Opinion : 仕事に関心を持ってもらう、って ? (2010/10/18)
 

自分の仕事に愛着や熱意を持っている人なら、多くの人に自分の仕事に対して関心を持って欲しい、多くの人に後に続いて欲しい、と思うのは当然のことかもしれない。もっとも、業種・業界によっても状況は異なるだろうし、ときには「ライバルが増えてはかなわん」と思う場合もありそうだけれど。

ただ、だからといって「自分の仕事に関心を持ってもらいたかったから」と言い訳すれば、何をやっても許されるというわけではないはず。それが国会での写真撮影でも、無資格の素人に旅客機の管制交信をやらせるのでも。

国会の件についていえば、写真撮影の場所に使ったことよりも、許可を求めたときの申請内容・申請理由が果たして実態に即していたのか ? ということの方が問題だと思う。本当のことを書いたら却下されそうだから、通りそうな理由をでっち上げて… ということであれば、それは糾弾されて然るべき。

ただ、国会の件は当人が評判を下げて、ついでに選挙で落選すれば済む話。それと比べると、管制官の一件の方がタチが悪いと思う。いくら横で本職が見ている状態だといっても、数百人の人命と高価な航空機、さらにそれらの航空機が飛んでいる航路の下の住民を危険にさらしたわけだから。

mixi ニュースの日記一覧を見ていたら、この件で管制官側を弁護する意見が驚くほどたくさん出てきていて、正直いって呆れた。自分が乗っている飛行機が「実は中学生見学者の代行管制で誘導されてました」という身になってから考えろと。そう考えれば、お気楽に弁護なんてできない。


とはいうものの、後に続く人材を集めて仕事を維持して行くには、何らかの形で関心を集めることは必要。ただし、それが果たして表に見える派手な部分・華やかな部分を見せることで実現できるものなのかなあ、と疑問に思った。

どんな業界でも職業でも、特に華やいで見える場合ほど、その裏には多大な苦労や努力があり、多数の裏方さんがいるもの。ということを改めて、先日の TV 出演の際にちょっとだけ実感したような気がする。

格好良く見える稼業というと、戦闘機パイロットなんかは典型例だろうけれど、あれほど「なるのが大変」「維持し続けるのが大変」な商売も珍しい。やっとウィングマークを手に入れて戦闘飛行隊に配属されても、さらに上を目指して努力を続けなければならないし、機種が変われば操作手順は再学習。

そして、身体を G で痛めつけながら日々の訓練に励んでいる。しかも、自分の技量を高めることが国の護りに直結する。もしも自分がへっぽこパイロットになってしまったら、多数の国民の生命が危険にさらされかねない。こんなに盛大なプレッシャーに直面し続ける仕事は、多くなさそう。

その戦闘機を飛ばすためには、舞台裏でそれを支える多数の職種、多数の人手が必要。米空軍戦闘航空団の人員構成を見てみればいい。2 個飛行隊・48 機の戦闘機に、もう何割か多いぐらいのパイロットが配属されていて、それらが任務を果たすための人員の合計が 3,000 名以上。それだけ必要欠くべからざる裏方が多いということ。

内容に違いはあれ、エアラインのパイロットだって同じこと。現役で居続ける限り、勉強、訓練、また勉強。そして、それを支えるたくさんの裏方さんがいて、その中にはもちろん管制官も含む。その管制官だって一種の職人的な世界であって、技量を高め続けることが求められそう。

おっと、話が脱線しそうなので元に戻すと。
そういう、表の華やかな姿からはうかがい知れない裏の努力であるとか、裏方さんの重要性であるとか、そういったところまで理解してもらった上で来てくれる人でないと、結局は長続きしないのではないかなあと。なのに、表面的な華やかな部分、目立つ部分だけを体験させて「関心を持ってもらおうと思った」でいいのかな ?

その点、物書き稼業というのは見た目も実際も泥臭いものだから、華やかさに惹かれて新人がワラワラと、なんていうことはなさそう。漫画家だと事情が違うかも知れないけれど、その業界のことはよく知らないのでパス。


といったところで話の方向ががらっと変わるけれど、見た目の華やかさだけで判断すると大間違い、というのはウェポン システムの世界にもいえる話かも。その華やかな部分を支える裏方的な部分に、実は "強さ" の秘訣があるかも知れないのだから。

なんて調子で話を進めていくと、普段は地味な裏方を務めている人にもときどきスポットライトを当ててやる方が、士気の高揚につながって組織全体が強くなるのかも知れない、なんてマネジメント的なところまで考えてしまった。ただ、そこのところまで書き始めると長くなるし、話が散らかりそうなので、今回はパス。

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