Opinion : いちいち一喜一憂しない (2010/7/26)
 

先週、イギリスの Farnborough で航空ショーがあった。ただし、「航空ショー」というと純然たるエンターテインメントという雰囲気が漂うものの、実際にはトレードショー、つまり商談の場。

だから、メーカー各社が実機を初めとする製品を持ち込んで展示するのも、各社のトップを初めとする担当者が乗り込んできて記者発表会・記者説明会の嵐になるのも、これみんな商売のため。もちろん、その席で発表する「データ」とか「調査結果」とかいうものも、商売のために援用するのが狙いと考えるのが筋。


分かりやすいところだと、Airbus の「ハブ & スポーク路線」と Boeing の「直行便路線」の対立。最終的には、利用者がどちらを選ぶか (正確には、どちらの方法をとるエアラインを選ぶか) という話だけれども、機材を売る側としては商売の相手がエアラインである以上、そのエアライン向けに、自社に有利なデータを並べて宣伝する。当たり前のことで、それができなければ航空機メーカーのトップや広報・マーケティング担当は失格というもの。

戦闘機の商談だって同じこと。Lockheed Martin が「第 5 世代戦闘機」という言葉を商標登録してまで「世代」の違いをアピールするのは、そうすることで自社製品の先進性をアピールしたいから。対して Eurofighter が「世代の数字なんて関係ねぇ」と反論するのは、そうしたアピールに対抗して自社製品を売り込むため。

もちろん、「シミュレーション試験でどっちが勝った」とかいう類のデータにしても、販促のためのデータなのだから、自社に不利なものが馬鹿正直に出てくるとは考えにくい。そのことを非難してみても始まらない。自社製品を少しでも多く売るのが仕事なのだから、そのために有利なデータを持ち出してくるのは当然の行動。

そういう意味では、「Typhoon は制空に強い、F-35 は対地攻撃に強いマルチロール機。だから両方あるのがいい」という主張も、裏読みすると面白い。
特に BAE Systems にとっては、F-35 も Typhoon も "メシのタネ" であって、どちらか一方だけを持ち上げて他方を貶すわけにはいかない。その辺の事情まで承知した上で、表向きの発言を読まないと。というか、そうやって裏読みするのが面白い。

この手の話に限らずどこの業界でも、一見したところでは第三者的にトレンドを語っているようでいて、実は我田引水、という話はよくある。たとえば IT 業界各社のトップ発言なんていうのは、そんなのだらけだ。

でも、それをなすべき立場にある者の発言なのだから、そこで「客観的な発言でなければ駄目」と物言いをつけるのは筋違い。最初から第三者的立場にある者の発言ならともかく、直接的な当事者の発言に客観性を求めすぎるのは、いかがなものかと。

そして、その手の話をいちいち拾い上げて一喜一憂しても仕方ないので、無視はしないけれども、ある程度は割り引いて受け取る、というぐらいが無難ではないかと思う。ひとつの発言、ひとつの記者発表だけを眺めていると閾値は分かりにくいけれども、さまざまな発言や記者発表に関するデータを積み重ねていくと、「ああ、ここから先は販促のための我田引水っぽいな」という閾値が見えてくる (こともある)。

政治家の発言や外交における各国間の駆け引きもしかり。この手の話はそもそも、直接的な影響だけではなくて、言外のメッセージを送るとかいう用途が含まれる場合が多いもの。だから、字面だけ、表向きの行動だけを真に受けていても、ただの早とちりになりはしないかと。

たとえば、天安撃沈事件で中国、あるいはロシアが米韓に同調するのを渋っていたけれども、公表された報告書の内容に疑義があるから同調を渋っていた、と考えるのは、あまりにも単純すぎる。

あの辺の挙動を裏読みすれば、「アメリカに同調するのは主体性がないと思われそうだし、お仲間の諸国に対する自国の威信、アピール効果を損ねてしまうと考えた」とか「北朝鮮に影響力を行使しうる立場を維持するには、北朝鮮を完全に敵に回してしまってはまずくて、味方であるという空気を残しておかないといけない」とかいう具合に、いろいろな可能性が考えられる。

そもそも外交の世界では、表に出てこない情報や駆け引きが、それこそ「わんさ」とあるはずで、表に出てくる話だけで一喜一憂するのはどうかと。特に F-X の件に絡んで、何かある度にいちいち反応して、それで疲れてしまっている人が少なくないように見受けられるのだけれど。


そんなこんなで。どこの分野であれ、ひとつの発言、ひとつの発表だけで一喜一憂して、喜んだり落ち込んだり盛り上がったり盛り下がったりしても、自分の気分がジェットコースターみたいになってくたびれるだけ。いくらかロングスパンで眺める方が良いのではないかな、なんてことを考えた次第。

つまり、何かネタが出てきても「とりあえず置いておく」「とりあえず寝かせておく」としておいて、その手のデータをいろいろと蓄積してからおもむろに反応した方がいいのでは、ということ。現実問題として、そういう類の話は多いと思うのだけれど、いかがだろう ?

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