Opinion : 観客輸送って難しい… (2007/10/1)
 

29 日、自分は夕方から夜にかけて調布の花火大会に行っていたのだが、その一方で富士スピードウェイがすごいことになっていたらしい。道路陥没事故が発生したところまでは聞いていたけれど (ここは本当に日本か ?)、そのせいでシャトルバス輸送が混乱、バスに乗れない人の大行列ができて大変だったとのこと。決勝当日も「○時間」単位の待ちが出たらしい。やれやれ。

とはいえ、普通にマイカーでの入場を許可していたら、それはそれで大変だったはず。29 日の予選で 9 万人、フルに収容すると 14 万人入るそうだけれど、富士スピードウェイは駅から遠いから、必然的バスかマイカー、おそらくはマイカー主体となる。何万台分も駐車場を確保するのは大変だし、したらしたで、とてつもない渋滞が発生するのは明らか。

それに、渋滞で観客が大変な目に遭うだけでなく、地元住民の交通にも影響が出てしまう。結果として地元自治体からそっぽを向かれて、F1 の開催そのものができなくなるかもしれない。調布の花火大会でも、調布だけでなく対岸の稲城側まで、規制がかかって車が入れなくなる道路があった。地元民にしてみたら不便だ。

そう考えると、駅、あるいは離れた場所に確保した駐車場からシャトルバスで運ぶ方式を取り入れたのは、妥当な判断。ただ、陥没事故の話を抜きにしても、バス輸送を支える周辺や、それを運用するソフトウェア的な部分が追いついていたのかなあ、という疑問は残った。


スキーシーズン初めに Yeti に通うとか、ドライブコースとして手頃とかいう理由で、御殿場・富士・河口湖界隈はしばしば走っている。その経験からすると、この一帯、決して道路事情はよくない。R246 と御殿場 IC 第二出入口近辺、東富士五湖道路は別格としても、それ以外は片側 1 車線の生活道路で、路肩や歩道も決してゆとりはないところが多い。

しかも道路網のつくりがややこしい。そのうえ、幅員に余裕がなかったり、カーブが結構きつかったり、メインのルートが一直線ではなくて信号を曲がる方向にあったりして、決して条件がいい部類とはいえない。そこにトラフィックが集中したらエラいことになりそう。

そこで、簡単な計算をしてみた。
富士スピードウェイを満タンにすると 14 万人、バス以外の交通手段はシャットアウトだから、これがみんなバスで出入りすると考えられる。1 台に 50 人乗せたとして、必要なバスの所要台数は 2,800 台。実際にはピストン輸送するからもっと少なくできるにしても、とりあえず延べ台数 2,800 台は確定。これだけのバスが、スムーズにスピードウェイを出入りして観客をさばくだけでも大変そう。

しかも、外に出たら出たで、また大変。
2,800 台全部を縦にずらっと並べると、車間距離も考慮すると 70km ぐらいの長さになりそう。70km といったら東京から御殿場ぐらいまで来てしまう距離で、それだけのトラフィックが割り込んだら、それだけでも結構な規模。しかも地元住民のトラフィックは平常と同様に存在するし、ゴルフ場がいくつもあるからゴルフしに来る人もいるだろうし、中には R138 沿いのラブ (以下自主規制)

しかも、「いったいどこに駐車場を確保するんだろう ?」と好奇心半分で調べてみたら、中には富士山スカイラインの途中、太郎坊や滝ヶ原あたりに駐車場を設置したケースもあったらしい。Yeti に行くときに富士山スカイラインを通るから知っているけれど、勾配もカーブもかなりきつくて、トラックなんかいると後ろに行列ができる。そこをバスがゾロゾロ走るのは大変だ。ノロノロ運転になれば時間もかかる。

鉄道は鉄道で、御殿場駅前はそんなに広々していないし、他の御殿場線の駅も同様。新幹線につながる三島・新富士はともかく、それ以外の駅からアクセスした人は、駅でバスに乗るまでが大変だったのでは。しかも御殿場線の輸送力は大したことがないときている。鈴鹿の場合には近鉄名古屋線がメインラインだから、そういう意味ではずっといい。伊勢鉄道もあるし。

自分が土曜日に出掛けた調布の花火大会は、前年実績で 35 万人を集めたそうで、この数だけなら今回の F1 の 2 倍以上。でも、目の前を京王線が走っているし、さらに対岸の稲城側から眺めた人は南武線も使えるのだから、輸送力は比較にならない。


と、突っ込み始めるとキリはないのだけれど、だからといって、富士スピードウェイまで線路を敷いて電車を走らせるのは無理。毎日のように需要がある訳じゃないから引き合わない。御殿場線の輸送力を増やそうとしても大変だし、両端が国府津と沼津では、首都圏・静岡県東部以外からの観客はその先でつっかえてしまう。

となると、鉄道だけに頼るのは無理で、マイカーも認める代わりにシャトルバスで運ぶ方式は、必然だったと思う。でも、現行のままではまだ問題が残る、ということになりそう。

運営側の不手際や、行列している観客への対応ぶりについては、自分は現場にいたわけじゃないから、伝聞情報だけで言及すべきじゃないと思う。とはいえ、14 万人を収容できる施設を作るなら、14 万人を滞りなく運べる仕掛けも必要になるのは確か。人数だけなら愛知万博と同規模だったそうだけれど、道路もさることながら、公共交通機関のインフラが桁違いに乏しい。だから、「愛知万博でできたから、富士でもできるだろ」とはならないはずで。

もっとも現実的な対策は、現行の態勢をベースにして場内・場外の道路網やトラフィック管理を改善することと、もうちょっとマシな場所に駐車場を確保することなんじゃなかろうか。たとえば、R246 と R138 方面へのアクセス道路を拡幅・曲線改良するぐらいなら、鉄道を設置するより実現性が高いと思うけれど、どうだろう。
でも、あまり駐車場をスピードウェイに近付けると、御殿場市内にトラフィックを持ち込むことになるからまずいか…

ただし実際には、スピードウェイの近くまではスムーズに走っていて、場内で混乱したという話も。となると、道路陥没の話以外に、延べ 2,800 台のバスの出入りと観客の乗降、バスの駐車といった一連の流れを、スムーズにさばける態勢や動線の設計ができていなかったってこと ? 場内の改良だけで改善できるなら、スピードウェイの裁量で処理できるだろうから、それこそ、とっとと手をつけないと厄介なことになるんじゃなかろうか。

あと、当初から徒歩での出入りを認めていたらよかったのに、と思ってしまった。GALA 湯沢缶詰事件じゃないんだから、歩いて出られるルート自体はあるのだし。御殿場駅まで歩いたら 2 時間でも無理そうだけれど、駿河小山ならもうちょっと近いし、R138 方面に出られれば非常手段としてラブ (以下自主規制)


魅力的なレースを見せることも大事だけれど、家に帰るまでが F1 観戦なのだから、観客をスムーズにさばくことも極めて重要。それがちゃんとできないせいでファン離れの原因になった日には、シャレにならないのだから。

だいたい、レースを見に行ったのにバス輸送の混乱が原因で決勝スタートに間に合わなかった、なんて悲惨すぎる。

ただ、今回の騒動について文句が出るのは当然だけれど、問題点の切り分けは必要だと思う。つまり、「バス輸送にしたら不可避な問題」「今回のトラブルに固有の問題」に切り分けた上で、それぞれ、どういう対策が必要かを検討する。そして、もっとも現実的な対策をとって来年に備える。現実的にはそれしかないんじゃないかと。

最後に、某 blog のコメント欄に書いた冗談を。

「やはり FISCO はやめてお台場でうわなに(ry」

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