Opinion : 国家安全保障戦略の次は防衛産業戦略が必要 (2013/12/23)
 

先日、「国家安全保障戦略」「防衛計画の大綱」「中期防衛力整備計画」の閣議決定があった。いずれも防衛省の Web サイトで公開しているので、早速ダウンロードして読んでみた。

しつこく書いているように、まず「国家安全保障戦略」があって、それで初めて、どういう装備をどれだけ、という話ができる。だから、「大綱」や「中期防」を読む前に、まず「安全保障戦略」を読まないと、どういう考えの下で「大綱」や「中期防」の内容が決まったのかが分からなくなってしまうのである。

もちろん、理想通りの陣容や数を整えられるとは限らず、そこでは手持ちのリソース (有り体にいえばカネ) との兼ね合いから、優先順位をつけないといけない部分も出てくる。それは仕方ない。どこの国でも直面している問題。

そもそも脅威認定の部分ですでに、優先順位をつけるのは不可欠の課題。たとえばの話、自国の周囲に複数の仮想敵国があって、でも、そのすべてに同時に対処するだけのリソースはないという状況に置かれた場合。そこでは当然、優先順位をつけて、もっとも重視すべき脅威に対して、可能な限り多くのリソースを振り向けるべき。

それ以外については、最小限にとどめるとか、脅威の度合を低減する工夫を模索するとか、他の誰かさんに牽制してもらうとか、なにがしかの回避策を講じる必要がある。二正面作戦だって「愚策」といわれることが多いのに、さらに四方八方に手を広げて多正面作戦になれば、自滅への道をまっしぐら。

で。国家安全保障戦略で「中国」「北朝鮮」を二大脅威に認定、前者については海・空戦力を重視して対処するという話になったわけで、これは個人的にも首肯できるところ。それはそれとして、この後にもうひとつ、策定しないといけないものがあるんじゃないかと思う。


それは何かといえば、「防衛産業戦略」。もちろん、「どういう脅威があって、それに対してどう対処するか」という安全保障戦略が先にあり、そのサブセットとして、対処の手段を生み出すツールのひとつである防衛産業戦略がついてくるわけで、この順番があべこべになっては困る。

だから、国家安全保障戦略が先行したのは当然の話。でも、それで終わりにされては困る。何年も前から、日本の防衛産業について「今のままではまずい、従来のやり方を続けていていいのか」という議論は出ているわけだし。そこで出てくるのは、やはり「優先順位」の問題。「自国の防衛に必要な装備はすべて自国で開発・製造する」は理想ながら、それは現実的にいって無理。

それにまつわる個人的な意見、つまり「日本が強みを発揮できる分野をキチッと育てた上で、それを武器に共同開発路線に行くべき」という話は、過去にもあちこちで書いてきた。

となると不可避の問題は、自国で維持・育成すべき分野をどう選ぶか。しつこいけれども、すべてを護ろうとすればすべてを失う事態はおそらく不可避。だから、過去の実績や、現場あるいは諸外国からの評価に基づいて、「維持するだけの価値がある分野」と「そうでない分野」を容赦なく峻別しないといけない。

そもそも、国内で開発・製造していれば、それ「だけ」で安心、という問題じゃない。折から、機関銃にまつわるデータ改竄騒動が起きているけれども、そういう真似をしでかすメーカーで国産化しているのと海外メーカーの製品を輸入するのと、どっちがいいんですか。という議論があってもいいのではないか。

正直いって、こんなことまで書きたくはなかった。でも、書かないといけないとも思う。最終的に迷惑するのは現場と国民なのだから。


以前にも書いたような気がするけれど、日本の業界関係者が海外の同業者と話をすると「でも、日本の製品は実戦経験がないし…」といわれてしまうのが現実。それはある意味、幸福なことであるけれども、「使える装備品を確実にものにする」という観点からすると、また違った見え方がする話でもある。

そこで「じゃあ、使ってくれそうな国に輸出しよう」という人が出てくるかも知れないけれど、それは業界の、というより国の姿勢としてどうかと。むしろ、実戦経験の有無が決定的な要素にならない分野、つまり素材やコンポーネントから食い込んで実績と信頼を勝ち得ていくのが現実的、という話も、以前に書いた。

それもまた、「選択と集中」の問題であり、「優先順位付け」の問題でもある。身を切られるように辛い判断を強いられる場面も出てくるだろうけれど、そこであやふやな決着、どっちつかずの意志決定をすれば、後々、ツケに高い利息を付けて支払わされることになりはしないだろうか。

幸い、「安全保障戦略」で実情に即した方向性を打ち出すことができたのだから、この勢いは止めたくない。辛い決断をする一方で、維持すべき分野を絞り込んで人・モノ・カネを集中的につぎ込む戦略を打ち出すぐらいのことをしないと、日本の防衛産業、総崩れになりはしないかと心配になる。

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