Opinion : DMV の有用性について、つらつらと (2007/5/28)
 

先週、辺野古の件でプッツンして別記事と差し替えたせいで、ボツになった記事の仕切り直し。

何年も前から存在していたけれど、ここのところ、急にあちこちで露出が多くなったような印象があるのが、DMV (Dual Mode Vehicle)。
いうまでもなく、JR 北海道が開発した鉄道・道路共用車輌のことで、「線路でも道路でも走れる」「価格が安い」「点検整備のコストも安い」「燃費もいい」ということで、ローカル線存続の切り札として脚光を浴びている。ということらしい。

うーん。ローカル線存続の切り札。うーん。


そもそも、「線路と道路のどちらでも走れる車輌」のメリットって、なんだろう。というところから考えてみた。

鉄道は、線路のあるところしか走れない (あたりまえだ)。だから、新たな需要地に版図を広げようとすると、免許を取って、敷地を確保して、線路を敷かないといけない。おカネも時間もかかる。DMV なら既存の道路を使えるから、そういう問題はない。だから、DMV が DMV としてメリットを発揮できるのは、以下のようなケースなんだろうな、と考えた。

  • 人の流動と線路の流れが合っていないところで、流れに合わせて道路を走れるようにして、ギャップフィラーとする
  • 行き止まりのローカル線でありがちな、「途中まではそこそこの需要があるが、末端部はガクンと需要が落ちる」パターン。途中から線路をまくっても、DMV なら直通運転を維持できる
  • 線路が街外れを走っていて需要を喚起できない場面。連結運転して、途中で 1 両ずつ切り落として沿線の街中まで入れる等の使い方が考えられる

念のために調べてみたら、JR 北海道が開発した DMV は連結運転ができるそうで、さらに総括制御可能なモデルを開発しているとのこと。これなら、輸送力の小ささ (波動に対応しにくい) は補えそう。もしも単行運転しかできないとなると、かつてのレールバスと同じ轍を踏む可能性がある。

問題は、すでに DMV の導入を考えているところが、こうした「DMV ならではのメリット」を享受できる状況なのかどうか、というところ。単に「低コスト車輌が欲しい」というだけなら、わざわざ複雑な構造を持つ DMV にする必然性は薄いんじゃないかと思うのだけれど。


ローカル線が線路をまくらずに済むためには、収入を増やすか、支出を減らすか、あるいはその両方をやるか。低コスト車輌の導入は、基本的には支出を減らすための策ということになる。

それだけなら先例があって、富士重工の LE-Car や新潟鉄工の NDC みたいな低コスト型気動車がある。当初はバスの車体設計を流用した、いかにもバス然とした外見だったものの、後に「部品をバスと共用化する鉄道車輌」に変貌していったのは御存知の通り。そして、2 軸車だと乗り心地がよろしくないとか、通常の鉄道車輌よりも傷みが早いとかいう事情があったのも、また御存知の通り。

だから、単に「安い鉄道車輌」ということで DMV に飛びつくと、同じ歴史を繰り返すことはないかというのが、気になるところ。輸送需要に見合った範囲で小型・軽量化して、イニシャルコストやランニングコストを下げることに異存はないけれども、コストの下げ方次第では、却って「安物買いのなんとやら」になりゃあせんかと。

では、DMV にこだわらずに、小型・軽量で安い車輌を実現する手はあるのかどうか。

電化区間なら、富山港線が富山ライトレールに化けた事例がある。もっともこれは、県庁所在地というそれなりの規模を持つ都市で、ある程度の資本投下をしても回収できるとみられたからこそ、成立した話ともいえるかも。それと、通常の電車と比べてコスト的にどうかという点については、手元にデータがないので判断できない。小さいから安いってもんでもないし。

非電化区間の場合、かつては札幌に路面ディーゼル動車なるものがあったけれども、この種の車輌は絶えて久しい。特に路面電車だと低床化の要求が強いので、同じことをディーゼルカーで実現するのは難しそうにも思える。それに、今から新規開発するとなると相当にコストがかかるから、ペイするかどうか。

となると、新規開発は諦めて既存の車体やコンポーネントを使える DMV の方がお得。いや、それなら鉄道線専用にする場合に DMV は無駄なので、バスの車体を流用してレールバスを… あれ ? (以下無限ループ)


そんなわけで、DMV ならではの使い方で威力を発揮できそうなところはともかく、単に「画期的だから」とか「安く済みそうだから」というだけで「ローカル線活性化の切り札」として飛びつくのは、ちと安直に過ぎないかなあと思った。多分、そうやって性急に飛びつくと失敗する。

つまり、「レールと道路を直通できることが画期的なメリットをもたらす場面」と、「現在以上に低コストな車輌が必要な場面」に分けることが必要。さらに、たとえば後者の場合、車輌を安くするだけでなく、車輌を別の組織がまとめて保有してローカル線を運営する 3 セクにリースするとかなんとか、仕組みの面で工夫して経済的負担を下げる手も考えてみていいんじゃないかと。

現実問題として、「ディーゼルカーだと乗らないけれど、DMV なら画期的だから乗る」なんて乗客が、(鉄ヲタは別として) どれだけいると思う ?

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