Opinion : 最初に見るべきは手持ちのカード (2010/8/23)
 

米海兵隊で、イラク・アフガニスタン後を睨んで、将来の任務や組織構成などに関する検討作業を始めるという話。

最近、米海兵隊は「最近、海兵隊はイラクやアフガニスタンで陸戦ばかりやっていて、ほとんど陸軍と変わらないじゃないか」「そんな調子だったら、コスト上昇とスケジュール遅延に見舞われている EFV なんて要らないのでは」などといわれてしまっている。そうした事情もあり、改めて「海兵隊の存在意義」「海兵隊にできること」を見直そうという話になった模様。

こういう話になると、すぐに脊髄反射して「在沖海兵隊を国外に追放すべき理由」にこじつけようとする人が出てくるのはお約束だけれども、これから検討を始めようという段階なのだから、現時点であれこれいうのは時期尚早。もちろん、米海兵隊の任務領域をどうするかは戦力構成や組織にストレートに影響するから、在沖海兵隊にも何らかの影響が出る可能性はあるにしても。


だからといって、いまさら海兵隊を「艦隊の警備部隊」「接舷斬り込み隊」に引き戻すわけにもいかないし、そもそも非現実的。いまどき、接舷斬り込みが必要な場面なんていったら、ソマリア近海の海賊退治ぐらいではなかろうか。それだって、まさか刀を持って乗り込んでいくわけでもない。

現状の米海兵隊が持つ人材・能力・資産に照らして考えると、「揚陸艦という移動展開能力がある」「歩兵部隊だけでなく、砲兵・戦車・固定翼機 (しかも STOVL 可能な機体まである)・回転翼機と、ひととおりの資産を内輪で揃えている」「ただし、それぞれの規模は小さい」という話になると思われる。

こういった特徴から導き出される結論は、月並みながら「小規模紛争や不正規戦などに際して、迅速に出動して大火になるのを防ぐことができる "火消し部隊" という話になるのでは。ただし、所帯が小さいから大規模な作戦行動は不得意そうだし、長期的・持続的な任務になると、とりあえず火消しをやったところで、後続の誰かさんに任務を引き継ぐ前提が必要だろうけれど。

もちろん、陸海空軍から必要な資産を "チョップ" させて統合任務部隊を編成・派遣する方法でも同じことができるハズ。ところが、米海兵隊のようにすべて内輪で揃えている方が、いざというときに迅速に動ける。海兵隊とか海軍歩兵とかいった部隊を持っている国はいくつもあるものの、「ミニ統合軍」といえるだけの内容を揃えているところは極めて少ない。

でもって、その "火消し" をやるための手段のひとつが水陸両用戦、という話になるのではないかと。あまり「水陸両用戦が〜」という話にこだわると、却って海兵隊にとって面白くないことになるかも知れない。

つまり、「水陸両用戦をやるために海兵隊が要る」というよりも、「火消し部隊としての海兵隊がいる」→「地球の人口の多くが海から近いところに住んでいる」→「そのことからすると、海から戦力を投入する場面が多くなる」→「結果として水陸両用戦能力が必要」という話になるのではないかなあと。

この認識が正しいかどうか、当事者の認識と一致するかどうかは分からないけれども、何がいいたかったのかといえば、「置かれている状況や、手持ちの能力・資産に照らして、何が得意なのか、何ができるのか」という考え方の話。


企業でもその他の組織でも、個人商店でもフリーランスでも、「置かれている状況」や「手持ちの資産」に照らして「何ができるか」「何なら優位性を発揮できるか」「それに際して不足している部分があるとしたら何か」といったところを考えるのが筋。というか、これって当たり前の話のような。

もちろん、最初に立派なコンセプトを掲げること、立派な理想を掲げることも結構だけれど、それが現状に照らして実現不可能であれば、単なる画餅。まず、現時点でできるところから一歩ずつ始めて、状況をいい方向に動かしたり、欠けている資産を手に入れたり、といった漸進的アプローチをとるしかないんじゃないかと。

たとえば、仕事でも趣味でも何でもいいけれど、何かの分野で「俺はすごいんだ」と考えるのは個人の勝手。でも、いきなりそれを吹聴してまわったところで、おそらくは相手にしてもらえない。そもそも、何の実績もない人から、いきなり "trust me" とかなんとかいわれて、信頼する気になれる ? (←しつこい)

そこで、怨み節を連ねて不平タラタラになってしまったり、社会や他人に責任を押しつけてみたり、実現不可能な話なのに「○○じゃないとダメだダメだダメだ」と駄々をこねてみたりしても、問題の解決にならない。一言でいって「状況が見えてない」。

誰だって最初は無名の駆け出し。手持ちの能力・資産などといったカードをきちんと見極めた上で、地味なところから実績を作って能力・実力を認めてもらうことが、結果として「状況をいい方向に動かす」ことにつながるのでは。そんなこともできないで、ただキャンキャン吠えていてもダメでしょ。

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