Opinion : まず看板、ではなくて、まず能力 (2012/1/16)
 

最近、自衛隊がらみで「島嶼防衛」という話がクローズアップされてきている。それは現実に即していて結構な話だけれども、それについて気になることがひとつ。

「島嶼防衛」というと、基本的には「やってくる敵軍を上げさせない」と「もしも上がってしまったときには奪還する」の 2 種類が考えられる。そして奪還するとなった場合、今度はこちらが上陸を仕掛ける必要が出てくるかも知れない。そこで「上陸作戦なら海兵隊だ」ということで「日本にも海兵隊が必要」という人が出てくる。

えええ、ちょっと待って。陸海空軍とは別に海兵隊と名乗る組織、ないしはそれと同種の組織を持っている国、いったい世界にいくつあるだろう ?

会社でも何でも同じかも知れないけれど、「○○という機能が必要」という話が出たときに、即座に「○○という組織を作ろう」という話になることがある。上の話も、そんな一例なのかなと。


そりゃ確かに、米軍には陸軍とは別に海兵隊があって水陸両用戦の専門部隊として鳴らしている。のだが、その米海兵隊が本格的な敵前上陸作戦を最後にやったのは、いったい何時の話だろう。テレビカメラがゾロゾロと待ちかまえている海浜に上陸したことならあったけれど。

そんな調子だから、「これから先、海兵隊が表芸の上陸作戦をやる機会があるのか ?」なんて話が大真面目に DC 界隈で語られてしまっていて、それが EFV (Expeditionary Fighting Vehicle) 計画をボツにする際の議論にも関わってきた。と、その話は本題ではなくて。

そもそも、米海兵隊が両用戦を表芸にするようになったのは、意外と最近の話ではないかと突っ込んでみる。
個人的には、米陸軍と比べたときの米海兵隊のアドバンテージはむしろ、単独で陸・海・空が揃ったミニ統合軍を構成して、機敏に動ける点にあると思う。そんなゴージャスな海兵隊はアメリカにしかないけれど。

要するに、上陸作戦を必要とする場面があるかも知れない、となったときに必要なのは「上陸作戦に適した装備と訓練を施してある部隊」であって、「上陸作戦という看板を掲げた部隊」ではないということ。前者は結果として後者につながるけれども、逆はどうだろう ?

ここでいう看板とは、組織の看板のこと。そして組織というのは管理や指揮系統に関わる要素だから、指揮系統の面で上陸作戦担当の部隊を独立させておく方が良い、となった場合に組織を分ければいい。いいかえれば、陸軍の中に両用戦に強い部隊を置くだけで済むのであれば、わざわざ独立した「海兵隊」という組織を作る必然性があるかどうか、という話。

まず組織ありきではなくて、まず機能・能力ありき。それをフルに活用するために、組織管理の面で、あるいは指揮系統の面で手を入れる必要があったら組織構成をいじる。その時点で初めて、新しい看板ができる。それが本来の姿ではないのかなあと。


もっとも、組織の看板が精神的な影響力を持つ場合もあるので、そう単純に割り切れないこともある。それだからこそ、カナダ国防軍はいったん廃止した陸軍・海軍・空軍という名称を復活させた。米軍では、歴史と伝統がある部隊を解隊したときに、残された別の部隊に歴史や伝統や部隊名を継承させることがある。隊名だけでなく部隊章やモットーなんかも、昔とまるっきり同じということが多い。

だから、組織の看板もそれはそれで重要なのだけれど、看板だけ整えて機能・能力が伴わないのでは見かけ倒しの本末転倒。まずは所要の機能・能力を整えるのが先決じゃないかと。そこのところだけ、勘違いしないで欲しいなあと思った次第。

これってなにも両用戦に限った話ではなくて、サイバー防衛でも同じこと。
米軍がサイバー コマンドを作ったからって、日本にサイバー幕僚監部が要るかどうかって話で。「アメリカにはああいう組織があるのに、日本にはない」っていう看板先行型で問題視するのは、ちょっと違うんじゃないかなあと。日本側の能力が追いつけてない、っていう形の問題視ならともかく。

P.S.
そういえば、(最近は知らないけど) 自分がいた当時の MSKK というのは、むやみに reorg (re-organization、つまり組織改編) の多い会社だった。別に、組織を作るのが目的で reorg していたわけではなかろうけれど。

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