Opinion : 経験の積み重ね (2013/1/7)
 

自分は基本的に、カメラで撮るものというと「鉄道」とか「飛行機」とか「軍艦」とかいう金属物体ばかりで、ポートレートや風景写真とは縁が薄い。それでもたまに例外が発生することがあって、調布市花火大会に合わせて、花火の撮影をやったことも。

調布市花火大会の撮影は昨年で 3 回目。その前には三脚を持っていなかったので、手持ちで挑戦して玉砕したけれど、昨年の首尾はまあまあ。ただ、写真撮影ではよくあることながら、事前の検討でレンズの選択や諸元の設定を決めていたし、撮影場所は前回にも使ったことがあって勝手が分かっていた。だから、事前の計算であらかた「勝負はついていた」ように思える。

なにも花火に限った話ではなくて、鉄道写真でも同様。初めて行った場所でアドリブ的に撮るときよりも、過去に何回も来ている場所で撮るときの方が外れが少ない。これも花火と同じで、事前の準備や計算ができるから。


さらに話を広げると、旅行でもドライブでも取材でも何でも、経験やデータの蓄積は大事。大成功するかどうかは運次第の部分があるものの、少なくとも失敗を減らして歩留まりを上げることはできる。

そういえば、ヒマラヤ登山について「先人の経験や失敗の上に乗ることで、後からチャレンジする者の成功につなげることができる」という趣旨のことを書いている人がいた。これもおそらく、根底にあるものは同じ。自分はどちらかというとやらない部類に属するけれど、料理も一緒じゃないかなあ ?

趣味でやっていることであれば「失敗もネタのうち」といえることがあるかもしれないけれど、仕事でそんな言い訳はできない。だから、仕事で歩留まりを上げる、少なくとも (大成功するかどうかはともかく) 極端な大失敗をしないようにするには、過去の経験や教訓をその後に活かすとか、データを蓄積して引き出しを増やすとかいった話が大事。

案外と、プロとアマの違いはその辺にあるんじゃないかと思うこともある。プロのプロたる所以は、「自分がやっているのはビジネスである」という自覚、あるいは「スケジュールの順守」という話だけではなくて、「歩留まりの良さ・極端な外れの少なさ」にもあるんじゃないかと。

もちろん、これは自戒を込めて書いている部分もあるわけで…
もっとも自分の場合、「確実にいける仕事」「頑張ればいける仕事」はともかく、「それは無理筋ですという仕事」は基本的にお断りすることが多いので、その時点で歩留まりが上がっている部分はあるかも。無理して請けても相手に迷惑をかけてしまうし。


そんなこんなで何をいいたいのかといえば、「新しい強力な、高性能な装備を持ち込んでも、それだけでは不十分。最終的には、過去の経験やデータの蓄積がものをいうのではないか」という話。
いきなりドカンとブレークスルーが発生することが皆無だとはいわないにしても、確実性を求めるのであれば、経験やデータをどれだけ積み上げてきたのかが大事じゃないのかと。

だから、たとえば将来個人用戦闘装備の情報システムなんていうのは、いきなり完璧なものを目指すよりも、まず基本的な機能を実装してどんどん使ってみて、運用経験を蓄積しながら段階的に改良していく方が良くないか、と思う次第。

そういえば、中華空母の「遼寧」。もちろん、空母の運用ノウハウなんて何も持ち合わせていない国だから、イチから構築していかないといけない。それに関連して「あの国なら犠牲者をたくさん出してもお構いなしにやるだろうから、米海軍よりずっと早くノウハウを手に入れるのでは」なんて煽っている人がいる様子。

でも、発着艦や飛行甲板上でのハンドリングについてはそうかもしれないけれど、訓練シラバスの構築であるとか、組織作りであるとか、単に人命をすりつぶせば解決するとはいえない種類の話だってあるだろうに。そしていうまでもなく、実戦の中で空母という装備体系をいかにして機能させるか、活用するか、といった話もしかり。こればかりは、実戦で空母を使った経験がないとデータが手に入らない。

いくら何でも、「実戦における空母運用に関するデータを集めるために近隣諸国に戦争を仕掛けよう」というほど中国の指導部、あるいは解放軍がトチ狂っているとは思わないけれども、そこのところについて前述の論者は、どう考えてるんだろうかと。

以前からあちこちで話したり書いたりしている「運用ノウハウの獲得」って、そういう意味の話。単なる発着艦の話ではなくて。

「フネの上から戦闘機の発着ができる」ということと「洋上航空戦力を実現する」ということの間には、意外と大きなギャップがあると思うのだけれど。そして、それを埋めるのは経験やデータの蓄積しかないわけで、それができない限りは、歩留まりはぐっと下がるのでは。

それでも無視できない脅威である、と見なさざるを得ない国があることは承知しているけれども、煽り過ぎもどうかと思い、あえて釘を刺すようなことを書いてみる次第。

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