Opinion : 殱 20 狂想曲 (2011/1/10)
 

例の "中国製ステルス戦闘機" 殱 20 (J-20) の画像が出てきて以来、憶測だの推測だの噂だの論評だのが騒々しいったらありゃしない。そもそも、あれが実用機のプロトタイプなのか、テクノロジー デモンストレーターなのか、というところですら意見が割れているというのに。

さすがに、「PhotoShop で捏造した疑惑」(どこかの国の海水浴場や地下鉄工場ですかそれは) だとか「実はモックアップだった疑惑」は極端だとしても、とにかくブツが空を飛んで見せて、ポジショニングや開発の進捗状況が判明しないことには始まらないわけで。

それなのに、すでに「F-22 に匹敵する」とかいう報道が一人歩きしている感があるのだから、なんだかなあと。ひょっとすると、昔のボマー ギャップとかミサイル ギャップとかいった話が出た時代の空気も、似たようなものだったんだろか。


とりあえず「F-22 に匹敵する」の言い出しっぺに聞いてみたい。それって具体的にどの部分なのかと。
最高速度なのか、加速力なのか、航続性能なのか、超音速巡航速度なのか、搭載量なのか、自重なのか、最大離陸重量なのか、燃料搭載量なのか、バイオ燃料への対応状況なのか、レーダー反射断面積なのか、レーダーの素子数なのか、レーダーの探知能力なのか、コンピュータの数なのか、コンピュータの処理能力なのか、データリンクの伝送能力なのか、センサー融合の対象範囲なのか、マン マシン インターフェイスのデザインなのか、脚収容部扉のギザギザの数なのか、搭載兵装の数なのか、etc, etc。

いかんいかん、調子に乗って羅列しすぎた。それとも、勝手に読者が脳内補完して「F-22 に匹敵する (性能)」と思っているだけで、実は「ステルス性を備えて第五世代と称している」のが「F-22 に匹敵する (位置付け)」というつもりだったんだろうか。だとしたら、紛らわしいったらありゃしない。

同じことは例の「中華イージス」にもいえる話。「実はあの湾曲したプレートの内側に回転式のレーダー アンテナが入っている」というジョークがあるけれども、真面目な話、フェーズド アレイ レーダーが 4 面ついていれば皆イージス艦と同じ、ってわけでもなかろうに (だから個人的には、ミニ イージスというくくり方は嫌い)。
そもそも、本家のイージス戦闘システムからして、ベースラインによって内容や能力に差があるだろうし、ソフトウェアのバージョンによっても以下同文。

結局のところ、外見しか手がかりがないから、それを基にしてあれこれと憶測をめぐらして、「外見が似ているから性能も」とかいう話になっちゃうのかも知れないけれど、それってどうなんだろうと。

もちろん、各国軍の情報担当者は表に出てこない情報を握っている可能性がある。よしんばそうだとしても、それを表沙汰にして、自国の情報収集能力を暴露するような真似はしないだろうし。それならなおのこと、表に出てきている限られた手がかりだけで大騒ぎされても…

と思ったら、似たような話で「フラット トップの水上戦闘艦が出てくると反射的に、V/STOL 空母化という発想につなげる」なんていうのがあったような。だから、外見だけ見て決めるなよと…


念のために書いておくと、殱 20 のことを過大評価しすぎだとかどうとかいう話ではなくて、もうちょっと落ち着いて考えましょうや、という話。これが、「上海協力機構の合同演習に殱 20 が出てきて、DACT をやってロシア空軍の Su-35 を粉砕して見せた」とかいうことなら、また話は別だろうけれど。

特に兵器好きはどうしてもプラットフォーム セントリックなモノの考え方をしてしまうから、個々のプラットフォームの能力に話を持って行こうとしてしまう。けれども、実際にはそれだけじゃなくて、プラットフォームの背後にある組織とか体制とかシステムとかドクトリンとか人材とかいったものも含めて "戦力" たらしめているわけだから、そっちの要素を無視してしまうのはどうかと。

たとえば、殱 20 があれば第二列島線以西への空母戦闘群の進入が困難に… なんて話も出ているけれど、それはあくまで洋上の空母戦闘群の所在を突き止められたら、の話でしょ ? (日本列島や台湾みたいな "不沈空母" ならともかく)。となると、かつてのソ聯における RORSAT やベア D に相当するモノってなに ? という話だって必要だろうし。

それに、新兵器の開発についてこれ見よがしに誇示する傾向、その一方で自国向けの武器禁輸を止めさせようと画策する動き、そういった動きの背景にある事情、といったことの方が、個人的には気になる。

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