Opinion : 松下電器はパソコン兵器の回収を、だって !? (2006/5/1)
 

週刊連載となると、ときにはネタに困ることもある。読んでいただいて「これって切れ味がよくないなあ」と思われた記事は、ネタに困ったときにひねりだしたもの、かもしれない。
しかしときには、強烈なネタが熨斗を付けてやってくることもあり、そんなときにはノリノリで書いてしまう。今週もそんな話題を。


いわゆる「平和団体」の人が、(筋の通った主張ならまだしも) トンチンカン極まりない主張をするのは、よくある話。その中でも、以下のものは傑作の部類に属するかも知れない。本人が「転載歓迎」としているので、遠慮なく転載させてもらおう。

[AML 6745] 松下電器はパソコン兵器の回収を!
杉原 浩司 kojis@agate.plala.or.jp
2006年 4月 22日 (土) 05:36:59 JST

【松下電器はパソコン兵器「タフブック」の戦場からの回収を!】
            <転送・転載・紹介歓迎/重複失礼>
 
●4月22、23日と東京・代々木公園などを会場に「アースデイ東京2006」
が行なわれます。多くの企業が協賛していますが、その中に「松下電器産
業」の名前があります。今流行りの「企業の社会的責任(CSR)」の一
環なのでしょう。また、松下電器がノンフロン冷蔵庫を開発したという経
緯があってのことかもしれません。松下電器は難民支援活動への協賛など
もしているようです。
 しかし、「社会貢献」と胸を張るその顔の裏に、不気味な表情が隠れて
いることはあまり知られていません。その"血塗られた顔"とは、私が「パ
ソコン兵器」と命名した、ノートパソコン『パナソニック タフブック』
にまつわるものです。
 
●それはまさしく「戦うコンピュータ」であり「小型武器」です。書籍
『戦うコンピュータ〜軍事分野で進行中のIT革命とRMA』(井上孝司
/毎日コミュニケーションズ)にはこうあります。「米軍ではパナソニッ
クのToughBookというノートPCが広く使われているが、これは構造を頑
丈にして、振動や粉塵、湿気に耐えられるようにした特別製のノートPC
だ」「実際、アメリカの作家が書いたテクノ・スリラー小説を読むと、し
ばしば『パナソニックの軍用ラップトップ』というフレーズが出てくる」。
 また、日米「軍産政複合体」の関係者が集結して2005年11月に憲政記念
館で行なわれた「第6回 日米安保戦略会議」の際、同時開催された兵器見
本市に置かれていた米巨大軍需企業「ノースロップ・グラマン」のパンフ
レットにも、実戦使用を想定した地図をスクリーンに映し出した「タフブ
ック」の写真が載っています。
 
●松下電器の「ISM ものづくりスピリッツ発見マガジン」と題したサ
イトには、「タフブック」のこんな開発秘話=自慢話が掲載されています
(→http://panasonic.co.jp/ism/tough/02.html)。アメリカのパトカーの
ハイテク化につけ込み営業を成功させた逸話。「タフブックに、銃撃戦の
跳弾(他の場所に当たって跳ね返った弾丸)がヒットしたが、それでもち
ゃんと動作した!…嘘かホントか、こんな評判が広まりましてね」「その
評判のおかげで、警察だけに留まらず、FBIなど、国家機密レベルの情
報を扱う政府機関にも続々とタフブックの採用が決まっていきました」。
その延長で米軍にまで納入され、アフガニスタンやイラクの戦場で米兵必
携の「パソコン兵器」として"活躍"するに至ったのでしょう。
 
●「ideas for life」とは松下電機Panasonicのキャッチコピーですが、
これではまるで「ideas for killing」「ideas for death」の世界で
す。米軍による侵略と占領という巨大な戦争犯罪への不可欠のサポートを
提供する松下電器は、まぎれもない「戦争犯罪企業」です。松下電器は、
死亡事故を引き起こす石油暖房機の回収作業に勝るとも劣らないエネルギ
ーをかけて、戦場で使用され現在もなお虐殺に加担している自社製パソコ
ン兵器「タフブック」を回収すべきです。
 松下電器に対して「米軍に何台納入しているのか?」を問いかけ、「戦
争加担をやめてタフブックの回収を!」などの声を届けることを呼びかけ
たいと思います。マイケル・ムーアなら、今頃ビデオカメラを担いで松下
電器本社に押しかけ、例の突撃取材を敢行しているかもしれません。
                         (2006・4・22)
【要請先】松下電器産業
[タフブックへのご意見BOX]
 →https://sec.panasonic.co.jp/ism/goiken.html

[商品に関するお問い合わせ](TEL)0120-878-365(9時〜20時)
               (FAX)0120-878-236

【とりあえずの呼びかけ】
   杉原浩司 [連絡先](TEL・FAX)03-5711-6478
                     (E-mail)kojis at agate.plala.or.jp

※文中の「日米安保戦略会議」については、
「核とミサイル防衛にNO!キャンペーン」のサイトを参照
 →http://www.geocities.jp/nomd_campaign/

※「パソコン兵器」などを不可欠の要素とする米軍の戦争の現実について
 は『情報と戦争』(江畑謙介/NTT出版)が参考になります。

なんだこりゃ。


コンピュータはそもそも、暗号解読や弾道計算を目的として開発されたものじゃないか、という突っ込みはありふれているからアレだけれど、さらにいえば、ソフトウェアを用意するだけでさまざまな用途に対応できる「汎用性」がコンピュータの特徴。
だから、同じ Windows 2000 でも Word が動作すれば原稿書きの道具になるし、Excel が動作すれば経理やデータ分析の道具になるし、PowerPoint が動作すればプレゼンテーションや出撃前ブリーフィングの道具になるし、SMCS NG (Submarine Command System New Generation) が動作すれば英海軍原潜の戦闘指揮装置になる。

そういう、もともと汎用品で "dual-use" な性格を備えている製品に対して、こんな形でイチャモンをつけるのはトンチンカンもいいところ。百歩譲っても、問題なのは Toughbook じゃなくて、そこで動作するソフトウェアだろうに。
それに、軍で利用している PC は Toughbook に限っていない。防衛庁が DELL 製の PC を大量導入すると決めたニュースは記憶に新しいが、その DELL 製品は米軍でも大量に使われている。同業他社についても同様。

特に IT 分野についていえば、軍用品の COTS (Commercial-off-the-Shelf) 化はもはや日常の風景になっている。Windows も Linux も x86 プロセッサも PowerPC プロセッサもイーサネットも、みんな軍で使われている。

そんな状況を知ってか知らずか、わざわざ松下だけを引き合いに出して「みんなで抗議しよう」と煽るのは極めて愚かで、かつ無意味な行為ではないか。バッシングするならすべての関連企業を対象とするのが筋だし、そうでなければ松下だけをターゲットにすることの説明がつかない。
(Linux みたいなオープンソース製品では、誰に抗議すればいいんだろね ? 開発者全員 ?)

IT 分野でなくても、民生品が軍で活用されている事例なんて掃いて捨てるほどあるし、軍民両方で利用可能な "dual-use technology" に分類されるものは極めて多い。それをいちいち「○○兵器だからハンターイ」と叫んでいたら、世の中の大概のものは回収しなければならなくなる。

最近、話題になったところだと、ヤマハ発動機の無人ヘリ「RMAX」は、赤外線センサーを搭載して自衛隊のイラク派遣部隊が宿営地の周辺警備に利用している。杉原氏のいい方を借りれば、それこそ「無人ヘリ兵器」だが、これも回収を呼びかけなければいけないんじゃないの ? それとも、ヤマ発は中国にも無人ヘリを輸出したから許すとか ?

中東の方に行くと、日本製四輪駆動車のシャシーを利用して、その上に装甲車体を架装した軍用装甲車を作ってしまった事例がある。アフリカの紛争国家に行けば、民間向けのピックアップトラックに機関銃や RPG を載せて、「テクニカル」と称する武装車輌に仕立てた事例が知られている。これらも、メーカーに回収を呼びかけなければならないのでは ?

民生品を軍で利用するのが駄目だというのなら、軍楽隊で使っている楽器だって「軍が大衆を宣撫するための道具」ということでアウトになりそうだし、そうなると楽器メーカーに回収を求めなければならないのでは ? 楽器だけでなく、楽譜なんかも駄目っぽい。

私のお気に入りの一冊「戦闘糧食の三つ星を探せ !」には、シンガポール軍の糧食として「出前一丁」が使われている写真が掲載されている。これだって、民間向けに販売されているインスタントラーメンの軍事利用、つまりインスタントラーメン兵器だから、メーカーに回収を要求した方がいいのでは ?

鳩は「伝書鳩」として軍隊の通信手段に重用されていたし、犬だって警備犬、あるいは爆弾を背負った地雷犬 (ソ聯軍に実用例がある) として使われているのだから、これらも「鳩兵器」あるいは「犬兵器」ということになる。当然、杉原氏の論法によれば鳩と犬の回収を呼びかけなければなるまい。

太平洋戦争中、日本では「竹槍訓練」をやっていたけれども、そうなると竹だって兵器だ。ということは、「悲惨な戦争の悲劇を二度と繰り返さない」ためにも、竹の源である筍はすべて回収して、根絶やしにした方が良くないか ? そうしないと、またぞろ国民を挙げて竹槍訓練をする時代が来るかも知れないよ ? 松根油にする松の根っこ掘りを繰り返さないためには、松の木もすべて根絶やしにした方が良くないか ?

米空軍が Beale AFB で、U-2 偵察機のポゴ (主翼の補助輪) を回収するためにシボレー・カマロを使っている写真が「航空ファン」に掲載されたことがある。これも、軍用機 (それも、サヨクにとっては憎っくき U-2 スパイ機 !) のオペレーションを支援するための「自動車兵器」ということになってしまう。当然、General Motors 社に対してカマロの回収を求めなければなるまい。

海上自衛隊の護衛艦では、「公用車」として自転車を使っているが、これだって軍用製品というわけではなくて民間向け製品なのだから、平和団体の人がいうところの「殺人者集団」である自衛隊が民間向けの自転車を使っているのは許し難いのでは。となれば、メーカーに回収を呼びかけなくていいのだろうか ?

滑稽なのは、この呼びかけが選りに選ってインターネットを通じてなされているところ。民生品の軍事応用が駄目だというぐらいだから、軍事からスピンアウトした民生品なんて、もっと許されないだろうと思うのだが。しかし、そもそもインターネットは米軍の研究機関・DARPA が核戦争でも壊滅しない分散ネットワークを研究したところから派生したものだよ ?
件の杉原氏が 引き合いに出している拙著「戦うコンピュータ」にも、そこのところの話はちゃんと書いてある。杉原氏は、そういう話は無視して、自分の主張に都合のいいところだけ拙著をつまみ食いしたのだろうか。お買いあげいただいたのならまだしも、これで立ち読みだったら許さないよ ? (まてこら)

ついでに書けば、カーナビの測位用に使われている GPS は米軍の航法衛星。当然、そんな「兵器」に依存するのはあってはならないことだろうから、杉原氏みたいな人はクルマにカーナビを積んだりしないのだろう。トマホークや JDAM の誘導に使用するのと同じ衛星に自分が導いてもらうなんて、ガマンできようはずもない。せいぜい、Galileo か GLONASS に対応したカーナビが出現するのを待って… おっと、これらも軍用の機能があるじゃないか。
もっとも、それをいいだすと「地図」だって兵器みたいなもんだが。

また、軍隊に由来するアイテムも身近なところにあふれている。たとえば、ちょうど今頃の季節だとトレンチのスプリングコートを着ている女の子がたくさんいるけれども、トレンチコートのトレンチとは塹壕のことであって、あのデザインは戦場で兵士が身につけるものとしての機能性を追求した結果として得られたもの。
そんな服が市中にあふれていたら、杉原氏みたいな人は「軍隊のアイテムを日常的なものにして感覚を麻痺させる陰謀だ。軍靴の響きが (ry」とアピールしなくていいんだろうか ? 当然、セーラー服も学生服も駄目ではないのか ?

となると、「セーラー服を着た〜い」といって制服で高校を選んだ (?) 私の妹みたいなのは、「軍靴の響き」に毒されてたってこと ?

食い物にしても、肉じゃがが帝国海軍に由来するという話は有名だし、横須賀では「海軍カレー」で町おこしを図っている。他にも軍隊由来の食い物はいろいろある。これらも「軍靴の響きが (ry」と抗議すべき筋合いのものなのでは ?


実のところ、我々の生活には軍事からスピンアウトした製品がたくさん入り込んでいるし、それによって得られたメリットを日常的に享受している現実がある。分かりやすい事例としては、電子レンジ、缶詰、瓶詰、コンピュータ、インターネット、スペクトラム拡散通信 (携帯電話や無線 LAN でおなじみ)、暗号技術など、挙げ始めたらキリがない。

つまり、そもそもの呼びかけの内容が滑稽なら、その呼びかけに米軍由来のインターネットをちゃっかり活用しているダブルスタンダードぶりも滑稽ということ。民生品の軍事利用には反対、でも軍事技術からスピンアウトした製品の恩恵はしっかりいただく。なんか調子よくないか。(原発に反対するから「原子力で作られた電気は使いません」と主張する方が、まだしも筋が通る。物理的には実現不可能な相談であっても)

そのことの良し悪しはともかく、戦争によってテクノロジーが猛烈な勢いで発達したことも、我々の便利な日常生活がその恩恵を直接・間接に受けていることも、どちらも紛れもない事実。そういう現実には意図的に目をつぶっておいて、Panasonic Toughbook のように「たまたま目についた事例」についてだけ抗議を呼びかけるなんて、おめでたすぎないだろうか。

こんなことをやっていても当事者のオナニーになるだけで、世界平和のためには有害無益ではないか。内容は何でもいいから反対行動・抗議行動をすることに意味がある、ということなのだろうか。それって「運動の自己目的化」っていわないか ?


別件のトンチンカン事例で、ディック・チェイニー米副大統領が勤めていたハリバートン社と、私も使っているアルミ製アタッシェケースで有名なゼロハリバートンを混同して「ネオコンは怪しからんからゼロハリは使わない」とかなんとか書いているのを、どこかで見た記憶がある。
たまたま名前が同じだからって、石油関連土建屋さんのハリバートン社アタッシェケースのゼロ社を混同されたのでは、どちらも迷惑する。呆れてモノがいえない。

(以下 2006/8/22 に追記)
読者の方から御注進をいただいたのだが、石油屋さんの方を創設した Earle P. Halliburton 氏が、仕事で駆け回る日々のために作らせたのがゼロハリのアルミアタッシェという関係になる。ルーツの人物が同じとはいえ、それぞれがまったく別個の企業体であることに変わりはないのだから、制裁しているつもりで制裁になっていない。こういうのを自己満足という。
もっとも、「○○に抗議しましょう」とアジテーションするだけの、ファシリテーターならぬアジリテーターな人にとっては、具体的な成果なんか関係なくて、抗議運動をやっていること自体が重要なのかも知れないけれど。

関連リンク :
軍用と民生用はボーダーレスだから… (本稿の続編)
軍事板常見問題・総記・Joke(mixi で、「それをいうなら○○だって兵器じゃないか」というネタを募集したら、大量に集まってしまったのでありました。かなり本稿と重複してますが、御笑覧ください)

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