Opinion : 中露のちょっとしたイザコザから思ったこと (2007/12/03)
 

少し前の Jane's Defence Weekly 誌 (2007/11/7) に、"Sino-Russian union falters" という記事が載っていた。以前はロシアの兵器産業にとって上得意様だった中国だが、どうも最近、以前とは様子が違うみたいだぞ、という趣旨の記事。実際、最近のロシアのお得意さんはベネズエラとかアルジェリアとかインドとかいったあたりで、中国がトップというわけではない。

で、その記事で問題になっていたのが、KnAPPO (Komsomolsk-na-Amure) の中の人がぼやいている、Su-27SK がらみの話。記事にあった内容を基にして要約してみると。


天安門事件をきっかけとして西側からの制裁措置を食らった中国が、1990 年代に兵器供給元をロシアに求めて、資金力にモノをいわせていろいろ買いまくったのは、よく知られている話。Su-27SK や Su-30MKK もそのひとつ。このおかげで、ソ聯崩壊後に苦労していたロシアの兵器産業はだいぶ救われたのだけれど、最近になって中国は兵器の国産化を推進しているため、以前のような上客になってもらえなくなった。

身も蓋もない書き方をすれば、ロシア製兵器を輸入、あるいはライセンス生産して、さらにロシア人技術者を招聘して、産業界や軍に対するトレーニングを実施したおかげで、中国は自らの技術水準をアップ。それをテコにして国産化に乗り出したせいで、ロシアにとっては「軒先を貸したら母屋を取られた」とでもいうべき状況になりかねないということ。

中国は 1996 年に Su-27SK×200 機を J-11 という名称でライセンス生産する契約を結んだのに、途中で「この機体は、我が国の要求を満たせていない」といって生産中止。その理由というのがふるっていて、「Su-27SK は空対空戦闘しかできない。我々は対地・対艦攻撃能力も備えたフルレンジの機体が必要だ」ということ。
(そんなもん、最初から分かっておろうに by KojiI)

それでは、マルチロール型の Su-30MKK をライセンス生産する方針に切り替えるとか、Su-33、あるいは Su-35 を直接購入するかというとそうでもなくて、協議はしたものの、実現には至っていない状況。そうこうしているうちに、国産の艦上戦闘機を作りたいといいだしてみたり、J-11 を独自にマルチロール化した J-11B/BS の開発に乗り出してみたり。

そんな状況なので、この便宜主義的で道義に反した振る舞いに対してロシア側はカンカン。「実は、最初から機体を購入するつもりはなくて、情報収集に努めていただけじゃないか ?」と疑っている由。また、「こうした中国側の振る舞いは、当初のライセンス生産合意に違反しているんじゃないか ?」とも考えている。

さらに、「中国では、ロシア側の承認を得ていない独自改修による機体を作ろうとしている。もしもこの機体が大問題を起こした日には、中国製の機材と製造手法で作った機体であっても、Su-27 が欠陥機なんじゃないかという目で見られる。」と懸念し始めた。


と、こんな内容の記事だった。なんか、どこかで聞いた話だよなあと思ったら、自分も 4 年ちょっと前に、ほとんど同趣旨のことを書いていた。ただし、ネタは新幹線だったけれど。(Opinion : 新幹線の対中輸出は不要 (2003/8/4))

そもそも、中国では過去に T-54 戦車や MiG-21 戦闘機あたりを筆頭にして、輸入、あるいはライセンス生産したものを独自に手直しして、しまいには「自前の製品」として売り出した事例は幾つもあった。だから、いまさら何をいってんの、というのが偽らざる感想だった。

もっとも、「目先の利益に目が眩んで、長期的な利益を台無しに云々」というありがちな批判になりやすいけれども、それは所詮後知恵。企業でも国家でも、目先の利益を蔑ろにしたら、長期的利益もヘッタクレもないだろ、というのもまた事実。

たとえば、KnAPPO が「中国は将来、うちの戦闘機をパクって独自改良して売り出すんじゃないか」といって Su-27SK の輸出にノーといっていたら、それが原因で KnAPPO の経営が傾いていたかも知れない。そう考えると、今でこそ「中国も便宜主義」にブーブーいっていても、過去の決定を単純に責められるものかどうか。


中国がロシア製兵器を買い漁っていたときには、中国とロシアはもうラブラブで、日本、アメリカ、あるいは NATO などに対する強力な対立軸になるんじゃないか、と思われたもの。実際、今も両国は旧 CIS 諸国を交えて SCO (上海協力機構) を構成している仲だし、イランの核問題なんかでも、アメリカの方針に対立する立場をとっている。

ただ、よくよく考えてみると、冷戦末期にはアメリカと中国がつるんでソ聯と対立していたわけで、時代が変われば状況がこれだけ変わるんだなあ、と再認識。かように国と国との同盟関係・友好関係というのは移ろいやすいもの。

誰だったか、「条約というのはバラの花みたいなもの。美しい間は美しい」なんてことをいった人がいたそうだけれど、今後の状況次第では、(両国間で対立が尖鋭化する事態は、さしあたっては考えにくいにしても) 中露間に微妙な隙間風が吹くやも知れない 。また、中露分断工作をやるべし、という主張も存在する。

そんな移ろいやすい状況の中で動いているのが、政治的・軍事的・経済的なファクターが入り乱れた兵器輸出というビジネス。今日の味方が未来の敵、なんて事例は過去にさんざんある。だから、相手によっては意図的に売らなかったり、ダウングレードしたものを売ったりするのは御存知の通り。どの程度のスペックのものを売るかで、売り手が相手国をどう見ているかを推し量れるのも事実。

だから、買い手が一方的に「仮想敵国への対抗上必要」と主張して、それが単純に通用するハズがない。買い手の政治・経済状況、使えるリソース、産業基盤。売り手との関係、売り手側の政治・経済状況やその他の思惑、その他いろいろなファクターが絡んで、妥協の産物みたいな落としどころが決まると初めて、商談成立ということになる。

F-22A の対日輸出にしても、技術的な問題がどうとかいう話以前に、法律で輸出を禁じてしまっている時点でもう政治マターになっているのは否めない事実。しかも、もしも日本側でライセンス生産させろ、なんて話になったら、先の KnAPPO の話がそっくりそのまま、Lockheed Martin や Pratt & Whitney、Northrop Grumman といったメンツに置き換わって、「将来のライバルを育成するのではないかという懸念」になりかねない。

だったら、そうした懸念をどうやって抑えて納得させるか。そして、キャピタル・ヒルの連中に「F-22A の対日輸出を認めた方が、(軍事的な面以外も含めて) アメリカにとってもお得ですよ」と認めさせるにはどうすればいいか。なんて方向から物事を考えてみる必要もあるんじゃなかろうか。

国家同士の同盟関係が往々にして移ろいやすいものだからこそ、「堅固で頼りになるパートナーとしての日本」「その日本に F-22A を輸出することによってアメリカが得られるメリット」を強く売り込んで納得させないと、おそらくキャピタル・ヒルは動かない。単に「中国の Su-30 や韓国の F-15K に張り合うには云々」といって他の候補機を貶すだけの議論では、政治マターを動かすにはパワー不足じゃないのかなあ、なんてことを考えてみた。

Contents
HOME
Works
Diary
Defence News
Opinion
About

| 記事一覧に戻る | HOME に戻る |