Opinion : 金太郎飴車両で何が悪い ? (2012/6/11)
 

先日、Twitter でこんな記事の話が流れてきた。

どうなる ? 鉄道の未来 (おまけ) "金太郎あめ" 車両が、増えた理由

一言でいってしまえば「鉄道事業者に趣味人の好みを押し付けるとは不見識。だから鉄ヲタが嫌がられるとかいう話が出てくるのではないか」という話になるのだけれど。それだけだと 3 段落で話が終わってしまう。もうちょっと、ゴニョゴニョと書いてみようと思う。


そもそも、どうして「金太郎飴」なんてけなされるような規格化・標準化が嫌われるのだろう。複数の鉄道事業者の間で同じ車両を導入したり、ほとんど全面的に、あるいは部分的に仕様を揃えたりした事例は、昔からいろいろある。

たとえば、名鉄 5000 系と長電 2000 系を並べてみれば、このことは一目瞭然。それ以外にも、複数の民鉄で同じ基本設計の車両を入れた事例はいくつもある。なにも、この手の話は昨今に始まったものではない。

それに、他所の業界に目を向けてみれば、民間航空界は基本的にレディメイドで、外部塗装やエンジン、あるいは内装のデザイン・配置、あるいはその他の細々した仕様が違うぐらい。JAL と ANA と JAS がお揃いで B.777 を投入したときに、「金太郎飴」なんて文句をいった人がいただろうか。

程度の差はあれ、バス業界も似たようなものではないかと思うことがある。いやそもそも、鉄道業界でも三セク向け軽快機動車は、昔からレディメイドといっていいのではないか ? あちこちの路線で同じ車両が走ってますよ ?

同じ水準の輸送サービスを提供できるのであれば、できるだけ低コストで済む方が好ましいわけで、それなら規格化・標準化によるコスト低減効果は無視できない。結果として運賃値上げの抑制にもつながるのだし。
それに、日常的に利用する沿線住民にしてみれば、新しくて快適な車両の方がいいに決まっている。古い車両が入り乱れた雑多な状態を喜ぶのは、それが趣味人だから。ではないのかな ?

もちろん、意図的に「客寄せパンダ」として古い車両を維持しているひたちなか海浜鉄道、あるいは買い入れているいすみ鉄道という事例はある。ただし両社とも首都圏内であって、「それによって相応の集客が見込める」とソロバンを弾ける状況にあることは無視できない。具体的に名前を出してしまって申し訳ないけれども、同じキハ 52 でも、JR 西日本から買い入れたのが津軽鉄道や秋田内陸縦貫鉄道だったら、どうだっただろう ?

ついでに書くならば、件の記事で「独自性」の例として挙げられていた東京メトロ銀座線 1000 系。そもそも銀座線は規格が特殊でオリジナル車両を作らざるを得ないのだし、それと規格化・標準化が可能な路線を一緒くたに議論するのは無理があると思う。

東京メトロの中の人だって、できれば規格化・標準化によって安価に済ませたいと考えるのが自然なのでは ? それが結局のところ、利用者のためでもあるのだし。もしも今後、丸ノ内線の車両をリプレースするようなことになれば、1000 系で開発した機器やシステムを最大限に活用するのが自然な成り行きではないかと思う。


結局のところ、だいぶ前にどこかで書いた話に通じるのだけれど、「趣味的に面白いこと」と「経営的に正しいこと」「沿線のフツーの利用者にとって正しいこと」が合致していない、という話。

そして、どれを優先すべきかはいうまでもないこと。一発モノのイベントよりも日常的なインカムを増やす方が経営が安定するものだし、その日常的なインカムに貢献するのが誰か、と考えれば。

とどのつまり、これは「過去にはたいていの民鉄で、こだわりを発揮した自社発注車を使っていたのに、今はそれが減っている」という、一種の既得権のようなものを巡る話なのではないかと。

ついでに余計なことを書くならば、戦闘機や戦車や軍艦だって、さまざまなタイプが入り乱れているよりも単一の種類で揃っている方が合理的だけれども、趣味的には面白くない。
なんて書くと「単一機種で統一していると、それが使えなくなったときに総倒れになって云々」という人が出てくるのはお約束。でも、戦闘機の機種が統一されている国で軒並み、空の護りがガタガタになっているのか。せめてそれを具体的な数字データで出して欲しいものである。

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