDR でも "Joint" というキーワードは随所に出てくる。

作戦行動だけでなく、さらに装備の開発や調達などの分野でも、一層の統合化を推し進めるとしている。もっとも、そうでもしないとコスト上昇や厳しい予算状況に耐えられない、という事情もある。


キーワード 2 : 遠征 (Expeditionary)

紛争の発生が予想される地域に部隊を恒常的に配備する方式は、政治的・経済的に難しくなってきている。そこで、普段は本土に部隊を置いておき、花火が上がったら現地に駆けつける方式を重視する。

これを実現するには、戦略的輸送能力 (strategic mobility) の強化が必要になる。そのため、大型輸送機、高速輸送艦、洋上基地や洋上事前配備船といった資産が重視される。

また、アメリカ本土 (CONUS) から直接、遠方にいる敵を迅速、かつ精確に攻撃する能力を実現する。いわゆる "long-range strike capability" のこと。これを新型爆撃機と早とちりした向きもあるようだけれど、爆撃機以外の選択肢も考えられるはず。


キーワード 3 : 情報の重視

戦車、艦艇、航空機などのプラットフォームよりも、情報や諜報を重視する。情報活動も、軍種ごとにバラバラに行うのではなく統合化を図る。人的情報収集 (HUMINT) や恒常的監視の重視。(リアルワールドだけでなく) サイバースペースにおけるテロリストの追跡を行うほか、サイバー戦の体制整備、サイバー攻撃への対処も図る。

兵士が情報を取りに行くのではなく、情報が兵士の手元にやってくる体制を作る。つまり、マホメットと山の関係が従来とは逆になる。

それを支えるのが、NCW (Network Centric Warfare)、あるいは情報の融合 (information fusion) といった考え方。ストライカー旅団、LCS (Littoral Combat Ship)、各種無人プラットフォームといった新型装備にも、こうした考え方を反映させる。


キーワード 4 : "tailored force"

平時の編成のままで戦場に赴くのではなく、状況や任務様態に応じて最適な部隊を集めて派遣する方式への転換。海軍はもともとこうしたタスクフォース編成を取っているし、空軍も AEF コンセプトで似たような考え方を取り入れているが、これを一層推進する。陸軍のモジュラー旅団構想も、この一環。

"threat-based planning" から "capability-based planning" への転換、"kinetic" から "effect" への転換を図る。つまり、能力と結果の重視。「何をやったか」ではなく「何を成し遂げたか」が重要視される。

なんというか「オブジェクト指向 プログラミング 軍事活動」という感じもする。


キーワード 5 : 多様性・柔軟性

国家同士の戦争だけでなく、テロ組織との戦闘、自然災害への対処、平和維持活動など、多様化した任務への対応を図る。また、同時に複数の、非対称性の不正規戦に対応できるようにする。そのため、特殊作戦部隊や、それを支援する機能を持つ正規軍部隊を強化する。

固定的な同盟国を規定する方法から、動的なパートナーシップを確立する方法へ。そして、そうしたパートナーを作り上げる能力を実現する。同盟国の軍隊に対して訓練・装備・助言を実施したり、作戦行動の支援まで担当したりできる部隊の実現を図る。つまり、アメリカの軍隊が他国に出て行って手や口を出すよりも、自国のことを自国で処理できるように手を貸す方式。

それと関連して、すでにいわれている沿岸水域だけでなく、河川における戦闘能力も強化する。同盟国が自国内で対テロ作戦などを実施する際に、こうした能力が必要になる場合が多いと考えられている様子。

戦闘終結後にまとめて分析作業を行うのではなく、リアルタイムでどんどん教訓を分析して取り入れる。これはおそらく、状況の変化に対して迅速に適応できるようにするのが狙い。もともと、こうした柔軟な対応はテロ組織が得意とするところ。


と、目についた項目をテキトーに書き連ねてみた。なんにしても、こういった考え方が具体的な組織・編成・装備調達・作戦行動などに反映される訳で、在日米軍の動向などもその延長線上にある。逆にいえば、DoD がどういう考え方を持っているかを知れば、たとえば在日米軍にどういった影響が生じるかを予測する助けにもなる。

そんな視点から QDR を眺めてみることも必要なのではないかしらん、と思った。短兵急かつローカルに目先の動向だけ追い求めていると、大局的な動きを見失ってしまう。

最後に余談をひとつ。
どうやら、冷戦期のような「核戦争への備え」はあまり重視しない方向にあるようで、E-4B を退役させるという話が出ている。代わりに、C-32 の C3 能力を強化して、災害やテロ攻撃などが発生したときの「空飛ぶ指揮所」にするらしい。

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