Opinion : 中韓両国の "騒音おばさん外交" (2006/4/24)
 

以前、どこかで中国・韓国・北朝鮮の対日姿勢について「ゆすりたかり外交」と書いたことがある。過去の歴史を引き合いに出すことで相手の譲歩を引き出そうとするやり方を指したものだ。

そんなことをいいだせば、たいていの国は過去の歴史を掘り返せばひとつやふたつぐらい、似たような話が出てくる。ただ、エチケットというか、外交儀礼における「越えてはならない一線」として、その手の話を持ち出すのを差し控えている場合が多いという話。

過去のことを引き合いに出すなら、日本がアメリカに対してことあるごとに「広島・長崎」を引き合いに出して責め立てるという手もあるが、そういうことはしない。アメリカが日本に対して「過去の行状」を持ち出さないのも同じこと。ロシアだって「シベリア出兵の謝罪と賠償を」なんてことはいわない。

ついでにいうならば、夏が来る度にマスコミ関係者が「エノラ・ゲイ」の機長だったポール・ティペッツのところに押しかけて謝罪の言葉を引き出そうとするのもピント外れな話。謝罪させるなら原爆投下を指令したトルーマン大統領にすべきで、命令を受けて機長を務めたポール・ティペッツを責め立てても意味がない。たまたま存命中だからといって、毎年のように八つ当たりしに行くのでは中国や韓国と大して変わらない。


それはそれとして。

中国では江沢民体制以降、韓国では盧武鉉大統領以降に、特に「ゆすりたかり外交」の度合がひどくなっているように感じられる。それだけでなく、「中国人は欧米人より IQ が高い」だの「○○は韓国が起源だった」だのと、民族の優越を殊更に言い立てる傾向も強まっているようだ。そういう傾向が、国別対抗のスポーツ・イベントになると爆発する。

民族の優越を主張して優越感をかき立てたり、他所に「敵」を作ることで国民の不満を外部に向けて逸らさせたりするのは、内政運営の手法としてポピュラーなもの。ただ、短期的には効果があるように見えても、いずれは破綻する場合が多い。フォークランド紛争で墓穴を掘ったアルゼンチンが典型例。民族の優越を強調しまくった事例としては、アドルフ・ヒトラーがいる。

最近だと、竹島をめぐって日韓が角突き合わせて騒動になったが、これとて事情はフォークランド紛争と大同小異。政権の人気とりを図るために外敵をこしらえて、それを利用しているに過ぎない。

この竹島については、韓国海軍の新型揚陸艦に「独島」と命名する騒ぎもあった。普通の文明国なら、領土問題でモメているからといって、それを軍艦の名前に使って煽り立てるような真似はしない。国内ウケはするかも知れないが、こんなことをやっても長期的に見れば害毒を流すだけだ。

ただ、相手がこういう大人げない真似ばかりするからといって、日本がそれに「お付き合い」する必要もない。あちら側で反日デモが発生して日の丸を燃やしたからといって、我々が五星紅旗なんかを燃やしてみせたりするのは愚の骨頂。むしろ、冷静に対応しながら相手側の脱線・暴走ぶりを利用することで、こちらに都合のいい材料に転化してしまうのが賢明な対応ではないかと思われる。


そもそも、外交というのは国と国との国益をめぐるぶつかり合いなので、何か対立する利害関係をめぐってやり合ったときに、どちらか一方の要求が 100% 通るということはまずあり得ない。まずは双方が 100% の要求をぶつけ合ったところで、適当な落としどころを見つけて妥協するのが基本パターン。それができないと戦争になってしまう。

そう考えると、昨年に中国で発生した反日デモ騒動、あるいは最近の竹島をめぐる一件などでは、日本政府はそれなりに上手くやっていると思う。少なくとも、相手の挑発に乗らなければ、相手を国際社会で悪者に仕立てることができるし、それは結果としてこちら側の利益になる。
すごくイヤらしい考え方のように見えるかも知れないが、外交というのは一定のルールによって制御された喧嘩みたいなものなので、ただ単に「仲良くしましょう」「コトを穏便に」といって済むもんじゃない。

現に、中国は反日デモ騒動が暴走したおかげで、味方にするつもりだった EU まで (一時的ながら) 離反させてしまった。韓国にしても、今回の竹島騒動では、言い逃れの余地を残しているものの、どちらかといえば日本に寄り切られた格好になっている。もちろん、日本側の言い分が 100% 通ったということではないにしても、押さえるべきところはきちんと押さえているので、現実的に考えると最上の結果といえるのでは。

ここで「100% の勝利でなければ嫌だ」といってモメ続けると、日露戦争の終結をめぐって発生した日比谷焼き討ち事件みたいなことになる。焼き討ち事件の犯人がいうような完全勝利を目指して日露戦争をさらに続けていたら、国力を使い果たして逆転負けしていた可能性が高いというのに。

太平洋戦争だって、あのタイミングで終戦に持ち込むことができなかったら、もっと悲惨なことになっていただろう、というのはよく指摘される話。

だいたい、必要以上に過激な、"all or nothing" というかゼロサム・ゲームみたいなことばかりいう人は、一見したところでは「愛国者」に見えるかも知れないが、実のところは韓国や中国の政権トップと同じ穴の狢。かつて「なに、忠義の士というものがあって国を潰すのだ」といった人もいる。


最近、mixi で書いたらウケてしまったのだが、最近の中国・韓国 (北朝鮮も似たようなものだが、あの国はもともとそういう芸風だから措いておく) の対日姿勢は、奈良の騒音おばさんに似ていると思う。何かというと水戸黄門の印籠よろしく「靖国」だの「過去の侵略行為」だのを持ち出して大声を上げるのは、奈良の騒音おばさんが「引っ越し ! 引っ越し !」と連呼するのと大して変わらない。ラジカセの代わりにメディアや外交チャネルを使う分だけ始末がわるいが。

中国の場合、国民が指導者を自らの意志で選べるわけではないのだが、韓国の場合は選挙で選出された大統領が先頭に立って、政権の人気とりのために「騒音おばさん外交」をやっているのだから収拾がつかない。もっとも、そういう人物だと分かっていて票を投じたのかどうか、という問題はあるにしても。

盧武鉉大統領の登場に際しては、「オーマイニュース」みたいな市民記者メディアが活躍したと報じられている。それが本当なら、こんな罪作りな大統領の誕生に加担してしまったオーマイニュースも、なんとも罪作りな存在といわざるを得ない。「市民記者メディア」というと無条件に正義の味方扱いされそうだが、「奈良の騒音おばさん外交」をお家芸にする大統領を送り出してしまったとなると、「市民メディア」を持ち上げる風潮に釘を刺す材料となるかも知れない。

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