Opinion : 北朝鮮問題・イラン問題の本筋 (2012/4/9)
 

北朝鮮が「やる」と宣言している「衛星打ち上げ」と、それに対する日本を含めた周辺諸国の反応について、賛否両論に陰謀論まで含めて渦巻いている状況。いやあ、言論の自由が認められている国っていいねえ。

と、それが本題ではなくて。イランの核開発問題にもいえることだけれど、単に「北朝鮮のロケット/ミサイル技術」「イランの核技術」だけの問題として考えるのは違うんじゃないか、という話。しばらく前に Twitter でボソッと書いた話だけれど。


北朝鮮が本当に衛星を打ち上げるつもりなのかどうか、ロケットの尖端部に衛星が入っているのか、それとも衛星のようなものが入っているのか、そこのところは分からない。

ただ、仮に彼の国の発表がすべて真実だとした場合、衛星を打ち上げて軌道に投入できるようなロケットの技術を手中にすれば、それは弾道ミサイル技術の進歩につながるだろう、ということはいいたい。そもそも、弾道ミサイルの技術と SLV (Space Launch Vehicle) の技術は親戚みたいなものなのだから。

現に、弾道ミサイルを転用して作った SLV がいくつもある点に留意されたし。

しかも北朝鮮ときたら、すでにイランなどに弾道ミサイル、あるいは弾道ミサイル関連技術を引き渡している実績がある。また、そのイランで作られた弾道ミサイルや、もっと短射程のロケット兵器がレバノンの Hizbullah、あるいは Gaza Strip の Hamas や PIJ (Palestinan Islamic Jihad) といった組織に引き渡されている状況を念頭に置くべき。

つまり、「北朝鮮がロケット技術を持つことの是非」としてだけ捉えるのは正しくなくて、北朝鮮が手にしたロケット技術の成果が他の国家、あるいは非政府主体に対して出回り、むしろそっちの方で武力衝突やテロにつながる可能性を考慮する必要がある、ということ。

この「当事国のみならず他国にも拡散する可能性」を無視するのは、話の筋を歪めると思う。そういう問題があるからこそ、弾道ミサイル開発を停止するよう圧力をかける必要がある、という話になる。それに、弾道ミサイル技術という貴重な外貨稼ぎの手段ができることは、今の抑圧的・強圧的な政治体制を維持するツールを与えることにもなるのだし。

日本が「自国上空に飛来したら迎撃する」といって実際に PAC-3 やイージス艦を展開させて見せているのも、本当に飛来する可能性云々もさることながら、「弾道ミサイル技術の開発に対して本気で反対しているのだという政治的メッセージ」という狙いの方が強いのではないかと。

もちろん、"本物" を使った探知・追跡の実働演習であるとか、ミサイル防衛システムの構成要素を実際に展開・運用させて指揮統制を行う実働演習といった意味合いもあるだろうけれど。本番に近い条件で実際にやれる機会なんて、そうそうないのだし。


ただ、北朝鮮とイランに共通する重大問題である核兵器開発の場合には、また話が違う。核兵器の保有、あるいは使用に際しての敷居は弾道ミサイルと比べると高いから、たとえばイランが核兵器をものにしたとしても、それをホイホイと Hizbullah なんかに引き渡すとは考えにくい。道義的な問題もさることながら、そもそ切り札の貴重品に対してそんなことしないだろうと。

こちらの場合、むしろ問題になるのは、イランが「核兵器という強力な交渉カード」を手に入れることで、外交交渉に際して横車を押して好き放題できるようになりかねないこと (北朝鮮の瀬戸際外交を見ていればよく分かる)。そして、大量破壊兵器の拡散が進んでしまうこと。

どこの国に対しても十把一絡げにして「A 国に核兵器を持つべきでないというなら、それを主張する B 国も核兵器を持つべきではない」という、一見したところでは筋が通っているように見える主張がある。でも、ことに核兵器という政治性の強い兵器の場合、その国の政治体制がどうなっているか、外交的スタンスがどうか、という視点を無視して、単に権利がどうとかいう話で論じるのはどうかと。

つまり、核兵器を安心して (?) 持たせることができる国なのか、一種の相互信頼が求められる相互確証破壊という考え方が成り立つ相手なのか、という話を無視していいのかと。そこで話を単純化して「持ってよい、持ってはいけない」というだけの話に落とし込むのは、ただの屁理屈じゃないのかなあと、そういう話。

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