Opinion : シリア情勢に関する反応に関する雑感 (2013/9/9)
 

土壇場に来てイギリスは「議会否決」、これまでもっとも強硬だと思われていたフランスもヘタレて、アメリカはハシゴを外されたような格好になりかかっている対シリア軍事行動。

ただしなんにしても、どこの国も現政権を潰すところまでやるつもりがないのは明白で、blog でも書いたように「化学兵器使用に対する懲罰」以上の意味はなさそう。

ただ、「政府軍は化学兵器を使用していない」という立場をとるロシアからすれば、軍事行動を容認すれば「政府軍は化学兵器を使用していない」という立場が崩壊するし、メンツの問題もあるから容認できないだろうけれど。


この手の事件があると、軍事問題に関心がある向きは基本的に「何が展開して何を使うのか」という話に注目するもの。それが無意味だなんていわないけれども、軍事力行使というのは何某かの政治的目的を達成するために行うものだと考えれば、それだけでいいのかなあ、と思ってみたりして。

単に「何を使うか」だけではなくて、「それによって、どの程度の効果を見込めるか」。これ重要。

最近、業界では OIF (Operation Iraqi Freedom) の頃みたいな "effects-based operaion" なんて言葉をあまり使わなくなったけれども、軍事力行使で大事なのは、それによって何を達成できるか (あるいはできないか)。打撃を与えることも重要ながら、それによってどういう効果をもたらすかも同じぐらい重要。効果だけ気にして打撃を無視するのは問題があるにしても。

ここでいう達成というのは、目標をどれだけ破壊したかという話だけではなくて、それによって相手の戦略的目標達成を阻止できるかどうかという話も含む。いくら相手が大損害を出しても、戦略目標を達成してしまったのでは、その交戦が成功だった、勝ち戦だったとはいえない。

そういえば、一般に「日本軍の負け戦」と評されている交戦を引き合いに出して「敵軍の損害の方が多かったから、日本軍の負けというのは間違い」と主張する言説がときどき出てくるけれど、そりゃ論点がずれてる。ノモンハンとかノモンハンとかノモンハンとか。

軍事の世界に関心を持つ趣味人って、(自分も含めて) 基本的にはメカ好き、ハード好きの部分が多い。だから、「何が使われるか」というところに関心が行ってしまうのは致し方ない部分もある。でも、それなら「軍事マニア」というより「兵器マニア」である。

だからといって「人殺しの道具に関心を持って趣味の対象にするなんて怪しからん」と吹き上がるのも、それはそれでどうかと思わざるを得ないけれども。ただ、それに対する反論で「大好きな兵器が破壊されるのは見たくないので、兵器マニアは戦争嫌い」という言説が出てくると、それもなんだか疑わしいと思う。シリア情勢に対する反応なんかを見ていると。


そういえば、自国の軍事力の強大さを見せつけて威圧しようとする狙いなのか、「我が国の装備はこんなに強い」「某国の装備は我が国のと比べてこんなにダメ」といった話を次々に垂れ流す国がある。

それを市井の軍事マニア・兵器マニアがいうなら笑い話で、いちいち反応したり「論破」しに行ったりする必要はなし。たいていの場合、都合のいいポイントだけフィーチャーしたり、単なる個別のスペック比較に終始したりしているわけだから。

ただ、似たようなことを国が先頭に立って、政府や軍の関係者が公式な立場で発言してみたり、国営メディアでその手の話を流してみたりするようになれば、そこにはなにかしらの政治的意図があると考えてみてもいいのでは。そこで問題にすべきは、言説の内容ではなくて対象と背景。

いちいち具体例を挙げ始めるとキリがないからやらないけれども、「軍事マニア」を標榜するのであれば、そういうところまで頭をひねってみると、面白い頭の体操になると思う。先日にも書いたけれど、公式発表の字面を真に受けるだけが能じゃあない。

シリアの件にしても、報じられている話、当事者が発言している話を真に受けるだけでなく、意図的に違うシナリオをいろいろ仮定してみると良いと思う。ときには裏読みも楽しいものである。「必ず裏読みしなければならない」となってしまうと、「公式発表は真実」と同じ罠にはまるけれど。

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